社員旅行の飛行機飛ばず・・・。

 風がやたら強い日だった。その日は会社の社員旅行の第一班(会社を休みにできないので半分づつ二班に分かれて出発して行く)がサイパンに向けて出発する日だった。つまり、この目に出動している人達は旅行に行っている人の分までしなければいけないのである。つまりその日の仕事は大変だったのである。
 青竹さんが旅行に出掛けているので、僕は新藤君と二人で新田自動車の仕事をこなさなければいけなかった。さらに悪いことにこの一週間で新聞を500段以上を完版しなければならない事になっていた。ちなみにこれだけの仕事がいっぺんに来ることは今まで体験していないのであった。したがって僕と新藤君は朝から狂ったように校正をしていた。そのとき、青竹さんからいきなり電話が入ってきたのだ。
  「もしもし、青竹さん。まだ、飛行機に乗ってないんだ。こっちはもう発狂しそうだよ。どうしたの?。」
  「飛行機さぁ、風が強すぎて来ないんだよ。いま、成田で待機してるんだって。いつくるか全然分からないんだって。」
  「仕事さぼって遊びに行くから、罰が当たったんだよ。」
 しばらくは互いにに冗談を言い合った。そして、その電話を総務部長に回した。しかし僕等はとにかく仕事があまりにも混んでいて、その話に付き合っている暇も余裕もなくなっていた。
 そして夕方になった。飛行機はやっと飛んだそうだ。これではサイパンに着くころは夜の10時を回るだろう。それにしても仕事はまだまだたまっている。そんなとき社長が退屈そうに社内をうろうろし始めた。ふと気づくと、会社は人数が半分なので「しん」としていた。社長はみんなに聞こえるような大きな声で、独り言をいい始めた。
  「このくらい人がいないと静かでいいなぁ。社内も広々つかえるし、もう帰って来なくてもいいなあ。本当はこのくらいの会社がいいんだなあ。」
 僕等は新聞の校正の手を休め、作り笑いをした。だれかが反応しないと機嫌が悪くなるからだ。そして僕と新藤君はだれにも聞こえないような小さな声で話を始めた。
  「今の話、きいた?。」
  「聞いた。」
  「なんて事いうんだろうなあ。」
  「帰って来なくていいって。」
  「ああ、きっと俺たちもいわれるんだろう。」
  「飛行機が遅れて大度だったとか、無事に到着してくれとか何にもいわないで、あれだもんな。」
  「社長のいう言葉かよ。」
  「ああ。」
 僕等は仕事をする気がなくなってしまった。そんなとき、
  「八木君!。」
 と、呼ぶ声が聞こえた。その声は総務部長だった。
  「はい。」
 と返事をして総務部長のもとに向かった。総務部長は上機嫌だった。
 「八木君、聞いた?。飛行機遅れたの。」
 「ええ。」
 「第一班の奴ら、悪いことばっかりしているから罰が当たったんだ。はっはっはっはっ。いい気味だ。」
 そういいながら総務部長は仮払いの清算を始めた。いつもこうである。この会社の人達は、誰かに悪いことが起きたときはいつも相手を馬鹿にして、それで皆さん気分がよくなる人達なのである。もう、いい加減にしてほしい、子供の喧嘩でもあるまいし。
 その目は「むっ」とした気分のまま一日を終えた。本当にこの会社は性格の悪い人の集まりだ。たった23人の会社なのに。