過熱する高級食パン戦争

大阪発高級食パン専門店の首都圏攻勢が激しさを増している。首都圏で先行する「一本堂」(運営会社は東京都新宿区のIFC株式会社)に、「乃が美」(大阪市)や「Panya芦屋」(兵庫県芦屋市)も参戦。そろそろ関西が飽和点に近づいているためか、主たる競争の舞台を日本最大の消費マーケットである東京に移しつつある。

東京勢も俺の株式会社(東京都中央区)が運営する「俺のベーカリー&カフェ」が多店舗体制に入り、「考えた人すごいわ」(東京都清瀬市)、「に志かわ」(東京都中央区)がスピーディーな出店を狙うといったように、ヒートアップしてきた。

時間とお金に余裕のある元気なシニアの朝食、主婦のちょっとしたぜいたく、贈答、子供のおやつなどの目的で購入されてきた高級食パンであるが、人気ユーチューバーが取り上げたことで若者のファンも増えている。フランチャイズ(FC)に力を入れるチェーンも多く、ビジネスチャンスが拡大している。

今回は過熱する“高級食パン戦争”の背景を分析してみたい。

photo 「に志かわ」にできた行列

乃が美は秋田県以外に進出完了

高級食パン専門店ブームを生みだした乃が美は、2018年11月15日に東京都内初出店となる麻布十番店(港区)を準備中だ。場所は鳥居坂下交差点と新一の橋交差点の間あたりで、都営地下鉄の麻布十番駅に近い。

乃が美は13年10月、大阪・上本町にオープン。焼かずに生で食べる「生」食パンを売りとし、1本(1斤)432円(税込、以下同)と、1本(2斤)864円の「生」食パンしか売らない。あとは「生」食パンに合うジャムを販売している。

このような究極の単品商売で全国108店まで拡大。47都道府県で、常設店がない空白地帯は秋田県のみとなった。スピード感を持って出店を進めてきたが、大阪人が抱く東京への対抗心からか、最後に東京へ出店する考えのようだった。しかし、競合他社が東京で勢力をどんどん拡大してきたので、そうも言っていられなくなったらしい。

神奈川県の横浜や川崎の市内には既に乃が美の店舗があり、2~3日前から予約を入れないと確実には買えない状況だ。

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職人でなくてもパンが製造できる

乃が美の食パンの特徴は、耳までしっとりともちもちしてやわらかく、ほんのりとした甘みがあって、バターやジャムを付けなくてもそのままで食べられること。ナイフで切らなくても、手でちぎって食べられる。

製造工程は通常の食パンと同じだが、小麦粉をこねる時間を長く取り、焼く時間を短くして、生食に最適なパンの開発に成功したという。オリジナルブレンドの小麦粉を使い、ハチミツを隠し味として練り込むなど、素材にこだわっている。使用するマーガリンは、乳化剤・着色料・保存料・香料が無添加となっており、トランス脂肪酸を低減したオリジナルのものだ。バターと併用することで、バター100%では引き出せなかった、小麦やハチミツの風味を極限まで引き出すことに成功したという。

代表の阪上雄司氏は飲食業を経営するだけでなく、大阪プロレスの会長も務める。老人ホームを慰問した際、お年寄りが耳の硬いパンに苦慮していることを知り、何とか耳までやわらかいパンをつくれないかと考えて、2年の歳月を費やして開発したという。

乃が美の強さは、この高級食パンを各店で手づくりしてはいるのだが、職人ではなく素人でも作れるようにした工程管理をしてFC展開していることだ。販売のみに特化した店もある。1つの商品を売るだけなら、さしたる商売のノウハウも要らないだろう。開発の経緯を見ても分かる通り、パン食が一般化したこれからの高齢化社会にも適しているビジネスモデルだ。

一本堂も東京進出

一本堂は13年3月、大阪市都島区に1号店をオープン。1日に400斤が売れる人気店となり、高いリピーター率で経営も安定。14年に東京進出を果たし、主に首都圏で急速に店舗数を伸ばしている。

