個人的に気になること

個人的な忘備録。色々なものが雑多にファイリングされています。

入信を断ったら、クビ?

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 1月は退屈なIカ月であった。僕はフリーとして事務所をもち、だらだらと仕事を始めていた。そんな時に佐々木広告社の嘉藤君から電話が来た。嘉藤君は昨年の5月に東京の準大手広告代作店から転職し、佐々木広告社に入った。そんな彼からの電話である。その声には力がなくどことなく寂しそうだった。
 「八木さんですか、お久しぶりです、加藤です。」
 「お久しぶり、げんき?。」
 「元気じゃないですよ。わたし、昨年の暮れに会社クビになっちゃいましたよ。」
 「どうして?。」
 「実は……。」
 話が長くなりそうだったから僕は嘉藤君に
 「事務所に来て話さないか?。」
 と告げた。嘉藤君は二つ返事で
 「これから行きます。」
 とこたえた。どことなく言葉に力がでて来たようだ。
 しばらくたって嘉藤君がやって来た。
 「八木さん、お久しぶりです。なんか元気そうで。」
 「いったいどうしたっての?。」
 「実はですね、去年のクリスマスイブの日、社長に無理やり教会に連れて行かれまして、その宗教に入信しろと迫られたんですよ。オヤマネズノミコトシンジ教会っていうんですけど。」
 「どこにあるの、それ?。」
 「古川の高速のインターのそばのJAFの裏。それでですね、まずその一週間前に社長から、運命を変えられるいい宗教があるって私に言って来たんですよ。いいですねぇって適当に答えていたら、来週の土曜は出勤か?て聞かれて、出勤ですって答えたら、じぁ来週一緒にいこうっていわれて、このとき断れば良かったんですけど。」
 「それでクリスマスイブの日、オオヤマなんとかに連れて行かれてビデオとか見せられて、その信者の人達にいろいろ勧誘されたんです。そのときの社長はすごいんですよ。優しくて気持ちが悪くなるくらい。それで、うちの大松副部長は全然仕事ができなかったけど、これに入ったとたんトップセールスになった、とか、三上部長や森副部長、総務部長も入っているんだ、とか教会関係者と楽しそうにしゃべっているんですよ。それから最後の詰めです。」
 「入会金が1万円くらいで月々3000円くらい払うだけで、売上がどんとんあがる宗教だからとかいってくるんですよ。お金さえ払えばそれだけで売上が上がる何てそんな都合の良い宗教なんて信じられませんよね。それで、私が全然入信する意志を見せないと今度は脅してくるんです。入信するだけで会社の売上が上がるっていってるのに入らないなんて、お前は売上が上がらなかったときどうやって責任取るんだって。もう阿呆らしくなって。」
 「それでそこからの帰り車の中の空気が重くて。まだ言ってるんですよ。お金さえ払えばいいんだ。今年もボーナスが出たんだし、その中からたった一万円ちょいだぞ。会社の売上を上げたくないのかって。この入、完全に狂っているって思ったら、そばにいるだけで気持ち悪くなって、もう辞めようと思って月曜日に三上部長に相談したんですよ。」
 「そしたら、じぁ辞めたらって言われて退職届を書いたんですよ。それでいろいろ話し合って、来月の15日までって決めたんです。」
 「15日ならまだじゃないの。今日10日でしょう、なんかあったの?。」
 「それがですね、なんかあったんですよ。仕事納めの日、30日ですね。大掃除も終わって終礼が始まったんですよ。いつものくだらない話が一通り終わったと思ったら、本日をもって嘉藤君は退職することに決まりましたって、いきなり発表するんですよ。信じられますか。来月の15日ってちゃんと決めたばかりなのに。それでその後文句を言おうとしたら、あっと言う間に車で出掛けて逃げて行ったんですよ。三上部長に言ったら、そう決まったんじゃないの一言ですべて終わりですよ。」
 「それって本当のことか?。ひでえ会社だなあ。三上部長もグルだったんだなぁ。退職詐欺って言葉があるんだったらそうだなぁ。」
 それから僕は嘉藤君を慰めるためにしばらく話し合った。
 そういえば、この嘉藤君の表情って、昔どこかで会ったような。なんか、曽田君が辞めた時にも、「今は言えないですが、古川がどうした・・・」とか、言っていたような。ここで、ハッと思い出した。多分、Tハウスの件じゃなくて、曽田も入信を迫られて、突然辞めたんだ、と。だって、辞める理由を聞いても、「今は言えない」とか「八木さんもいつか連れて行かれる」とか、わけのわからないことを言っていたしなぁ。
こんな会社があるだろうか。こんな適当な会社があるだろうか。労慟基準法もへったくれもないのである。さらに良識も常識もないのである。それなのに一時期は僕も入社していた会社であった。このとき、辞めて良かった、とつくづく思った。
 それにしてもである、嘉藤君はこの先どうしようか、路順に迷っていた。まだ、親にもこのことは告げていないそうである。僕は嘉藤君にこれからのことをアドバイスした。この日、僕は嘉藤君と一緒に夕食たべた。アパートにずっといると気が滅入るから、気が向いたら僕の事務所に遊びにこいと告げこの日は別れた。
 あれから一か月、僕の知り合いのいる東京のSPエージェンシーを紹介し、嘉藤君は就職活動のために東京へ上京して行った。少し寂しかったが、彼のやる気が出てきてほっとした。
 3月の末、嘉藤君から電話があった。ようやく就職先が決まり4月1日から出勤するそうである。僕は他人のことながら嬉しかった。コールデンウィークのころにまた会おうと、再会を誓った。
※嘉藤君はその後も、何回か東京から遊びに来てくれて、埼玉にマンションを購入し、それなりに幸せに暮らしてます。

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