『クッキングパパ』発、握らぬおにぎり「おにぎらず」人気

昨年秋以降、インターネット上の料理レシピ投稿サイトなどで「おにぎらず」という食べ物が人気を集めている。のりとご飯で具材を包む工程はおにぎ りと変わらないが、握らないから「おにぎらず」。ご飯を三角形に握るのが苦手な人でもきれいに作れ、見た目の華やかさとネーミングの面白さが人気の秘密と いう。職場や学校に手作り弁当を持参する動きが広まる中、ご飯のおかずになるものなら何でも具材として包み込んでしまう日本の“進化形”ソウルフードに 迫った。(石井那納子)

■漫画にレシピ掲載から20年以上の時を経て脚光

「おにぎらず」の名前が初めて登場したのは、漫画 週刊誌「モーニング」(講談社)で長期連載されている人気漫画「クッキングパパ」だ。作中では、仕事も家事も完璧にこなす主人公・荒岩一味(あらいわ・か ずみ)が、小学生の長男のために作った時短弁当として平成3年発売の単行本第22巻(第213話)にレシピが掲載された。

作り方はいたって簡単。大判ののりにご飯をしき、具材を乗せ、さらにご飯とともにのりの四隅を折りたたみ包んでいく。

食べやすい大きさに切り分けた断面を見ると、まるでサンドイッチのように端から端まで具材がびっしりつまっている。真ん中まで食べ進めないと具材にたどりつかないおにぎりとくらべると、ひとくち目から具材とご飯が楽しめる。

「今ではクッキングパパがおにぎらずの原点といわれるけれど、実は、うちの奥さんが作ってくれたものが元祖で、そこから着想を得たんですよ」

作者で漫画家のうえやまとち氏(60)が明かす。子育てや仕事に追われていた妻が、炊き立てのご飯でもおにぎりを素早く作りたいと考案し、うえやま氏が名付けたという。

発刊から20年以上経ってレシピが人気を集めていることに、うえやま氏は「今ごろおいしさが伝わったのかというのが正直な気持ち。インターネットの発達なども流行の要因なのだろうが、ほらうまいだろう、と思いながら投稿レシピを見ている」と得意げだ。

■肉も魚もOK! 懐の深さはおにぎり以上?

レシピ投稿サイトでは、豚肉のしょうが焼きやコロッケ、きんぴらごぼうや煮玉子など、奇想天外な具材を包む提案や味の感想が次々と寄せられている。

これらを可能にしているのが、握らずにつくれること、大きさの制約がないことだ。中には、おにぎりでおなじみの焼きシャケや明太子を一腹丸ごと入れる人も。豪快だ。

加工肉の缶詰「スパム」と目玉焼きを包んだハワイ風、スモークサーモンとクリームチーズを包んだオードブル風など豊富なバリエーションにも驚く。

一方、野菜を使った具材をたっぷり入れれば、ごはんを減らして炭水化物の摂取量を控えることもできるため、昨年末から今年1月上旬には「暴飲暴食が増える季節、おにぎらずでダイエットを」と提案する投稿も増加した。

作中で紹介するレシピを考える際「すぐできて、しっかり栄養が取れることを重視している」と話すうえやま氏。おにぎらずは、普段の食事でおかずとして食べ ているものならば、基本的に何を入れても合うといい、「これ以上簡単で、栄養バランスにも優れたレシピはなかなか考えられない」と太鼓判を押す。

のりメーカーの「ニコニコのり」(大阪市)は、和風だしや塩で味付けした大判サイズのおにぎらず専用のりを、今年3月に発売すると発表。企業もビジネスチャンスと注目する。

■日本の「BENTO」はクール! おにぎらずは流行るか

米国紙「ニューヨーク・タイムズ」によると近年、海外では日本式の弁当が大ブームになっているという。

美食の国、フランスもそのひとつだ。フランスといえば、昼食時にはカフェやレストランでコース料理を注文し、同僚や友人と語らいながらワインやビールを飲 み、時間をかけて楽しむ印象が強い。それが、いまや昼食時には弁当店に行列ができ、「Bento」という言葉がついに仏語辞書に載るまでになった。

夫の転勤で4年前からパリで生活する主婦の糸井智佳子さん(36)は毎朝、長女、華ちゃん(8)の弁当づくりから1日が始まる。糸井さんは「キャラクター 弁当のように凝ったものはめったにつくらない」と話すが、必ず肉か魚を主菜に、青菜のおひたしや野菜の煮物、卵焼きなどを入れて「見た目のカラフルさで食 欲を刺激して、バランスよく栄養がとれるように考えている」というこだわりを持つ。

現地の子供たちがハムとチーズを挟んだバゲットや、温 野菜をタッパー容器に詰めただけのものなど、簡単なランチを食べる中で、華ちゃんが二段式の弁当箱を取り出し、ふたを開けると歓声が上がる。「見ているだ けでもきれい」「味見をさせてほしい」などの声を掛けられるといい、弁当の人気ぶりがうかがえる。

弁当の世界的な流行を背景に、京都に外 国人の支持を集める弁当箱専門店がある。オーナーは、フランス人のベルトラン・トマさん(33)。ベルトランさんは平成20年にフランス語で弁当箱専門の オンラインショップを立ち上げたのをきっかけに、22年には英語版サイトを開設した。店内には、伝統的な木製の弁当箱や、密封性が高く電子レンジで直接温 められる弁当箱などさまざまな種類が並び、2千円前後で販売されている。

通販ではこれまで約90カ国に商品を発送した。ベルトランさんは「最も問い合わせが多いのはフランスで、売り上げの約4割を占める」と話す。

「弁当箱を開けたときのワクワク感をよりもり立ててくれるような弁当箱をつくり、販売することが目標」と話すベルトランさん。おにぎらずを見てもらうと、 「カラフルで、具材のバリエーションも豊富で楽しい。のりが手に入りにくい国もあるかもしれないけれど、作り方がわかりやすいので人気が出るかも。ぜひ、 弁当箱にもこだわって楽しいランチタイムを演出して」と宣伝も折り込みつつ、笑顔を見せた。

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Posted by takahashi