現在の店舗数は全国105店。1都3県に約半数の53店があり、乃が美の12店に大きく差をつけている。出店戦略においては、乃が美が今まで戦略的に狙わなかった盲点を突いている。銀座のような家賃の高い場所ではなく、住宅街にじわじわ店舗を伸ばしてきた印象だ。値段も若干安い。

耳はパリッと香ばしく中はふんわりもちもちした「一本堂」(280円)、スープやシチューに合う「ホテル食パン」(380円)、厚切りトーストに最適な「高密度食パン」(340円)、国産小麦だけを使ったトースト向きの「日本の食パン」(360円)という4種類の食パンを軸に展開している。また、趣向食パンの「カフェオレ食パン」、「ちーず」、「れーずん」、そして高機能食パン「低糖質」を加えた計8種類を販売している。あとは5種類の国産素材を使ったジャムがあるだけだ。

食パンとジャムのみの販売という点では乃が美と同じだが、生食専用には手を出さず、趣向食パンや高機能食パンがあるのが特徴。はちみつ、卵、イーストフードは使っていない。油脂はトランス脂肪酸がほとんど含まれていないマーガリン、無塩バター、有塩バターを使っている。

昭和の時代、町中に米屋があったように、焼きたてのおいしいパン屋を身近にしたいとの思いで、FC展開を進めている。2等立地、3等立地でも成り立っており、他の高級食パン専門店とは狙う商圏も異なっている。

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完全無添加最上級食パンを実現したPanya芦屋

低温長時間熟成により、耳までやわらかくおいしい完全無添加最上級食パンを実現したPanya芦屋は16年9月、関西の高級住宅街で知られる兵庫県芦屋市にオープン。プレオープンで300人が行列をつくり話題となった。17年9月に、神戸市中央区に三宮店を出店した。

そして、17年11月には世田谷区の駒沢公園近くに新店をオープンして、東京初進出を果たした。さらに18年5月に「尾山台店」、8月には「玉川高島屋S・C店」と、立て続けに出店しており、世田谷で勢力を拡大している。

また、16年10月に大阪市西区阿波座で創業し、大阪市内に7店を展開するまでに成長した「高匠」も、ふわっとした食感でほんのり甘い食パン1種のみ販売する専門店だ。近いうちに東京進出を予定している。

大繁盛のセントルザベーカリー

首都圏に攻め込む大阪勢に対して、迎え撃つ東京勢も負けてはいない。

東京の高級食パンブームの火付け役は、13年6月にオープンした銀座の「セントルザベーカリー」(東京都中央区)である。今なお、2時間待ち、3時間待ちも覚悟の上で長蛇の行列に並ばないとお目当ての商品が買えない店だ。1人1回の来店で、3本まで購入可能。1本は2斤のサイズとなっている。

同店は03年に創業したバケットで名高い「ヴィロン」(東京都渋谷区)の姉妹店。ヴィロンの人気が高かったため、当初より注目を集めていた。店内の工房でつくって提供しており、作業風景をガラス越しに見ることができる。

「角食パン」と「プルマン」(ともに864円)、「イギリスパン」(756円)の3種類があり、角食パンは生食用、イギリスパンはトースト用、プルマンはお好みでどちらでもというのが、お店が推奨する食べ方だ。

一番人気の角食パンは、北海道産小麦の「ゆめちから」を使用。湯種・液種を使っており、しっとり、もっちりとした食感が特徴だ。ただし、耳までやわらかいわけではない。併設のレストランには、2種類または3種類の食パンを食べ比べることができるセットがある。

食パンを食べ比べるセットは、食パン2種類とバター付きのセットが一番安くて1080円。3種類なら1188円となる。3種類の食パンを、バターとジャムで食べ比べるセットとなると1836円。3種類のバターは芳醇な味わいとなっており、6種類のジャムはフランスやベルギー産で素材の風味を生かした上品な仕上がりだ。これらバターとジャムに出会えるだけでも行く価値がある。トーストは入口付近の棚に置いてある、デロンギのトースターをセルフで1台席まで運んで焼く、独特のスタイルだ。

サンドイッチは一番安いオムレツが864円、全般に1500円前後の商品が多い。食パン購入者とカフェ利用者は別の列に並ぶ。カフェの場合、高額でも連日満席で30分から1時間は並ぶケースが多い。

