『カメラを止めるな!』大ヒットの起爆剤は観客の熱量!たった2館から100館に

インディペンデント映画『カメラを止めるな!』が、6月23日に東京都内のミニシアター2館で公開後、着々と上映館を増やし続け、1か月以上のロングラン上映に続き、ついには全国で100館以上の映画館での上映が決定した。これまでは、大手映画配給会社作品の一人勝ちだった日本映画界に、新しい風を吹き込んだ本作のヒットには、一体どんな舞台裏があったのか。

本作は、東京にある監督・俳優養成学校の「ENBUゼミナール」の映画として、上田慎一郎監督と俳優を目指す生徒たちで作成された低予算のインディペンデント映画。公開前にマスコミ向けに行った試写は計4回。メジャー映画は、マスコミ向けの試写を何度も上映するが、試写室をレンタルする料金などを考えても、インディペンデント作品で4回は多い方。だが、本作のプロデューサーであり、「ENBUゼミナール」代表の市橋浩治氏によると異例の事態はこの試写の時点からすでに起きていたという。最初の2回は、普通の試写と変わらない観客の数だったが、イタリアのウディネ・ファーイースト映画祭でシルバーマルベリー賞(観客賞2位)を受賞して帰国後に行った3回目の試写は満員となり、4回目以降の試写には立ち見が出た。そして、作品を観た有名人も、自発的に自分たちのSNSにコメントを発信し始めた。有名人の推薦コメントというと、今やどの映画宣伝にもつきものであり、さほど特別なものでもないが、彼らが発信したコメントには、ただ事ではない「熱さ」がこもっていた。とにかく「誰かにこの映画を観て欲しい!」という切実な思い、純粋な映画愛がぎっしりと詰まっているコメントばかり。公式サイトのコメント欄には瞬く間に、コメントが並び出した。

ここで驚くのが、この映画、やはり学校が作った作品ということで、宣伝費がほとんどかかっていないということ。ポスターやチラシの印刷費用以外は、特に手の込んだ宣伝イベントを行うわけでもなく、公開前にしたことは監督やキャストによる劇場前でのチラシ配りくらい。6月23日の公開は、新宿のケイズシネマと、池袋のシネマ・ロサ。客席数では、ケイズの客席は84席であり、シネマロサは177席。一度に1,000人以上を収容する大型上映施設と比べれば、小さい規模の上映だが、それでも平日の昼間、シネマ・ロサの客席は埋まらなかった。どんなに有名人が絶賛しても、どんなに映画祭で賞をとって話題になっていても、映画は公開するまでわからない。有名俳優が一人も出ていないインディペンデント作品が平日177席埋まらないというのは当然であり、この作品も1週目、シネマ・ロサの客席を埋めることはできていなかった。だが、市橋プロデューサー自身、「まあこんなものだろう」と思っていた上映は、日が経つにつれてどんどん熱を帯びていき、翌週は平日の上映も満席となり、週末の上映に至っては立ち見が出るほどの盛況を見せた。そして2館だった上映館も、週ごとにどんどん上映館が決まっていき、4週目には7館の上映が決まっていた。

この映画をここまで後押ししている起爆剤となっているのは、「ひとえに作品を観た人たちの熱量のおかげ」と市橋プロデューサーは断言する。たしかに、有名人たちの熱を帯びたコメントはもちろんのこと、実際に映画を観た人たちの熱量は、すさまじい。興奮状態で映画館を後にして、「誰かとこの気持ちを共有したい!」「友人に観て欲しい」という熱い気持ちが湧き上がり、ツイートをしたり、友人に会えば思わず熱く語ってしまう。そんなことを話しているうち、映画館での体験をもう一度感じたくてリピートで観てしまう。そんな観客が、この映画のファンにはとにかく多い。そこまで観客を突き動かすパワーがこの映画にあり、観客一人一人が最高の宣伝マンとなって動いていく。そして彼らが発信する言葉に後押しされ、たった2館の上映館が、100にまで増えていった。

本作の内容はあえてここでは説明しないが、観客のツイートでストーリーに触れているものはほとんどない。レビューをするわけでもなく、とにかく「面白かった!」「誰か観て!」と、いかに楽しんだのかを訴えている。そしてそれを読んでいるだけで、未見の自分も同じ体験をしたくなる。そんな映画を絶賛する声に呼応するかのように、全国の劇場の「観客が観たい作品を届ける」という想いが見事に合致。ミニシアターはもちろんのこと、シネマコンプレックスまで、多くの劇場が上映に名乗りを上げだした。

この映画『カメラを止めるな!』のように、観客が映画を大きく育てていく事象は近年の映画界でたびたび起きてきている。日本映画でいえば、低予算映画にもかかわらず、口コミで広がった『百円の恋』や『湯を沸かすほどの熱い愛』、アニメでは『この世界の片隅に』。どれも有名女優が主演を務めているものの、小規模な作品が口コミで大ヒット。小粒なドキュメンタリーでは、老夫婦の生きる姿を追った『人生フルーツ』もロングランヒットしている。最近では、絶叫応援上映が売り切れ続出となった『バーフバリ 王の帰還』もそうだろう。映画館離れが進んでいるといわれている一方、観客一人一人の映画への熱い思いが映画を育てて、新たな観客を映画館に運んでいる。

映画『カメラを止めるな』は、普段ミニシアターに足を運ばない観客、インディペンデント映画を観ない観客、いろいろな観客層を竜巻のように巻き込んで躍進している。本作は単なるインディペンデント映画のサクセスストーリーだけではなくて、「観客という追い風が、映画を後押しする」ことを証明してくれた。日本映画界への一筋の希望の光となったことは間違いないだろう。(森田真帆)