ネットから消えない「デジタルタトゥー」……軽率なワンクリックが人生を壊す

 「デジタルタトゥー」。直訳すると「電子的な入れ墨」という意味だが、インターネット上に一度投稿されたログ(記録)はまるでタトゥーのように消えることがなく、半永久的に残り続けることを表す造語だ。軽い気持ちで投稿した記述や画像が、膨大な数のネットユーザーに“まとめ”られ、瞬く間に拡散される……。不本意な投稿が残り続けるのが、デジタルタトゥーなのだ。軽率なワンクリックで人生を台無しにしてしまうこともある。便利なネット社会はまさに危険と隣り合わせともいえ、専門家はユーザーに警鐘を鳴らしている。(桑村朋)
いまだ消えない線路侵入画像
yd_net.jpg いまだにインターネット上から消えない線路侵入画像。「デジタルタトゥー」という造語も登場するなど、軽率な行動と安易な投稿は半永久的に消えない現状が、ネット社会の現実でもある(一部画像処理しています)
 デジタルタトゥーの概念が唱えられたのは平成25年2月。米カリフォルニア州で開かれたさまざまな分野の専門家らが集まる大規模な講演会「TEDカンファレンス」で、ベンチャー企業の役員が「人間は不死になった」との表現でこの造語を紹介した。
 ヤフーやグーグルなど検索エンジンの検索履歴やサイトの閲覧先、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)の位置情報や顔認識データ-。ユーザーの思考回路や行動がネットに記録され、そのデータは書き込んだユーザーが死んだ後も生き続ける“不死”の状態になるという。
 大阪、神戸の市営地下鉄では25年夏、高校生の少年らが線路内に立ち入り、ピースサインをして楽しんでいる写真を短文投稿サイト「ツイッター」にアップして物議を醸した。少年らは当然、顔にモザイクなどかけておらず、ネットユーザーが投稿者の顔や名前からすぐに身元を“特定”。少年らの個人情報は一瞬にしてネット上にさらされた。
 地下鉄を運営する市交通局は「運行に支障があったわけではないが、非常に腹立たしい」などと憤慨し、警察に通報。少年らはその後、鉄道営業法違反などの非行事実で家裁送致されてしまった。
目に余る幼稚な投稿、休業に追い込まれる店も
 このように、近年は少年らによるSNSやネット掲示板への軽はずみな投稿が目立っている。コンビニで客の男がアイス用冷蔵庫に入り、自身の姿を撮った写真を投稿。「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン」では、複数の男子大学生が裸になってジェットコースターに乗る迷惑行為。他にも集団の男性客が全裸で席に座り、その写真を投稿……。
 目に余る悪質な行為は、休業に追い込まれる店も出した。悪質な行為をした投稿者らが威力業務妨害容疑で書類送検されたケースもあり、ある捜査関係者は「今や誰でも手軽に画像や動画を公開できる時代。ネット世界と現実世界の区別がつかず、やってはいけないことの線引きがつけられないのではないか」と嘆く。
 投稿した記述や画像は半年以上たった今でもネット上で拡散されている。それらは膨大な数のまとめサイトや個人ブログに広がり、消しても消してもネット上から消し去ることはできない。
 少年たちは若気の至りから軽はずみな行動に出たのかもしれない。彼らの心には深い傷が残り、社会にも迷惑をかけるだけの結果となった。
1つの間違いが人生奪う……デジタルタトゥーの怖さ
 「ネットユーザーは、1つ行動を間違えれば人生を失いかねない」
 そう警告するのは兵庫県情報セキュリティーサポーターの篠原嘉一さん(53)だ。自身の投稿に注意するのは当然の自衛策だが、SNSに入力した住所、氏名、連絡先、勤務先などの個人情報は、設定次第では“誰でも”閲覧可能。裏返せば犯罪組織も見ることができ、事件に巻き込まれる危険もあると指摘する。
 SNSでは、投稿した場所が「~町付近」といった具合で公開される。スマートフォン(高機能携帯電話)ならGPS(衛星利用測位システム)機能で位置情報が分かる。パソコンでも通信事業者から与えられるネット上の住所「IPアドレス」で大まかな位置が分かるという。
 もしそれが自宅であれば、住所が漏れる。知人が投稿した画像に自身の顔が掲載され、それが顔認識(タグ付け)されてしまえば…。自ら個人情報を大公開しているのと同じだ。
 特定されると、誹謗(ひぼう)中傷を受けたり、自分になりすまして犯罪に利用されたりする恐れもある。篠原さんは「投稿した記述や画像は瞬時にまとめられ、それがだんだんと集約されると特定につながる。データは半永久的に消えず、投稿者は心に傷を負う」と話す。
子供が知らぬ間に犯罪に
 ネットの危険にさらされるのは、大人だけではない。篠原さんによると、兵庫県内のある小学校で、児童が無線LANルーターを持ち込み、10人の児童が悪質サイトを見抜くフィルタリング機能がない端末を使い、どんなサイトも「見放題」の状況でネットを楽しんでいたという。
 「子供はネットの怖さを知らず、好奇心に任せて悪ふざけをした投稿をしてしまう」と篠原さんは警告する。「まずは親がネットを十分に理解してその危険性を子供に伝えなければ、子供が知らぬ間に犯罪に巻き込まれかねない」と話す。
 学校に教育用のタブレット端末を導入する自治体が増えるなど、ネットが欠かせないツールとなっている現代社会。篠原さんは「デジタルタトゥーの根深さは深刻。もはやネットに匿名性などない。事件が起きた後で後悔しても、遅いんです」と警鐘を鳴らしている。

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Posted by takahashi