中国のクルーズ船業界に陰り、豪華客船の撤退相次ぐ

人気を失い始めた中国のショートクルーズ

少し前、東京に来た経営者の友人に、ある相談を持ち掛けられた。クルーズ乗船客関連のビジネスをやっている彼は、席に座るやいなや、「ショートクルーズをやりたい」と相談してきた。

「日本を訪問するショートクルーズは、すでに結構あるではないか」と、私は意外さを覚えた。しかし、友人の話によれば、ショートクルーズのほとんどが九州を目的地にしているため、だんだん“買い物船”に成り下がってしまい、新鮮さも失って人気を集められなくなっているということだった。

そこで、京都にアクセスしやすい神戸や、知名度の高い北海道などを目的地にするショートクルーズを企画したい。そして、クルーズ旅行の内容を充実させて、より多くの中国人観光客を日本に案内したいという。

そこで、友人は「力を貸してほしい」と真剣な表情で依頼してきたのだ。

人気が高いと言われてきた中国のクルーズ市場は、実はここのところ、いろいろな異変が起きている。

豪華クルーズ第1号が進出からわずか1年で撤退

もっとも話題となったのはノルウェージャン・ジョイ(Norwegian Joy、中国語船名は諾唯真喜悦号)だ。この船は、ノルウェージャンクルーズラインが中国市場向けにデザインした豪華クルーズ船第1号である。全長334メートル、総トン数16万7725トン、最大乗客定員は4930名で、ツイン部屋の乗客定員は3850名、ゴージャスな客室が1925部屋あり、上海、天津を母港にして2017年6月28日に上海から就航した。

ノルウェージャンクルーズラインは、世界3大クルーズブランドの1つで、本部はアメリカのマイアミにある。中国市場に進出するために、同社はかなり力を入れていた。

まず、「海上でファーストクラス」とうたい、中国人客が満足する設備を整えた。船体に描かれた絵も、わざわざ中国の神話によく出てくる「鳳凰」をテーマに有名な中国人アーティストに創作を依頼した。

ノルウェージャン・ジョイには、さまざまな種類のレストランとバーが28店もある。無料レストラン10店、スペシャルレストラン10店、カフェやバー、ラウンジが15店。さらに24時間営業のルームサービスも行われている。

買い物好きな中国人客のために、免税ショッピングエリアは異例の900平方メートル。カルティエやオメガ、ブルガリなどの高級ブランド商品は何でも揃っている。チョコレートのゴディバや、アップル製品なども販売している。

買い物だけではなく、夜のコンテンツも非常に充実しており、ミュージカルショーなど豊富なエンターテイメントを楽しむことができる。

ところが今年7月19日、鳴り物入りで中国に進出したこの豪華客船が、2019年4月から中国航路をやめ、アラスカ航路で運営すると発表された。

これは、ノルウェージャンクルーズラインが中国市場で唯一就航させていた大型クルーズ船が、進出からわずか1年での撤退を宣言したことを意味する。中国メディアの報道によれば、ノルウェージャン・ジョイは中高年客が多く、船上での2次消費が少なかった。そこで経営的にかなり厳しくなり、中国撤退に踏み切ったという。

韓国への寄港が難しくなって以来中国のクルーズ業界は低迷期に

実は、2017年以来、韓国への寄港が難しくなったため、中国国内のクルーズ船市場は低迷期に入り、加えて国際クルーズ船が次々に新しい船を投入したため、急速に競争が激化した。

中国市場の撤退を余儀なくされたのは、ノルウェージャン・ジョイだけではない。2017年11月に、プリンセス・クルーズのマジェスティック・プリンセス号も中国市場を離れ、オーストラリアクルーズ市場に移ると発表した。また、今年3月には、中国の豪華クルーズ船会社、天海郵輪の天海新世紀号(SkySea Golden Era)も、携程中国旅遊網とロイヤル・カリビアンの合併会社に売船された。

中国クルーズ業界の発表によると、2017年、中国のクルーズ船乗客数はのべ495.5万人、前年比は8%増で、初めて増加率のペースが鈍化した。中でも、中国で最も豊かだと言われる華東地区の減少が顕著だった。

多くの国際クルーズ船が中国から撤退し、市場は調整期に入ると見る人が多いが、一方で乗船希望の顧客を吸収できず、嬉しい悲鳴を上げているクルーズもある。

日本のピースボートだ。来年12月出航のクルーズ定期便を除いて、世界一周のクルーズ商品はすでに満席。一方、中国からは乗船枠を求める連絡がどんどん入ってくるという。

大きなクルーズ船を入手してニーズに応えようと取り組んでいるが、中古船の調達がうまくいかず、心を鬼にして断り続けている。「中国市場への取り組みをもう少し早く本気でやっていれば、こんなもったいないことをせずに済んだのに」と幹部は地団駄を踏む。

日本に上陸した中国人が船に戻らないケースが増えている

一方、無視できない問題もある。クルーズ船で日本に上陸した中国人客が、船に戻らないケースが増えている。15年が21人、16年が36人、17年が79人と、わずか2年で約4倍になった。

確かに、滞在期間は最長30日間なので、船に戻らないからといって、すぐに不法滞在とはいえないが、ビザ(査証)なしで入国審査を通過できる制度を悪用したことには変わりない。しかも、その後も戻ってこなければ不法滞在者となる恐れもある。この問題は無視できない。

中国のクルーズ市場は大きく拡大している一方で、さまざまな課題も投げかけている。観光行政、そしてクルーズ業界も、一層力を入れて取り組むことが求められていると思う。

(作家・ジャーナリスト 莫 邦富)