大坂なおみの国籍で「政権倒れる」毎日新聞記者のあきれた論理

山岡鉄秀(AJCN代表)

 ジャーナリストで帝京大学教授の潮田道夫氏のツイートが論議を呼んでいる。

 大坂なおみの国籍選択の期限が来る。五輪もあるし、多分米国籍を選択すると思うが、そのときの日本人の失望はすごいだろうな。政権が倒れるぞ、下手をすると。マスコミも困るだろうな。どうする諸君。(2019年1月27日)

 このツイートを見たら、誰だって強い違和感を抱くだろう。その辺の誰かがつぶやいただけなら笑われておしまいだろうが、名のあるジャーナリストで、しかも大学教授となるとそういうわけにもいかない。私も潮田氏の経歴を知って驚愕(きょうがく)した。

東京大学経済学部卒業。1974年に毎日新聞社入社。経済部、政治部、ワシントン特派員、経済部長、編集局次長、論説委員、論説委員長、専門編集委員などを経て2013年からは客員編集委員。

 いわゆるエリートである。だから深刻なのだ。

 大坂は米国を拠点にしているのだから、今年10月に迎える22歳の誕生日までに米国籍を選ぶ方が合理的である。もしそうなったら、われわれ日本人ファンはがっかりするが、それでも「日本人の心」を宿した「なおみちゃん」を応援し続けるだろう。それがまともな日本人の発想だ。ましてや、安倍政権は何ら関係ない。潮田氏の発想は全く日本人的ではなく、驚きを禁じ得ない。 私はこの事実を知らされるまでこのツイートを見ていなかったし、見ていたとしても反応しなかっただろう。いや、それどころか見なかったことにしようとするだろう。なぜならば、このツイートを見て私の胸によみがえるのは昨年1年間、ケント・ギルバートさんと朝日新聞を追及している際に何度も味わった「ほの暗い絶望感」があったからだ。

 ケントさんと私は、イデオロギーを横に置き、純粋に朝日新聞の「自己矛盾」を追及した。歴史認識を巡る議論ではなく、朝日新聞自身の一貫性のなさ、すなわち「欺瞞(ぎまん)性」を事実に基づき、理論的にとことん追及した。

 朝日新聞の社員であれば、世間一般では「エリート」「インテリ」で通って来た。高学歴なのも当然である。

 しかし、8度に及ぶ書簡交換で送られてきた朝日新聞の回答は、われわれに衝撃を与えた。ケントさんは「慇懃(いんぎん)無礼」だと怒ったが、むしろ私は「内容の空虚さ、論理的整合性の欠如」に愕然(がくぜん)とした。

 どれほど論理破綻しても、それを認めず、何が何でも自分たちの偏狭なイデオロギーにしがみ付く。その結果、まともな回答もできなくなり、ついにはとてもプロが書いたとは思えない文章を平気で返してきた。朝日の回答は、まさに「証拠? ねーよ、そんなもん」の世界に満ちていたのである。

 彼らは「何かが壊れている」と感じた。朝日新聞追及の顛末をまとめたケントさんとの共著『日本を貶め続ける朝日新聞との対決 全記録』(飛鳥新社)にも書いたが、確かに朝日新聞にはマルクス主義的な「反日活動家メンタリティ」という伝統がいまだに宿っており、特異な精神構造を維持している。しかし長年、日本を離れていた私は朝日新聞の異常性と並行して「現代日本における高学歴エリート・インテリ層の劣化と瓦解(がかい)」が急速に進行しているのではないか、という気がしてならなかった。

 だから、朝日新聞の回答書簡を読むたびに、私は「日本という国は壊れかけているのではないか。それは戦後のいびつな教育に起因しているのではないか」との思いを徐々に抱くようになった。それは、不誠実な朝日新聞への憤りとは別に、漠然とした不安と焦燥感、そして「ほの暗い絶望感」とでも形容すべき感情である。

