若者に恵方巻離れの兆し

(三矢 正浩:博報堂生活総合研究所・上席研究員)

 私の在籍している博報堂生活総合研究所は、1981年の設立から現在に至るまで、「生活者発想」に基づいて生活者の行動や意識、価値観とその変化をみつめ、さまざまな研究活動を行っています。

 前回に引き続き、世の中で生じている事象に対して、研究所に蓄積された研究成果やそれらに基づく独自の視点により考察を加えてまいります。読者の皆様にとって、発想や視野を広げるひとつのきっかけ・刺激となれば幸いです。

節分といえば、豆まき? 恵方巻?

 時の流れは速いもの。ついこのあいだ年が明けたと思ったら、あっという間にもうすぐ「節分」の時季になりました。元々節分は「立春、立夏、立秋、立冬」の前日=季節の分け目になる日という意味で、年に4回あるそうです。とはいえ今は「節分といえば2月の立春前」と考える人が一般的ではないでしょうか。

 その節分、家庭では豆まきをしたり、恵方巻を食べたりといろいろ季節の行事があるようですが、現在やっている人はどのくらいいるのでしょうか。

 生活総研の「生活定点」では最近一年間の年中行事の経験有無を質問しています。そのうち「節分に豆まきをした」「節分に恵方巻を食べた」の項目をみると、

●豆まきをした

 2018年:40.8%

●恵方巻を食べた

 2018年:51.6%

 直近2018年の調査結果では、恵方巻が豆まきを上回る結果となりました。地域や性年代などにブレイクダウンしてみても、すべての区分で恵方巻が強い結果となっています。特に阪神圏は、恵方巻の由来が大阪といわれていることもあり、非常に大きな差がついています。

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 もはや「節分といえば、豆まきよりも恵方巻」になっているようにも思えるこの結果。皆さんの実感と比べていかがでしょうか? 

豆まきはダウントレンドが続く

 “劣勢”の豆まきですが、だいぶ前からダウントレンドが続いていました。上述の「豆まきをした」の項目は、1992年から聴取をしています。

 時系列データをみると、1992年は55.4%と、やっている人が過半数でしたが、1998年に4割台に減少。2000年代はしばらく横ばい推移を続けていましたが、2012年以降は再び緩やかに減少し、直近が過去最低になっています。

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 豆まきをやっている人、やっていない人それぞれに、少し声をきいてみました。

●豆まきをやっている人たちの声

「買ってきた豆を、子どもと一緒に『福は内、鬼は外』と言って家や玄関でまき、歳の数だけ食べます」(30代男性)

「日本の風物を伝える意味で、子どもが生まれて保育園年長になった頃からやっています。妻の実家からマスが来るので、マスに大豆を入れて、玄関から外に向かって家族3人で豆をまきます」(40代男性)

●豆まきをやっていない人たちの声

「中学生くらいまで実家ではやっていましたが、ひとり暮らしになってからはやっていません」(30代女性)

「小学校低学年くらいまではやっていた記憶があります。やめた理由としては、自分が大きくなったからと、掃除が面倒、豆を捨てるのがもったいないような気がする、などでしょうか」(20代男性)

「子どもがいればやるかもしれないが、いい歳の夫婦二人で豆をまくのはちょっと・・・」(40代男性)

などの意見が集まりました。

「声を発しながら豆をまく」という行為を伴う行事のため、家族に一定年齢の子どもがいればやりやすいけれど、家族の面々がもう「いい歳」ないし「ひとり暮らし」では、さすがにもういいだろう・・・とそんな気持ちになるようです。

 少子化や単身世帯の増加という日本社会の状況が、この「豆まきの減少」に現れているように思います。ガクンと一気に落ちるのではなく、じわじわと下降線をたどる時系列データの動きも、徐々に変化する家族構成・世帯構成の動きに照らして考えれば、腑に落ちるのではないでしょうか。

