避難所のマンホールトイレ、5年で倍増4万基…阪神大震災教訓に整備加速

高齢者ら「快適に利用」

 避難所の敷地の地下にトイレ用のマンホールを作り、災害時にふたを開けて使う「マンホールトイレ」の整備が近年、加速している。阪神大震災時、断水で水洗トイレが各地で使えなくなった教訓から誕生。東日本大震災や熊本地震で活用され、注目が高まった。最近5年間では全国で2倍の約4万基に増えた。「阪神」の反省が「東日本」「熊本」へとつながり、将来の災害に生かされようとしている。(平井宏一郎)

断水で使えず

 1995年の阪神大震災直後、兵庫県内では約130万戸が断水し、復旧に時間がかかった。神戸市では仮設トイレの備蓄はなく、くみ取り車は5台しか使えなかった。全国から仮設トイレやくみ取り車が送られたが、渋滞や道路の寸断で届くのが遅れた。飲食を控え、排せつを我慢して体調を崩す人が相次いだ。

 教訓を踏まえ、神戸市と積水化学工業が共同で震災の2年後にマンホールトイレを開発した。学校や公民館といった避難場所の敷地やその周辺の地下にマンホールと排水管を整備し、既存の下水管につなぐ。

 ふたを開け、備蓄品の簡易テント、便座を置くだけですぐ使える。転落防止のため、穴は小さい。排せつ物はプールや貯水槽の水などで定期的に下水道へ流す。

 工事現場にあるような仮設トイレは、かさばって保管しにくい上、くみ取りが必要だ。段差があるのが普通で高齢者らは利用しにくい。こうした欠点が改善された。

国が半額助成

 神戸市は2006年度までに、地域防災計画に示した全58か所290基の整備を完了。費用は1か所あたり1000万円程度かかる。06年度から国土交通省が整備費を50%助成して導入を促し、徐々に広がった。11年の東日本大震災では宮城県東松島市で活用された。高齢者や車いすの人から「快適に利用できた」と好評だったという。

 15年度時点では全国で約2万基だったが、16年3月に国が自治体向けにマンホールトイレの整備指針を策定したことや、16年4月の熊本地震で熊本市の避難所4か所で設置され、注目されたのを機に整備が加速。5年後の20年度には3万9000基とほぼ倍増した。21年度はさらに進み、585の市区町村や広域組合が計約4万2000基の整備を終えた。

 災害以外で活用された例もある。南海トラフ地震対策で整備を進めていた和歌山市は21年10月、水道橋の一部が崩落して6万世帯が断水した際、7か所に80基を設置。多くの市民が利用した。

携帯用も準備を

 国交省によると、避難所でのトイレの必要数は、過去の主な災害の実績から避難者50〜100人につき1基が目安という。

 神戸市は、阪神大震災と同程度の約20万人の避難者が出る地震を想定し、マンホールトイレのほか、簡易トイレも含めて計800基を避難所に配備した。発生後は、企業などからさらに1200基を調達し、「100人あたり1基」を満たす計画だ。担当者は「災害時のトイレの大切さは震災で得た教訓。あの時のような混乱が起きないようにしたい」と強調する。

 NPO法人「日本トイレ研究所」(東京)の加藤篤代表理事は「災害時のトイレ対策は自治体によって取り組みの温度差が大きい。便利なマンホールトイレを柱に、複数の災害用トイレを組み合わせた対策を全国的に進める必要がある。市民も携帯用トイレを数日分備蓄してほしい」と話す。