松竹「歌舞伎使用禁止令」でG・カブキや歌舞伎揚どうなる?

江戸時代から脈々と受け継がれてきた伝統芸能の「歌舞伎」を巡って、いち民間企業がその“独占権”を主張し物議を呼んでいる。果たして歌舞伎は誰のものなのか──。

肌寒さが増した11月中旬の週末、東京・銀座の歌舞伎座の前には、開場前から溢れんばかりの人だかりができていた。

この日の演目は『隅田川続佛 法界坊』。僧役の市川猿之助が舞台を練り歩くたびに、会場から歓声が沸き上がった。

日本が誇る伝統芸能として世界に知られる歌舞伎。歌舞伎座だけで年間観客動員は100万人を超え、その市場規模は150億円ともいわれる。その興行を一手に握るのが松竹株式会社である。歌舞伎座だけでなく、新橋演舞場、京都・南座での公演も松竹が担う。その松竹の“影響力”の強さについて、ある広告代理店の幹部が語る。

「これまでもいくつか歌舞伎イベントの宣伝を担当していたんですが、今年の夏、そのうちのひとつが突然開催中止になってしまったんです。松竹から“うちの許可を取っていませんよね”と抗議の申し立てがあったということです。

驚いて聞くと、松竹は歌舞伎に関する商標を多数出願しており、興行や演芸の分野でも『歌舞伎』という名称の使用を管理し始めたと説明されました。松竹と無関係の団体は、『歌舞伎』と銘打ったイベントが打てなくなってしまったようなのです」

特許庁のデータベースで確認すると、確かに松竹による「歌舞伎」の商標登録がなされていた。

2002年にかつお節や寒天、焼き海苔、肉、乳製品、カレーなど食品全般で登録。2016年4月には寝具、家具、化粧品、ガラス製品、調理器などについても歌舞伎の商標を登録している。

さらに同年6月には「映画・演芸・演劇又は音楽の演奏の興行の企画又は運営、演劇の上演、演劇の演出又は上演、音楽の演奏」についても商標を出願。2018年3月には、爪切り、かみそり、スプーン、フォークなどの日用品で商標出願を行なっている(2016年以降の出願はいずれも審査中)。歌舞伎関係者が語る。

「商標出願の背景には、2020年の東京五輪とそれに伴う外国人観光客の増加が関係していると言われています。近年は海外観光客が見たら幻滅してしまいそうな“歌舞伎もどき”の興行が散見される。松竹には五輪前に歌舞伎が誤解されかねないイベントや商品を一掃したい狙いがあるようです」

◆「歌舞伎揚」も!?

「歌舞伎」を名乗ったり、公演することができないとなれば困る人々は多い。江戸時代から続く福島県の伝統芸能「檜枝岐歌舞伎」や、各地で行なわれる「子ども歌舞伎」はどうなるのか。プロレスラーの「ザ・グレート・カブキ」や、お菓子の「歌舞伎揚」の“処遇”も気になるところだ。商標に詳しいファーイースト国際特許事務所の平野泰弘弁理士が解説する。

「商標が登録されれば、その商標の使用希望者は登録者に許可をもらう必要があり、使用にあたって対価が発生する可能性も出てくる。すでに商標登録済みのジャンルについては、手続き上、松竹がその許諾権を有すると考えられます。

出願した時点で松竹に先願権(最初に出願した者がそれ以後の出願を排除できる権利)は発生する。興行についても、『すでに出願中で、もし商標登録された時は、その対価を請求する』と申し立てることが可能になります。ただし、特許庁で登録されなければ、最終的にはすべての権利が消失します」

平野氏は、興行としての歌舞伎については判断が複雑になると話す。

「興行における『歌舞伎』の商標登録はなかなか難しいと思います。興行に対しての『歌舞伎』という名称、呼称は広く世に浸透していると考えられるからです」

『松竹と東宝 興行をビジネスにした男たち』の著作のある作家・中川右介氏はこう話す。

「400年の歴史を持つ伝統芸能を1社が管理するというのは馴染まないと思います。昔はライバル会社による『東宝歌舞伎』もあったくらいです。その理屈が通れば、『能』や『狂言』にも同じことが起こりかねない。伝統芸能が一民間企業の占有物になるのは好ましくない」

では、松竹はどう主張しているのか。同社の演劇部はこう説明する。

「歌舞伎に最も深く関わり、その価値を守ってきたのは当社だという自負があります。昨今は歌舞伎と名乗りながら、あまりにいい加減なイベントが多い。詳しくない方がそういったものに触れて、歌舞伎を誤解されると非常に困る。最近は外国人の方からも注目され、東京五輪も迫る中、由々しき事態だと捉えていました。

誤った歌舞伎イメージを与えないよう、どこかが管理しなければいけないと思い、商標登録という選択に至ったのです。悪意ある無関係の人間に先に商標を登録されることを防ぐ、という意味合いもありました。今後は当社と合意して、きちんと契約した上で、『歌舞伎』の使用を認める考えもあります」

確かに松竹が近年の歌舞伎の発展に尽力してきたのは紛れもない事実だが、“知らざぁ言って聞かせやしょう”という“文化保存策”は、歌舞伎の将来にどのような影響を与えるのだろうか。