恵方巻はじわじわ増加、豆まきとの差を拡大

 一方の恵方巻は、時系列ではどうなっているのでしょうか。こちらは2010年から聴取している項目になりますが、この時点で46.7%と、すでに豆まき(43.8%)を上回っています。減少を続ける豆まきを尻目に、その後も恵方巻は増加。2010年時点で2.9ポイントと僅差だった両者の差は、2016年時点には12.4ポイントまで広がる格好になっています。

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 たしかに近年、恵方巻の情報を目にする機会がどんどん増えています。

 筆者は関東出身で、幼少の頃は恵方巻の存在そのものを知りませんでした(豆まきはやっていました)。ですが、昨今は正月明けのタイミングから街を歩けば、必ずと言っていいほど恵方巻の情報が視界に飛び込んでくるようになりました。流通の食品コーナーに足を運んでも、のれんやノボリ、ポスターなどで予約販売告知が賑やかに行われており、季節商戦の目玉のような存在に。明らかに豆まきよりも勢いを感じます。

 恵方巻についても、少し声を聞いてみました。

●恵方巻を食べている人たちの声

「作るのは手間なので買っています。皆で一斉に食べるのは、ちょっと面白いです」(30代女性)

「奥さんが買ってくるので、iPhoneで方角を確認して、正しい方角を向いて食べています」(30代男性)

●恵方巻を食べていない人たちの声

「一回も食べたことがないです。実家でも元々、恵方巻きを食べる習慣はありませんでした。個人的には、あんまり巻物好きじゃないので、今後も買わないかなと思います」(20代男性)

「そもそも恵方巻きを食べる文化がないということかもしれません。家族の中に海苔巻きが好きな人がいないということもありそうな気がします」(30代男性)

「自分が子供のころに習慣になく、自分もやったことがないので。妻も関東出身で、夫婦ともに食べる習慣がない」(40代男性)

「iPhoneで方角を確認」という現代風アレンジ(?)を利かせて食べている人もいれば、ここまで情報量が増えても「習慣としてのなじみがない」「食の好みではない」からと食べていない人も少なからずいるようでした。

定着か? ブームで終わるか?

 そんな恵方巻、この先はどうなっていくのでしょうか。

 先に示した時系列データをみると、直近の2016年から2018年にかけては、食べている生活者は減少に転じており(-2.4ポイント)、数値の上でも2014年を下回っています。

 さらに興味深いのは年代別のデータです。特に落ち込みが目立つのが20代で、実は2018年が「過去最低」になっているのです。

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 若者の「恵方巻離れ」とも言いうるこの状況。元々伝統として恵方巻を食べていなかった人たち、特にトレンドに敏感な若い人たちが「一時の流行に乗る」感覚で食べていたのだとすれば、2018年のこの結果は、これまでの好調な流れにひとつの“節目”が訪れたシグナルであると、そんな可能性も見てとれます。

 巷の盛り上がりの一方で、最近では廃棄ロスの問題も指摘されている恵方巻。農林水産省は1月に入り、「恵方巻のシーズンを控えた食品の廃棄を削減するための対応について」という文書を出し、「需要に見合った製造・販売を」と呼びかけています。

 兵庫県にあるスーパーでは広告で「昨年の実績ベースで販売する」ことを表明。商戦過熱に自らブレーキをかける動きに出るなど、恵方巻の販売をめぐる状況にも少しずつ変化が生じているようです。

 減少を続ける豆まきに変わる、節分の新たな「慣習」として定着していくのか? それとも一過性の「ブーム」で終わってしまうのか?

 恵方巻をめぐる今年の動向に、注目したいところです。

○「生活定点」調査概要

調査地域:首都40Km圏、阪神30Km圏

調査対象:20~69歳の男女3080人(2018年・有効回収数)

調査手法:訪問留置法

調査時期:1992年から偶数年5月に実施(最新調査は2018年5月16日~6月15日)

○「生活定点」ウェブサイト

https://seikatsusoken.jp/teiten/