生活防衛のためなら、なりふり構わない!? 冬商戦をさらに寒くする「超節約族」の日常生活

景気の腰折れ不安がなかなか払拭されないなか、企業が迎えた冬商戦。今年の消費者は、いつになく生活防衛の意識が高まっている。彼らがそっぽを向く市場もあれば、特別な宣伝をしなくても大量に集まってくる市場もある。その違いはどこにあるのか? 巷に溢れる「超節約族」の日常をリサーチしたところ、不況をきっかけとして、消費者の意識そのものが次のフェーズへ移りつつある現実が、垣間見えてきた。(取材・文/友清 哲、協力/プレスラボ)
今年の冬商戦の主役は「超節約族」に?
消費者の財布のヒモを開けるのか
 すでに夏から懐が寒いのに、冬になって心まで寒くなってきた。今年の年末商戦は大丈夫だろうか――。一般消費者をメインターゲットにしてビジネスを行なう企業は、おそらく皆、このような不安を抱えていることだろう。
 一部では客足が好調な業界もあるが、全国紙などが実施する「冬商戦の景況感調査」では、百貨店、スーパーなど多くの企業が「前年並みかもしくはそれを下回りそう」と回答しているの現状だ。
 長引く不況で消費はすっかり停滞している。一度締まった消費者の財布のヒモは、容易に緩められない。10月の全国消費者物価指数は、値動きの大きい生鮮食品を除いた総合指数が、20ヵ月連続マイナスとなった。
 経済全体の需要と供給の差を示す需給ギャップ(GDPギャップ)を見ても、今年7~9月期はマイナス3.5%(15兆円)となっており、構造不況の様相を呈している。
 しかし、いくら不況とはいえ、モノやサービスを消費せずに生きられる人など、いるはずがない。消費が消えてしまったのではなく、ムダなもの、贅沢なものを買わずに、生活に最低限必要なものしか買おうとしない「超節約族」が、以前より確実に増えているのだ。こうしたご時世に、商品やサービスの提供側が新たな消費を喚起するためには、相応のインパクトがなければ難しいだろう。
 企業を悩ませる「超節約族」たちは、常日頃、いったいどんなノウハウや考え方をもって、生活をやりくりしているのか? その現状を観察してみると、数年前とは明らかに異なる消費トレンドが見えてきた。
「商品やサービスを提供する側にとっては、いかにインパクトを持った“お得感”を演出できるかが勝負になるでしょう」
 そう語るのは、昨今のEC事情に精通するライターである。短いスパンで発展と変化を繰り返すインターネットビジネスだが、これは足もとで全盛を迎えつつある「クーポン共同購入サービス」を指してのコメントだ。
 クーポン共同購入サービスは、制限時間内に申し込み者が一定数以上集まれば、商品を安く買える仕組み。高い割引率が消費者に支持され、今やサイトが乱立している状態だ。
 飲食、美容、旅行など様々なジャンルで半額(もしくはそれ以下)クーポンを販売するこのサービスは、「超節約族」たちを虜にして離さない。先頭を独走するグルーポン・ジャパンをはじめ、おおむね順調に集客に成功している。「少しでもお得な買い物を」と節約志向を募らせているユーザーの声を拾ってみよう。
「半額以下という大幅なダンピングは、文句なしにお得です。それに加え、提供地域が細分化されていることで、ちゃんと自分の生活圏内で使えることがわかりやすく、興味をそそられます。不況で収入が減っていても、なるべく交際費を削りたくないのがホンネですから、家族や友達と食事に出かけるときにはとても重宝しています」(クーポン共同購入サービスのユーザー/30代主婦)
 クーポン共同購入サービスの某事業者によれば、こうしたクーポンに敏感なのはやはり女性だという。掲載店舗についても自ずと女性やファミリー層を意識した選択がされている。
「掲載店舗側からすれば、利幅は少なくても大きな宣伝効果が見込めます。また、実際には販売したクーポンの何%かは、利用されずに期限を迎えてしまうことも多いと聞きます。使用されなかったぶんの売り上げはそのまま運営者、あるいは店舗の利益となります。つまり、下手にメディアに広告を打つよりも、非常に効率がいいPR法なんですよ」(前出のライター)
 結局折り合いがつかなかったものの、グーグルがグルーポン買収にあたって提示した金額は50億ドルとも60億ドルとも言われる。共同購入サービス業者には、それだけの伸びしろと収益性が見込まれているわけだ。業者にとって、昨今の消費者の節約志向は、まさに「渡りに船」といったところか。
情報感度で節約効率を追及
深夜ATMの手数料さえ惜しい!
