「ゆるブラック企業」で働いてませんか? 楽だけどスキルも成長もないダメ企業はコレだ!

ブラック企業」が社会問題になっているが、「ゆるブラック企業」という言葉があるのをご存じだろうか。「厳しい残業はないが、スキルも得られず成長もない」「ただダラダラ働いて年をとるだけ」の会社を、そう呼ぶそうだ。

知らないうちに若い人をダメ人間にする点で、ある意味、ブラック企業より怖いかもしれない。その「ゆるブラック企業」がどんな業種に多いかを調査したレポートが発表された。その意外な結果とは――。

「ダラダラ働き、5年もいれば向上心も成長もなくなる」

調査をまとめたのは、大学を卒業していない若い人のキャリアづくりに取り組んでいる一般社団法人スクール・トゥ・ワーク代表理事の古屋星斗(ふるや・しょうと)さんだ。2019年2月6日、就職・転職のための企業リサーチサイト「Vorkers」が運営する「ヴォーカーズ」の「働きがい研究所」に、「残業はないが成長もない。『ゆるブラック企業』を見える化する」と題する分析レポートを発表した。

「ゆるブラック企業」が話題になったのは昨年5月、あるツイッターユーザーがこんな投稿をしたのがきっかけだ。

「『ゆるブラック企業』ってある。何年やっても月給20万ちょいで、キャリアパスはなく他社で通用するスキルも身につかない。サービス残業当たり前だが体育会系ではなく、ダラダラやるからしんどくはない。だから離職率は意外に少ないが、5年もいれば向上心もスキルもなくなり、年だけとって人生終わるとこ」

この投稿に対してインターネットでは、次のように共感の声が寄せられた。

「うちの会社もこんな感じだわ……」「本当にこれはあるある!スキルもなく歳だけとっていくって怖い」「大企業のSE(システムエンジニア)系子会社とか結構当てはまりそう」「ゆるブラいいじゃん。終身雇用なら問題なし。むしろゆるブラに入りたい!」

どうして「ゆるブラック企業」を調査することにしたのか。J-CASTニュース会社ウォッチ編集部の取材に応じた古屋さんはこう語った。

「働き方改革の進展もあり、就職活動の学生が『月の残業時間』『有休消化率』などの『数字』を気にして、労働環境のよい職場を探す傾向が強いなと感じていました。私の主宰する団体で、高校生向けキャリア教育を行っていますが、『何時に帰れますか』と聞く生徒がとても多い。一方で、経験豊かな社会人と話をすると、若い時期に厳しい経験をさせてくれた職場に感謝している人が多くいます。このギャップに違和感を持ち、データで見ることができないかと考えたのです。『ゆるブラック』という名称は昨年、ネット上で見かけて上手いなあと共感し、使わせてもらいました」

「自分の成長につながる修羅場経験」が若手に必要

古屋さんによると、日本の就活システムでは、スキルを持っていない学生が企業とマッチングする。企業は学生にスキルやパフォーマンスを期待しているわけではなく、可能性を求めて採用するから、職場で上司や先輩が実務を指導しながら教育していく。だから、特に20代が成長するためには、『修羅場』や『厳しい場面を乗り切った成功体験』が重要だと語られることが多い。もちろん、単なるハードワークではなく、振り返って「あの仕事をしてよかった」と思えるような経験だ。こうした経験や成長が得られればよいが、得られない企業が「ゆるブラック企業」と呼ばれることになったというわけだ。

そこで古屋さんはまず、「自分の成長につながる修羅場経験」をすることができる企業とはどういった企業なのかを調べることから、逆に「ゆるブラック企業」を浮き彫りにする方法をとった。「自分の成長につながる修羅場経験」ができない企業こそ「ゆるブラック企業」というわけだ。

調査には、Vorkersに蓄積された「社員クチコミデータ」を使った。20~29歳の6万8313人が自分の職場について詳細に回答したもので、「残業時間」や「成長環境の度合い」までわかる。「修羅場」については、月残業時間の20代平均が35.6時間なので、月60時間以上の職場とした。「成長」については、成長環境を5.0点満点で4.0点(よい)、5.0点(非常によい)などと評価しているので、4.0点以上の企業を「20代成長環境スコアが高い」と判断した。

その結果、20代全体のうち、月残業時間が60時間以上の人が20.2%いた。そして、「月60時間以上の残業」をして、なおかつ「20代成長環境スコア」が4.0よりも高い人が8.3%いた。この人たちこそ「自分の成長につながる修羅場経験」をした者として分析の対象にした。ちなみに、「20代成長環境スコア」が4.0以上の人は20代全体では32.6%しかいなかったが、「月残業時間が60時間以上の人」の中では41.1%もいた。つまり、「修羅場」経験を積んだ人のほうが成長する割合が高く、調査の方向性は間違っていないわけだ。

