串カツ田中、居酒屋チェーンの常識に逆行する戦略で急成長

日も暮れぬうちから飲む酒の旨さは、格別だ。そんな昼呑み目当てのシニアで賑わう居酒屋チェーンが続々オープンしている。アルミ容器いっぱいのソースの海に、揚げたての串カツを泳がせてかぶりつく。壁には「二度づけ禁止」の文字──。

大阪の庶民の味だった串カツが、全国に広がっている。それも繁華街ではなく、住宅街を中心に。サッシにガラス張りでお世辞にもオシャレとは言えない簡素な店構えだが、そんな串カツ居酒屋が昼間から賑わっている。

居酒屋業界の“革命児”と呼ばれる「串カツ田中」。2008年に世田谷区の三軒茶屋に1号店をオープンして以来、破竹の勢いで成長し、2016年には東証マザーズ市場に上場。わずか10年で全国210店舗(11月時点、以下同)に拡大し、売り上げは75億円(2018年11月期連結)に達する見込みだ。

串カツは定番の牛、豚をはじめ、ヘルシーなレンコンや紅しょうがまでよりどりみどり。さんまやサツマイモのような季節限定メニューも合わせれば約30~40種類がどれも1本100~200円で味わえる。

平日は16時から、休日は昼から開店している店が多いが、平日でも昼過ぎから営業している店舗もある。都内の店舗に足を運ぶと、驚く光景が広がっていた。近隣の飲食店の客足はまばらながら、串カツ田中の前には60~70代と思しき常連客が列をなす。1人呑みから団体まで、シニアを中心にテーブルはどんどん埋まっていった。串カツ田中ホールディングス社長の貫啓二(ぬき・けいじ)氏が語る。

「出店場所を繁華街ではなく、住宅地にしていることが大きいと考えています。店舗の約7割が住宅街にあります。駐輪場やスーパー、バス通りなど“近隣住民が毎日利用する”場所に設置することで、サラリーマンだけでなく、子供やお母さん、シニアの方など、地域の人々の目に触れやすい立地となっている。

認知度が上がることで、“串カツ田中に行ってみようか”と気軽に誘い合える店になっているように思います。住宅街に出店する利点はほかにもあって、賃料が安い、競合が少ない、アルバイトを集めやすい」

◆「原価率」は3割を守る

身近な場所にあって安い──それがリピーターの増加に繋がっている。いつも自宅から歩いて通っているという常連男性(65歳、元公務員)は語る。

「最初入ったときはチェーンと気づかなかったんだよね。小綺麗な店構えのワインバーなら入るのに躊躇するが、ここなら気兼ねがない(笑い)。4時過ぎに来て、串カツ2~3本とハイボール1杯だけ飲んで帰れば、1000円もかからない。それならカミさんに『また外で飲んできて』とかガミガミ言われることもない。家で軽めに夕飯を食べてあとは早めに寝ちゃう。天国だね」

地元の写真サークル仲間とよく来るという男性(70歳、無職)はこう言う。

「年取ると人によって食べる量が違う。串カツなら1本ずつ頼めるから、量の調整が利きやすいんだよね。酒飲むとそこまで食べないけど、仲間の中には10本以上頼むヤツもいる。揚げ物っていっても、野菜とかもあるから案外いけちゃうんだよ」

今年8月から約4割の店舗で平日の閉店時間を早くした一方で、土日の開店時間を早めた。客単価が高い時間帯の営業を減らし、逆に客単価が安い“昼呑み客”を狙うという戦略は、従来の居酒屋チェーンの常識に逆行する動きにも見える。

さらに、サイコロの目によってハイボールが無料になる“チンチロリン”など個性的な割引セールを常設することで、客単価はより一層下がっている。

実際、同社が発表した今年8月の調査によると、客単価は約2350円と、前年同月比に比べ2.1%も落ちている。これは大手居酒屋チェーンと比較しても700~1000円ほど安い水準だが、「1串108円均一セール」などキャンペーンを打ったことで、客数は12.1%増、売上高も9.7%増となっている。再び貫社長が語る。

「客単価を上げても、来店客が少なくてはあらゆる販促策の効果が弱まると考えています。だから客単価よりも客数と回転率を重視する。ただし、メニューの原価率には気をつけている。原価率3割を絶対の基準として死守しています。

利益を削るほどの安売りをすると、しわ寄せは従業員にいくし、サービスのレベルが下がる。お客さんからの評価も下がるという負のスパイラルに陥る。串カツの調理に必要なのはパン粉を付けて揚げる技術だけなので、ほかの居酒屋と違って料理人に高いお金を払わなくてもアルバイトをトレーニングすれば店を回すことができるんです」

サービスのレベルを維持できる値段設定を冷静に見極めているということだ。