 クーポン共同購入サービスのケースからもわかる通り、インターネット上には「超節約族」たちを魅了する仕掛けがいたるところに転がっている。ウェブをくまなくサーチして、日常生活の随所で「何とかコストカットしよう」と躍起になっている消費者は少なくない。
「案外バカにならないのが、夜、飲み屋をハシゴする際に、コンビニでおカネを下ろすときにかかる時間外手数料。これもよく調べてみると、ネット上からの手続き1つで口座のグレードをアップでき、時間外手数料が一切無料になる。あるいは、特定のコンビニのみで手数料が発生しない銀行などもあります。細かいですが、金利にしても比較サイトが山ほどあるから、何も考えずに金融機関を使うのはもったいないですよね」(30代会社員)
 いくら忘年会シーズンと言っても、毎晩のように飲み屋をハシゴする人は、あまりいないだろう。それでも、100~200円の手数料がかかることさえ躊躇する人は少なくない。「それほど神経を擦り減らすくらいなら、いっそインターネットでサイドビジネスを始めた方が儲かるのでは?」と思ってしまいがちだが、切実な節約志向は留まることを知らない。
「サンプル配布、商品モニタリングの情報を集めたポータルサイトをあたれば、食料品やコスメ、生活雑貨など様々なものが無料、もしくは格安で手に入ります。抽選だったり、サービス提供を受けた後にアンケート調査に答えることが義務付けられたりする煩わしさはありますが、家計面では大助かりですね」(30代主婦)
 この主婦のように、モニタリングやサンプルをうまく利用することは、以前からあった節約法だ。しかし最近では、さらに一歩踏み込んだトレンドが目立つ。「超節約派」たちの格好のターゲットとなっているのは、「気に入らなければキャッシュバック」「満足できなければ全額返金」とうたうショップや飲食店である。
商品の返品を繰り返して量販店の
ポイントを稼ぐ「たくましい主婦」
 業者にとって、他店との差別化を図る意味では絶好のフレーズと言えるが、「こうした宣伝文句に無遠慮に食いつくことも節約のキモ」だとこの主婦は語る。
「業者にもよりますが、一度購入した商品を何らかの理由をつけて返品することで、ポイントを稼ぐ手も“流行り”です。現在も某メーカーが電気シェーバーのキャンペーンで、『使用感に満足できなければ全額返金』というサービスを展開しています。お客は商品を返品しても、家電量販店のポイントだけは手元に残るので、お得です」(前出の主婦)
 これは節約というより、はっきり言ってモラルに反した行為だ。決して推奨されるべき節約法ではない。個人の節約志向が、ある意味歪んだベクトルへと向かいつつあることには、驚きを隠せない。取材の過程では、こんな声も聞かれた。
「不況だし、映画やドラマのDVDをレンタルショップで借りることは、ほとんどなくなりました。オンライン上にはいくらでも海賊版が転がっていますから、たいていの作品は視聴できてしまうんです。音楽も同様ですね」(40代会社員)
 漫画雑誌を発売前に撮影し、YouTubeに流していた罪で中学生が逮捕された事件は、記憶に新しい。そもそも、本来ならおカネを出して購入すべきコンテンツが、ネット上に違法に氾濫している現実こそが、問題である。
 だが多くのユーザーは、それを手にすることに対して罪の意識を感じていないようだ。わざわざ正規ルートで決済しなくても、同じ商品が目の前にタダで落ちているのであれば、それを拾うことに躊躇はないのである。
モラルなんてそっちのけ!
困った“不況の落とし子”たちが増殖
 目線を移せば、なりふり構わない「超節約族」の出現は、消費市場に限ったことではない。「払うべきおカネを払わずに節約しよう」という人は、以前から増え続けていた。全国で推計26億円にも上ると言われる未納給食費は、そのよい例だろう。子どもの給食費を払わない保護者の大半は、「経済的に苦しいので、払いたくても払えない」と言い訳をしている。
 まだ完全解決に至っていない「高齢者の死亡無届け騒動」にしても、年金の不正受給を目的とするケースを多く含んでいるであろうことは、自明である。
 そこには、減る一方の給料をはじめ、給料や将来設計に立ちはだかる不安に立ち向かうため、なりふり構ってはいられない人々の姿がある。「何よりも生活を守ることが第一」と考える消費者は、決して少なくない。
 このような思考を持つ「超節約族」に訴求できる商品やサービスを考えつくことは、企業にとっても容易ではなかろう。しかし前述の通り、いくら不況とはいえ、消費がどこかへ消えてしまうわけではない。
 重要なポイントは、不況をきっかけにして、消費者の買い物に対する考え方そのものが、様変わりしてしまったことだろう。そしてこのトレンドは、今後景気が本格的な回復基調に乗っても、大きく変わらない可能性がある。新たな思考を持つ消費者がマーケットを席巻する日が、近づきつつあるのだ。

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Posted by takahashi