塚原千恵子はいかに「女帝」になり得たか 権力握った決定的瞬間

宮川紗江選手へのパワハラ疑惑の渦中にある塚原夫妻が、「帝国」の崩壊危機にさらされている。2018年9月4日付の日刊スポーツが、塚原夫妻が経営する「朝日生命体操クラブ」の存続の危機を報じている。同クラブを協賛する朝日生命が協賛を打ち切るような事態になれば、塚原夫妻は体操界での礎を完全に失うことになる。

日本体操協会の女子強化部長を務め、女子体操界の「女帝」とも揶揄される千恵子氏。その権力について、日本体操協会の具志堅幸司副会長が「決定権はお持ち」と明言するほど、協会内での発言力は強い。

今や女子体操界の事実上のトップとの声も上がるほどの千恵子氏だが、どのようにしてここまで登りつめたのだろうか。

「指導者としては有能ですよ」

選手時代の成績は、全日本選手権での優勝経験こそあるものの、五輪でメダルは獲得していない。千恵子氏がその存在感を発揮するのは、現役を引退し指導者になってからである。1974年に女子体操の企業チームとして現在の「朝日生命体操クラブ」が発足。立ち上げとともにコーチに就任した千恵子氏は、44年間の長きにわたり指導者として辣腕を振るい、「朝日生命体操クラブ」を名門クラブに育て上げた。

千恵子氏をよく知るかつての体操協会関係者は

「千恵子さんは、はっきりとモノを言う人なので、発言が厳しいと感じる人もいると思う。ただ、指導者としては有能ですよ。女子は男子と違い、色々な面で指導が難しい。年頃の女子の体重管理や生理のことなど、競技以外でも指導にあたらないといけない。それらを含めての指導なんです。あそこのクラブは厳しい管理で有名でしたが、強い選手を育てるためにはある意味、仕方ないことだと思いますよ。実際、親御さんからの信頼も厚かったですよ」

と千恵子氏の指導者としての力を評価する一方で、強引とも取れるクラブへの勧誘に関しては批判的だ。

「所属する選手たちがオリンピックに出始めた頃、勧誘も目立つようになってきましたね。『うちにくればオリンピックに出場できる』が殺し文句で、目を付けた選手を強引に引き抜いたなんてことを聞いたことがある。体操はアマチュアスポーツでオリンピックが最高の舞台となるわけだから、選手にとってはオリンピックに出場できると誘われれば傾きますよね」

実際、「朝日生命体操クラブ」から24人のオリンピアンが誕生している。一部報道であるように大会における「塚原判定」が存在したかは別とし、実績だけ見れば千恵子氏の「うちくればオリンピックに出場できる」との発言も頷ける。

すでに女子体操界で権力を握っていた千恵子氏だが、その基盤をさらに強固にしたのが、長男・直也氏の存在だった。オリンピアンを両親に持つ直也氏は、「朝日生命体操クラブ」にて11歳で体操を始めた。体操を始めた年齢こそやや遅いが、そこはやはりサラブレッド。すぐに頭角を現し、高校、大学と着実にステップアップしていった。

息子に「帝国」引き継ぎ図るが…

直也氏がメディアから注目を集めたのは1996年アトランタ五輪。「月面宙返り」の父・光男氏を知る世代からはもちろん、イケメンの直也氏に若い女性も注目した。

男子体操界に新星!!

塚原二世が体操界初の親子金メダルへ!!

メディアはこぞって盛り立てた。結果こそメダルに届かなかったが、この時点で塚原二世は世間に認知される存在となった。

アトランタ五輪に続いて2000年シドニー五輪にも出場した直也氏だが、ここでも結果は残せなかった。全日本選手権5連覇を成し遂げ、周囲からのメダルへの期待が大きかっただけに、本人はもちろん塚原夫妻の落胆ぶりは相当なものだった。

その4年後のアテネ五輪で塚原ファミリーの悲願は成就した。直也氏が団体総合で金メダルを獲得。日本体操界に1984年ロサンゼルス五輪以来の金メダルをもたらし、体操界初となる親子での金メダル獲得となった。塚原ファミリーの絶頂期ともいえよう。五輪後に直也氏は紫綬褒章を受章。2009年には光男氏も同章を受章した。

前出の関係者は言う。

「直也君の金メダルは大きかった。女子での実績に加え、男子の金メダリストを育てたわけですから。しかも当時の体操界はオリンピックでメダルを取れず、長い低迷期だった。その中での金メダル。しかも話題性は十分ですから。体操界への貢献度はこれ以上ないものだった」

直也氏の金メダル獲得は、塚原夫妻の協会内での立場を絶対的なものとした。「女帝」誕生の瞬間でもあった。

直也氏は2016年の引退後、両親の経営する「朝日生命体操クラブ」の総監督に就任。「帝国」の次なる指導者として順調に歩んでいた矢先の騒動だった。

パワハラ騒動は現在、第三者委員会の報告待ちの状態。「女帝」に代わって盛んにメディアに露出している光男氏は「全部うそ」から「謝罪」への見事な宙返りを見せたが、「帝国」崩壊の足音は背後まで迫りつつある。