 潮田氏のツイートを見た瞬間、その忘れかけていた「ほの暗い絶望感」がよみがえってきた。笑う気にも怒る気にも、なれなかった。

 そしてもう一つ、朝日新聞との顕著な共通性が見て取れる。自己の思想信条から意識的に距離を置くことができず、強引な「結び付け」を行ってしまうことである。

 私が朝日新聞に対して疑念を抱くようになった契機は多々あるが、最大のものはやはり1989年の「サンゴ事件」だ。朝日新聞のカメラマンが自作自演で沖縄・西表島のサンゴに傷を付けて落書きし、その写真と手書き原稿をもとに、企画報道室の記者が書き直し、虚構の新聞記事を書いたとされる捏造事件だ。

サンゴ汚したK・Yってだれだ

 これは一体なんのつもりだろう。(中略)この「K・Y」のイニシャルを見つけたとき、しばし言葉を失った。(中略)日本人は、落書きにかけては今や世界に冠たる民族かもしれない。だけどこれは、将来の人たちが見たら、80年代日本人の記念碑になるに違いない。百年単位で育ってきたものを、瞬時に傷つけて恥じない、精神の貧しさの、すさんだ心の…。にしても、一体「K・Y」ってだれだ。「朝日新聞東京本社版」1989年4月20日付夕刊一面より

 この記事の大きな特徴は、貴重なサンゴに傷をつけて落書きする、という不届きな行為を日本人全体の精神的貧困とすさんだ心に無理やり結び付けているところだ。普段から「日本人を民族として貶めたい」という欲求に駆られていたとしか思えない飛躍ぶりである。

 件の潮田氏のツイートにも類似した飛躍がある。大坂なおみが米国籍を選択したら、どうして安倍政権が倒れるのだろうか。本人どころか誰にも全く説明できない飛躍であり、「安倍政権を倒したい」という潮田氏の願望に無意識に結びついているとしか思えない。

 第三者から見れば、極めて無理な発想なのだが、ご本人にとっては自然なのだろう。なぜ、自身の思想信条から距離を置いて、事実を客観的に捉えられないのか。

 しかし、われわれには「望み」がある。二つ例を挙げたい。まずは大坂なおみ、その人が「希望」だ。グランドスラム初優勝を飾った昨年の全米オープンテニスの表彰式で、彼女が取った態度が今も忘れられない。

 準優勝のセリーナ・ウィリアムズがプレー中に審判に暴言を吐くなど、試合が終わっても会場は異様な雰囲気に包まれていた。そんなセリーナのかんしゃくで晴れの舞台を台無しにされ、表彰台でセリーナびいきの観客からのブーイングを受けたとき、大坂はとっさにキャップのつばをずり下ろし、涙を隠した。

 それでも、彼女は理不尽な扱いに怒ろうともせず、「優勝してどんな気持ちか?」という質問には答えずに「皆がセリーナの応援をしているのは知っていたわ。こんな終わり方になってごめんなさい。私が伝えたいのは『試合を見てくれてありがとう』っていうこと。ありがとう!」と観客に呼びかけた。そして、セリーナに対しても「あなたと試合ができて本当に感謝しています。ありがとう!」と伝えたのである。

 私を含む多くのファンが「なぜ君が謝るんだ!」と心の中で憤りながら、同時に彼女の美しい心持ちに感動し、涙がこみ上げて来たのではないだろうか。もちろん、大坂にはこれからもずっと日本を代表して輝かしいキャリアを築いてほしい。

 でも「なおみちゃん」がどんな選択をしても、われわれ日本人はずっと日本人の心を宿した彼女を応援し続ける。それが日本人だ。政権とは何の関係もない。潮田氏にはせめて、その事実だけでも気付いてほしい。 もう一つは、教育制度の大きな変化である。「AI(人工知能)時代」を迎えて、大学の在り方も知性の測り方もそうだが、日本の教育制度はようやく変わらざるを得なくなった。マークシートで1点を競い合い、高学歴エリート層を築いてきた無意味な学習から、一日も早く脱却しなくてはならない。

 求められるのはAIが代替できない創造力と柔軟な知性だ。日本は今、「失われた30年」を経て、「二流先進国」に脱落する危機にある。それは根本的に、「日本的教育の敗北」を意味する。「壊れかけたインテリ」という戦後教育の残骸を乗り越えて日本を再興するためには、若い知性の育成が何よりも急がれる。