セントルザベーカリーは18年11月1日、青山(東京都港区)に2号店を出店している。

俺のベーカリー&カフェも参戦

このセントルザベーカリーをベンチマークしたと思われるのが、恵比寿ガーデンプレイス(東京都渋谷区および目黒区)に16年11月にオープンした「俺のベーカリー&カフェ」だ。

当初は3種類の食パンを売っていたが、今は6種類に拡充した。生食用の「銀座の食パン」は、「~香~(1000円)」と「~夢~(900円)」の2種類あり、2斤のサイズである。価格はセントルザベーカリーより少し高めだ。~香~は北海道産小麦「キタノカオリ」をメインとしたオリジナルブレンドの小麦と、岩手県なかほら牧場の自然放牧牛から搾った牛乳の風味を生かした商品。

この店で最も人気の商品は毎朝10時に焼き上がる限定商品「マスカルポーネとはちみつの食パン」(900円)だ。生地全体にマスカルポーネチーズとハチミツが練り込まれているので、香り高くほのかな甘みがあり、これを目当てに朝から行列ができている。

食パン販売は午前10時からだが、併設のカフェは午前8時から開く。パンを予約した人たちが、焼きあがるまでカフェで朝食を食べながら待っている光景をよく見かける。

食パンで復活?

俺のシリーズは、坂本孝社長と共に会社を成長させてきた、腹心の副社長、専務、料理長が次々と同社を辞めたことで、一時期調子を崩していた。しかし、俺のベーカリー&カフェのヒットで息を吹き返してきている。

俺のベーカリー&カフェは18年になって、都内に3店、川崎市内に1店を出店して、首都圏に6店を展開するまでになった。また、「俺のグリル&ベーカリー」も8月、大手町(東京都千代田区)にオープンした。

元ドミニク・サブロンの榎本哲氏が立ち上げ時に食パンをプロデュース。パリの高級ブーランジェリー「ドミニク・サブロン」は15年2月に日本から事業を撤退していて、その高い技術を備えた人材を受け入れた格好だ。

カフェではトースト(480円)だけでなく、俺のシリーズ各店の腕利きシェフが手掛けたサンドイッチなどが味わえる。人気の「厚焼きたまごのサンドイッチ」(680円)は~香~を使用。飲み物はブレンドコーヒ(380円)などをそろえる。

老舗も参戦

1942年創業で、食パンとロールパンしか販売しない浅草の老舗「パンのペリカン」(東京都台東区)も、17年8月、本店近くにカフェをオープンした。「ペリカンカフェ」ではサンドイッチやトーストが日替わりメニューで提供されている。

また、乃が美のような食パンの製造販売のみに特化して、チェーン化しようという動きもあり、18年9月、銀座1丁目に「に志かわ」(東京都中央区)がオープンした。ほんのり甘くてふんわりした食パンを1種類のみ扱い、1本(2斤分)864円で勝負している。

天然水よりもph値を高め、各種ミネラルもバランスよく配合したアルカリイオン水を使用することで、絹のようにしっとりとした耳、淡雪のような口どけを実現したそうだ。

水にこだわるに志かわは3年間で100店を出店する計画で、FCを募集しており、年内に関西・中部にも進出する意向だ。乃が美、一本堂と真っ向対決となる模様で、どの店が品質を保持して、飽きない商品を供給し続けるか、高級食パン戦争の行方への興味が尽きない。

東京都清瀬市の西武池袋線清瀬駅前には、「考えた人すごいわ」という風変わりな名の食パン専門店が18年6月にオープンし、これもたちまち行列ができる人気店になった。11月7日には東急東横線・JR横浜線の菊名駅(横浜市)前に、2号店の横浜菊名店をオープンした。口どけのよい生食用の「魂仕込(こんじこみ)」(864円)と、レーズンパン「宝石箱」(561円)の2種類のみを製造販売している。

東京はまだ高級食パンのマーケットがガラ空き状態なので、各社どこまで店舗を伸ばせるかが楽しみだ。また、万が一ブームが去った時にどのように対処して、再び成長できるかまで見届けたい。

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