日本人がいよいよ「絶滅危惧種」になる…多くの人が誤解している「人口減少」の本当の危機

国立社会保障・人口問題研究所が最新の将来推計人口を発表し、大きな話題になっている。50年後の2070年には総人口が約8700万人、100年後の2120年には5000万人を割るという。 【写真】恐怖…日本の総人口が2000人になる未来予測!  ただ、多くの人が「人口減少日本で何が起こるのか」を本当の意味では理解していない。  各業種・職種に何が起こるのか? ベストセラー『未来の年表 業界大変化 瀬戸際の日本で起きること』は、製造・金融・自動車・物流・医療などの各業界で起きることを可視化し、人口減少を克服するための方策を明確に示した1冊だ。

人口の未来は「予測ではない」

 人口減少はビジネスやそれを支える公共サービスにさまざまな変化をもたらすが、雇用制度や労働生産性への影響はとりわけ多大だ。  例えば、年功序列や終身雇用といった日本特有の労働慣行だ。すでに崩壊し始めているが、これらはやがて続かなくなるだろう。定年などで退職する人数と同等か、それ以上の採用が安定的に続くことを前提としているからである。  年功序列の崩壊は、雇用流動化を促し、終身雇用も終わらせる。人口減少のようなメガトン級の激変の到来で、どんな企業も将来が安泰とは限らなくなった。企業は人々を支え切る存在ではなくなったことを認識する必要がある。  実は、人口の未来は予測ではない。「過去」の出生状況の投影である。  この1年間に生まれた子供の数をカウントすれば、20年後の20歳、30年後の30歳の人数はほぼ確実に言い当てられる。例えば新規学卒者が今後どれくらい減っていくのか確かめてみよう。

少子化がもたらす最大の弊害

 大多数は高校や専門学校、大学を卒業する20歳前後で社会人になる。そこで20年後の「20代前半」が現在と比べてどれくらいの水準になるかを計算してみる。  厚生労働省の人口動態統計で2021年時点における「20代前半」を計算することが可能だ。該当するのは1997~2001年生まれなので、この5年間の出生数を合計すると593万3690人となる。一方、2021年の「0~4歳(=20年後に20代前半となる人たち)」である2017~2021年生まれは438万2242人である。両者を比べると20年後には、「20代前半」が26.1%も少なくなる。  多くの会社は何年も先まで見越して人事計画を立てる。わずか20年で新規学卒者が4分の3になったのでは計画を見直さざるを得なくなるだろう。短期間でここまで減ると、大企業や人気業種であっても求める人材を十分に採用できなくなるところが出てくる可能性がある。  これほどの若年世代の減少が待っているのに、年功序列や終身雇用を無理に続けようと単純に定年年齢を引き上げたならば、若手に閉塞感が広がる。  新規学卒者採用が減れば組織は新風が吹き込みづらくなり、マンネリズムに支配されることにもなる。少子化がもたらす最大の弊害は、各所で若い世代が極端に少ない状況が常態化し、社会や組織の勢い(=活力)が削がれることである。同じようなメンバーで議論を重ねていても、似たようなアイデアしか出てこない。  日本経済に新たな成長分野がなかなか誕生しなくなったことと、少子高齢化は決して無関係ではないのだ。

2050年、消費者の4割が高齢者に

 多くの企業経営者にとって関心が大きいのはマーケット縮小の行方だろう。日本は加工貿易国とされるが、実態は内需依存度の高い国だ。国内マーケットの縮小がそのまま経営上の打撃となる企業は少なくない。  だが、どう縮小するのかを具体的に理解している人は案外少ないのではないだろうか。消費者の実数が減る以上に消費力が衰える「ダブルの縮小」が起こるのだ。  人口は少子高齢化しながら減っていくためだ。国立社会保障・人口問題研究所(社人研)の推計によれば子供(15歳未満)や勤労世代(20~64歳)などは減るのに、65歳以上の高齢者数だけは2042年まで増え続ける。  しかも高齢化のスピードは速い。高齢化率(総人口に占める高齢者の割合)は2022年9月15日現在で29.1%に達しているが、2050年代には38%程度にまで上昇する。  子供を除いた消費者の4割が高齢者になるマーケットとはどんな姿だろうか。高齢消費者の実態を考えてみよう。  高齢になると、一般的に現役時代に比べて収入が少なくなるが、一方で「人生100年」と言われるほど超長寿時代となり、いつまで続くか分からない老後への不安は募るばかりだ。医療や介護にどれだけ費用がかかるか予想がつかないため、気前よくお金を使うわけにもいかない。  若い頃に比べて消費する量は減り、住宅取得やマイカーの買い替えといった「大きな買い物」の必要性も乏しくなる。80代にもなれば生活圏は狭くなり、外出率自体が低くなる。社人研の推計では2040年の80歳以上人口は1578万人で、総人口の14・2%を占めるようになる。

少子化対策では人口減少は止まらない

 ここまで人口減少がビジネスシーンに与える影響の一端をご紹介してきた。  だが、社会の激変が始まっているにもかかわらず日本人の多くは泰平の眠りに就いている。対策を講じようとする動きもないわけではないが、過去の延長線に未来を描き、現状維持を図ろうとする企業や行政機関が圧倒的だ。  それどころか、認識のずれや周回遅れの取り組みも目立つ。いまだに人口減少対策というと、「少子化対策の強化」を持ち出す政治家や経済団体の幹部は少なくない。  だが、子供を産むことのできる年齢の女性数が減っていくため、少子化対策を強化しても出生数の回復は簡単には見込めない。もはや少子化対策では、人口減少のスピードをほんのわずか遅らせることぐらいしかできないのである。  人手不足対策もそうだ。その原因を一時的な景気過熱に求める人がなくならないことには頭を抱えるが、外国人労働者の大規模受け入れをすれば何とかなるという主張にもついていけない。

外国人労働者を増やす手もあるが……

 もちろん、外国人労働者の受け入れ拡大も対策の選択肢の1つではある。だが、日本の勤労世代の目減りを解消するには、どこの国からどれくらいの人数を当て込めばいいのか精緻で具体的な計画が不可欠だ。  日本の勤労世代は2040年までに1400万人ほど減る。そのすべてを外国人労働者で補おうというのなら土台無理な話である。  外国人労働者に対する需要は日本以外の国々でも大きくなっている。すでに介護職など専門性の高い職種で他国に競り負けるケースが報告されている。  こうした点を踏まえず、「受け入れ基準を緩和すれば、外国人労働者が増えるはずだ」などと願望に近い言葉を繰り返していても始まらない。日本は就業者が減ることを前提として解決策を考えざるを得ない。

瀬戸際の日本が取り組むべきこと

 これからマーケットが大幅に縮小していく。人口が増え、若者が多かった時代の成功体験にすがっていてもうまくいくはずがない。  繰り返すが、いま取り組むべきは、過去の成功体験や現状維持バイアスを捨て去り、人口が減り、出生数が少なくなっていくことを前提として、それでも経済を成長させ得る策を編み出すことである。日本はかなり追い詰められ、瀬戸際にある──。  過去の成功体験や現状維持バイアスを捨て去るには、まずは人口減少がもたらす弊害を正しく知ることだ。

ノウハウ

Posted by takahashi