「自炊」に法が追いつけない…解釈あいまいな私的複製

 所有する本や漫画を電子化する「自炊」の代行業者や店舗が現れ、書籍の著作権をめぐり問題化している。新手の業態に法的な評価は確定していない。データが次々複製され不正に流通すると書籍が売れず、作家の創作環境が悪化する恐れがあり、出版界が反発する。
出版界反発
 東京・秋葉原にオープンした新ビジネスに注目が集まる。漫画や同人誌を手軽に電子書籍化できる店、その名も「自炊の森」。店内はネットカフェのように雑然とした雰囲気で、人気漫画「ワンピース」などが、背表紙を裁断してとじ直した形で並ぶ。利用客はコーナーに設置されたスキャナーを使って書籍1000グラム当たり1000円で、持参した多機能携帯端末などにダウンロードし持ち帰る。
 自炊が人気を集めるのは「蔵書をデータ化したい」「好きな漫画をiPadで読みたいが、デジタル化されていない」の声が強いから。反面、データが次々複製され、作家や出版社が壊滅的な打撃を受ける懸念がある。
 だが店は著作権法の規定「個人的な利用では著作物をコピーしても許される」に基づき“合法”とPR。「利用客自身が体を使ってスキャンする私的複製。店は機材を備えたレンタルスペースにすぎない」と説明する。
利益還元
 一方、自炊の森について、日本書籍出版協会は「違法とは言い切れない」と頭を抱える。図書館やレンタルCD店で借りてコピーするような業態だからだ。小倉弁護士は「文言通り解釈すれば合法」と認めながらも「店は複製する場を提供し利益を得ている。複製の作業は実質的には店とも解釈できる」と指摘する。
 著作権法を所管する文化庁は「著作権侵害に当たるか判断する立場になく司法が検討するケース」と静観。ある幹部は「さまざまな業者が出て、利用者が増えると想定していなかった。法律上の整理を新たに行うかは今後の課題」と話す。
 自炊の森の斎藤総太郎広報部長は、iPadなど端末が相次ぎ発売され電子書籍のソフトの販売が出遅れた現状に触れ「利便性を求める消費者と腰の重い出版社の間に溝がある。法律の範囲で溝を埋めるのがビジネス」と説明する。小倉弁護士は「著作権を管理する窓口をつくり利益還元する方法ができれば、代行業も社会に受け入れられる」と見通した。
対決姿勢
 書籍を顧客に代わって電子化する代行業者は全国約40社に上る。大手のブックスキャン(東京)は膨大な資料や蔵書をコンパクトにしたい研究者らの会員が1万2000人を超え、4カ月の注文待ち。
 預かった顧客の書籍を1冊当たり100円で裁断しデータ化した後、原本は再流通しないよう廃棄処分する。岩松慎弥社長は「注文を受ける際にはあくまでも『著作者の許可』を求めている」といい、著作権への配慮を強調する。
 だが日本書籍出版協会は「著作者から許可を取るのは非現実的。私的複製を逸脱した違法行為」と批判する。知的財産権に詳しい小倉秀夫弁護士も「使用者自身が複製しておらず、違法性が極めて高い」と警告する。
 出版各社は新年から、書誌事項を記述する奥付に「代行業者などに依頼しデジタル化するのは個人の利用でも著作権法違反」などの文言を盛り込み、代行業者に対決姿勢を明確に打ち出した。

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Posted by takahashi