これから漁業の“逆転劇”が始まるワケ

水産業は、世界的にみれば養殖を中心に成長しているが、かつて世界一の漁業国だった日本は、残念ながら水産業は衰退産業の様相を呈している。そんな中、2018年12月に改正漁業法が公布された。漁獲量などの規制強化と、漁業許可制度や漁業権などの規制緩和が同居する内容で、成長産業化を目指す政府の「水産改革」がいよいよ本格化する。日本の水産業にも、水産物輸出額の伸び、就業人口の若返りの兆し、漁業とITが結びついた「漁業テック」のようなイノベーションの波動など、未来への希望の光も見えている。

【詳細な図や写真】世界の水産業生産量の推移

●2019年は「水産業改革元年」になるか?

 2018年12月14日、「漁業法等の一部を改正する等の法律」が公布された。

 この改正漁業法では、「TAC(漁獲可能量)制度」のもとでの漁獲量管理対象魚種の拡大、TAC制度を漁業者、船舶ごとに割り当て、割当量を超える漁獲を禁止する「漁獲割当て制度(IQ)」の導入や、密漁への罰則強化のような規制の強化が図られている。

 その一方で、漁業許可制度の見直し、漁業権制度の見直しによる養殖漁業、沿岸漁業の規制緩和、漁協改革なども盛り込まれた。

 安倍内閣の「農林水産業・地域の活力創造本部」では「農林水産政策改革の検討結果等及び農林水産業・地域の活力創造プラン改訂案」を審議しているが、そこでは水産業を地方創生の大きな柱の一つと位置づける。

 2019年、漁業法の改正により「水産改革」もいよいよ本格化する。農業や林業がそうだったように、企業の新規参入、ITなどを活用したイノベーションも期待され、「水産業改革元年」と言ってもいいような大きな転換点を迎えようとしている。

●日本の漁業は、長期低落の衰退産業

 だが、日本の水産業の現実は厳しい。

 水産業を大きく分けると、海や川や湖に生息している天然の魚介類をとる「捕獲漁業」と、魚介類を人工的に飼育して出荷する「養殖(栽培漁業)」がある(「捕獲漁業」「養殖」どちらも海草類を含む)。

 FAO(国連食糧農業機関)の世界統計によると、近年の捕獲漁業の生産量は80年代からほぼ横ばいだが、養殖の生産量は右肩上がりで伸びており、2010年から2016年までの間に35.7%成長した。1988年比では6.8倍になっている。現在、捕獲漁業と養殖は生産量でほぼ肩を並べていて、逆転は時間の問題だといわれている。養殖が拡大したことで世界の水産業生産量(合計)も、2010年から2016年までに16.4%の成長をみせた。このように水産業は世界的にみれば「成長産業」に属している。


 しかし、日本はそうではなく、数字の上でははっきりと、水産業は長期低落の「衰退産業」の様相を呈している。農林水産省の統計によると、2013年に477.4万トンだった水産業生産量は、2017年には430.4万トンで、4年間に9.8%減少した。ピークだった1984年の1282万トンと比べると約3分の1で、国別では世界第1位から第7位に後退した。


 水産業の生産量が減っている主な理由は、日本は世界的に伸びている養殖(海面・内水面)の生産量が104.7万トン(2017年)で全体の24.3%しかなく、海面での捕獲漁業が主体だからだといわれる。

 捕獲漁業の課題は多く、操業が国連海洋法条約で定められた排他的経済水域(EEZ)に制約され、クロマグロなど水産資源の国際的な漁獲規制の動きを受けて国内でもTAC(漁獲可能量)制度が設けられ、原油価格の高騰が燃料費高騰に直結して採算が悪化し、さらに人口の高齢化による人手不足に悩まされている。

●「和食」は文化遺産、輸出には希望が見える

 とはいえ、日本産の水産物の輸出金額は伸びている。財務省の「貿易統計」をもとに農林水産省が作成した統計によると、2012年の1698億円から2017年の2750億円へ、5年間で61.9%も増えた。

 その背景にあるのは為替の円安だけではない。2013年12月、「和食」がユネスコ無形文化遺産に登録されたが、日本を訪れて、あるいは世界各国の日本料理店やスシバーなどで、魚種が豊富で安全で高品質な日本産の魚介類を味わった人は、きっとまた食べたくなるはずだ。


 農林水産省は2019年に農林水産物・食品の輸出額を1兆円の大台に乗せる目標を掲げて輸出振興を推進している。水産物は鮮度が重要なので輸出拡大には障害も少なくないが、低迷する魚価の上昇にもつながるため、長期低落傾向の日本の水産業にとって輸出の伸びは、大きな希望と言える。

●海上作業従事者の若手比率は高まっているが……

 農林水産省は、1年間の海上作業従事日数が30日以上の人を「漁業就業者」とカウントしている。そのほとんどは沿岸漁業、沖合漁業、遠洋漁業など海上の捕獲漁業に従事している。漁業就業者数は2003年は23.8万人だったが、2017年は15.3万人で35.7%減少し、14年間でおよそ3分の2に減った。

 平均年齢は56.7歳(2016年)だが、「団塊の世代」が70歳を超えはじめた現在、労働環境が厳しい海上作業は若返りが進んでいる。2016年は1927人が新規就業し、29歳以下はその約5割を占める。漁業就業者に占める15~24歳の「若手」の比率は2003年の2.8%から、2017年は3.6%に上昇している。


