KDDIの“禁断のアプリ” 「Skype au」の正体

 KDDIの田中孝司専務が10月4日の製品発表会で“禁断のアプリ”と予告し話題をさらった新サービス。18日の発表でKDDIはインターネット電話サービスのスカイプ・テクノロジーズ(ルクセンブルク)と提携し、KDDIのスマートフォン向けに専用の通話ソフト「Skype au」を提供することを明らかにした。
提携を発表するKDDIの田中孝司専務(右)とスカイプ・テクノロジーズのエイドリアン・ディロン最高経営責任者(CEO)
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提携を発表するKDDIの田中孝司専務(右)とスカイプ・テクノロジーズのエイドリアン・ディロン最高経営責任者(CEO)
 料金の詳細は未定だが、「基本的に無料を前提に考えている」(田中専務)。ユーザーからの契約当たり月間平均収入(ARPU)を高めようとする通信事業者にとって、収入を減らしかねないスカイプのサービスはまさに“禁断”だった。それでもスカイプと提携するKDDIの狙いはどこにあるのか。
回線交換網を使い携帯電話並みの通信品質
 Skypeはインストールしたパソコン同士で電話やテキストメッセージの送受信、データファイルの共有などが原則無料で利用できるソフトウエア。音声通話をする場合、インターネットを通じてインターネットプロトコルに変換した音声データをやり取りするのが一般的だ。最近では米アップルのスマートフォン「iPhone」や米グーグルのスマートフォン向けOS「Android(アンドロイド)」対応のSkypeアプリが配布されている。
 今回の提携によりKDDIは、まずスマートフォン「IS01」と「IS03」にSkype auを提供する。以後KDDIのすべてのアンドロイド搭載のスマートフォンに展開し、11年にはスマートフォンではない従来型の携帯電話まで対象を広げるという。
 通常のスマートフォン向けSkypeとSkype auの違いは大きく二つある。一つは音声を携帯電話網で接続し、携帯電話並みの通話品質を確保するところ。インターネットを使う通常のSkypeでは、ネットワーク内の遅延やふくそうなどの影響を受けやすく通話品質が悪くなる場合がある。
Skype auについて説明するスカイプジャパンの岩田真一社長
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Skype auについて説明するスカイプジャパンの岩田真一社長
 もう一つは、Skype auがシンクライアント型のアプリケーションであるところ。スカイプジャパンの岩田真一社長は「SkypeのP2Pのロジックはサーバーで動いている」と表現する。従来のSkypeアプリが持つ端末同士をIPネットワークで接続する機能などはサーバー側に置く。このため、通常のフルクライアント型のSkypeに比べ、端末内のCPU(中央演算処理装置)使用率を抑えられ電池の持ち時間も長くなるという。
KDDIとスカイプ双方のメリットが合致
 スカイプは同様のサービスを、英国の携帯電話事業者3UKと米国のベライゾン・ワイヤレスにも提供している。情報通信総合研究所のマーケティング・ソリューション研究グループの武田まゆみ研究員は「ベライゾンはスカイプのユーザー間の通話料は無料でも、音声通話プランに契約することは必須にしている」という。日本の通信事業者でも一部のユーザー間の通話を無料にするサービスを提供しているように、「音声プランからの基本料収入を確保しつつユーザー獲得を狙うという戦略があるのでは」と推測する。
 武田研究員は、スカイプ側のメリットについて、「Skypeはパソコン同士で無料で通話できるが、通信に詳しい人でないと利用しづらいものだった。スカイプは携帯電話事業者と組むことで彼らを販売チャネルに使おうとしているのではないか」と語る。
 実は今回のKDDIとスカイプの提携は携帯電話にとどまらず、KDDIが提供する固定通信やCATVなど他の通信サービスも含む包括的な提携であるという。多様な通信インフラを抱えるKDDIにとって、通話機能を提供できるSkypeは有益なアプリケーションとして映ったようだ。
 今後両社は詳細を詰め、サービスの内容や料金の詳細を11月に発表するという。ただしスカイプのアプリケーションから固定電話網や携帯電話網に発信する「スカイプアウト」については、海外への発信に限定し「国内向けには提供しない」(岩田社長)という。“禁断”の度合いがどの程度なのか分かるまでもう少し時間がかかりそうだ。
(電子報道部 松本敏明)

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Posted by takahashi