 漁師の世界も農業や製造業と同じように、ベテランから若手への「技術の継承」が大きな問題になっているが、日本の水産業を復活・再生させる希望の担い手は、この若手たちだ。もし、彼らを失望させ、見切りをつけさせてしまったら、日本の水産業はさらに衰退の道をたどってしまうだろう。

 若い人たちにとって魅力があり、希望が持てるような水産業に変わらなければ、明るい未来は約束されない。その意味でも「水産改革」は、まさに待ったなしの課題である。

●漁業+ITの「漁業テック」の挑戦者たち

 水産業はテクノロジーと縁遠いわけではない。いまだに「頑固なベテラン漁師が長年の経験と勘だけに頼って漁をしている」と思っている人がいるかもしれないが、今の漁船にはレーダーがあり、船舶無線があり、GPSがあり、魚群探知機があり、ソナー(音波探知機)がある。衛星通信ができる船もある。

 海上の通信インフラが十分に整ったら、IT企業の提供するシステムと連携し、漁業にイノベーションを起こせる可能性は十分にある。

 また養殖(栽培漁業)でも、農業のハウス栽培では温度や湿度、土壌や水や肥料を管理しているのと同様に、より高品質な水産物を安定的に出荷できるよう、生産者は養殖場の水温や水質、飼料などをきめ細かく管理しようと努力している。その管理システムにITが関与できる余地は大きい。たとえば水産加工業者や都会のスーパーと結んで、消費需要に即応して供給量を細かく調整、最適化させるような産地直送システムも可能だ。

 このように漁業とITシステムが結びついたものは「漁業テック」や「スマート漁業」と呼ばれている。その研究開発で先端を走っているのが、北海道函館市にある公立はこだて未来大学である。

 同大学が「マリンIT」と呼ぶ研究開発成果には「ユビキタスブイ」、スマホアプリに定着網内の魚群探知機の画像を送る「ユビキタス魚群探知機」と「定着網モニタリングシステム」、iPadアプリの「デジタル操業日誌」などがある。

 プロジェクトの中心的人物である和田雅昭教授は漁業テックのパイオニア的存在だ。北海道大学水産学部卒業後、函館市の東和電機製作所のプログラマーとして、イカ釣り漁師が竿(さお)を振る「しゃくり」の技をコンピューターで解析・再現・自動化する「イカ釣りロボット」の開発に同氏は成功している。

 2017年9月に設立されたライトハウス(本社・福岡市)は船団運営支援システム「ISANA」を開発した。これは漁業船団の効率化支援システムで、船団の各船の位置情報、魚群探知機やソナーの情報を画像ベースで可視化、共有化し、どの海域に行き、どこで網を出して魚をとるか、適切な指示出しができるようにサポートする。すでにいくつかの船団に導入され、コミュニケーションよく、ムダなく、効率的に魚をとれると好評だ。

 ライトハウスは2018年5月、日本生命グループでスタートアップ投資を行うファンド、ニッセイ・キャピタルのアクセラレータプログラム「50M」の第1期採択企業の中でトップの「最優秀賞」に選ばれた。

 創業者で代表取締役の新藤克貴氏は、将来は漁船にセンサーをつけて細かなデータを収集し、「魚を探す」「魚をとる」をスマホアプリで自動化するシステムや、自動運転の船舶版の「自動操舵(そうだ)」による漁船のロボット化、AI活用による半自動化漁業を構想する。

 2017年7月に創業したクラウド漁業(本社・大阪府豊中市)も、漁業テックの新鋭だ。同社は鯖を専門に扱う外食チェーン鯖やグループの代表である右田孝宣氏がクラウドファンディングで資金調達し創業したした。同社はKDDIや福井県立大学、自治体、漁協と共同で福井県小浜市でサバ養殖場のIoT化事業に取り組むほか、値段のつかない未利用魚を利用した養殖用低価格エサの開発、混合養殖への挑戦、地域の活性化プロデュースなどにも挑戦する。養殖サバは同グループのサバ専門レストラン「SABAR(サバール)」などの店舗に店舗に供給する。


 ウミトロン(本社・東京)も「養殖テック」企業で2016年4月に創業した。2017年6月、養殖いけすをモニタリングし、魚群データ解析によって給餌コストの最適化を図る「ウミガーデン」を発売した。将来、IoTやAIを活用して「コンピュータが魚を育てる社会」を実現させることを目指している。



 ドローン技術の活用は、飛行ドローンが「鳥の目」、水中ドローンが「魚(さかな)の目」で魚群を追うほか、ドローン船(自動航行船)の研究も進められている。こうした「漁業テック」「スマート漁業」の研究開発には、スタートアップ企業だけでなく富士通やKDDIのような大手IT企業も参入している。

●「水産業を成長産業に」政府も予算増額の悲願

 2018年12月21日に閣議決定された平成31年度予算案では、水産分野に前年度比約2割増の2167億円が計上された。改正漁業法に基づいて、水産資源の適切な管理とともに「水産業の成長産業化」がうたわれている。

 予算案では、資源・漁獲情報ネットワーク構築事業やICT技術を活用した漁場の見える化、漁場探索の効率化を推進するなど「スマート水産業推進事業」に、前年度比約1億円増の5億1100万円が配分されている。

 このように「水産改革」に意欲を見せる政府のバックアップも受け、「水産業改革元年」がいまスタートしようとしている。