小さな会社ほど「成長につながる良い経験」ができる

では、20代で自分の成長につながる修羅場経験ができるのはどんな企業だろうか。8.3%の人の企業の中身をまとめたのが図表1だ。

企業規模別では、ベンチャーなど小規模な企業が最も高く11.6%、大企業になるほど低くなる。5000人以上の超大企業では7.1%と最も低く、100人未満の企業と1.6倍の差があった。小規模な企業では若い人の裁量権が大きく、20代でも相応のポストに昇進することも珍しくない。そうした環境が、ハードワークの中から生み出される「成長につながる良い経験」に至っていると考えられるという。

業種別では、コンサルティング30.7%、マスコミ19.7%が突出して高く、インフラ、運輸3.0%、メディカル3.5%、メーカー・商社5.1%、金融5.2%などがかなり低く、大きな差がある。コンサルティング企業は「アップ・オア・アウト(Up or Out)」の業界として知られる。日本語に直訳すると「昇進するか、辞めるか」の意味だ。若い人にも早くからチャンスが与えられるが、成果を出さなければならず、厳しい環境の中でスキルを伸ばすことができる。

「これで、業種別や規模別で何人くらいが『自分の成長につながる修羅場経験』ができるか、ということはわかりました。しかし、単に忙しいために『修羅場経験』の割合が高いのか、それとも『修羅場経験』につながるような良い経験ができる可能性が高い環境があるのか、はわかりません」(古屋さん)

そこで古屋さんは、この2点を分解してみた。それぞれの業種ごとに「ハードワーク率」(残業が月60時間を超えている者の割合)と、「育った率」(残業が月60時間を超えている者の中で、20代成長環境スコアが4.0以上と高い者の割合)を調べたのだ。「育った率」が高いことは、ハードワークが良い経験となった人が多いことを意味する。一方、「育った率」が低い場合は、ハードワークが単なる過剰労働に終わり、成長にはつながっていないことを意味する=図表2参照。

そして、2つの指標をまとめたのが図表3だ。ハードワークが多いのはどういった企業か。「ハードワーク率」を見ると、企業規模が大きくなるほど割合は下がるが、「育った率」を見ると、企業規模によって大きな差はない。小規模な企業では仕事の機会の多さが、結果として「自分の成長につながる修羅場経験」に至っているとわかる。

修羅場を経て成長したければコンサルティングが一番

業種別にみると、おもしろいことに気づく。コンサルティングとマスコミはともに「自分の成長につながる修羅場経験」ができる割合が高い業種だった=図表1参照。しかし、分解してみると構造は大きく異なってくる。コンサルティングは「ハードワーク率」(46.3%)と「育った率」(66.5%)が両方とも高いのに、マスコミでは「ハードワーク率」(42.5%)は高いが、「育った率」(46.3%)は平均(41.1%)を少し上回る程度だ。また、「自分の成長につながる修羅場経験」率では平均程度だったIT・通信・インターネットは、「ハードワーク率」(20.6%)が低いが、「育った率」(51.0%)が非常に高かった。

この結果を、古屋さんは

「コンサルティングは新陳代謝の激しさもあり、若手にチャンスが分配されている業界です。マスコミは年数や経験がモノをいう人脈などが専門性に直結するためか、『育った』という思いを若いうちには感じづらいのかもしれません。分析を『ハードワーク率』と『育った率』に分解したように、私は『ハードワーク=育つ』という発想自体は前時代的であると思っています。他方、その仕事で一人前になるための時間、つまり『最低努力時間』のような考え方はまだ存在しています。そう考えると、『育った率』については、マスコミのように『最低努力時間』が長い業種では、20代のうちに『成長』を感じづらく、『最低努力時間』が長すぎることから、20代に大きなチャンスを分配できていない業種が、『育った率』が低くなる傾向にあるとみています。こうした業種では、若手は忙しいけど大きなチャンスが巡ってこない、という状況が起こるのです」

と説明した。

というわけで、深読みすればこのデータは、「『本当にその仕事の最低努力時間がそんなに長くていいのか?』『一人前になるための期間はもっと短くできるのではないか?』という大きな疑問を投げかけているのかもしれません」。

こうしたデータから「ハードワーク率」と「育った率」をもとに、業種をマッピングしたのが図表4だ。平均の右上に存在している業種が「厳しい仕事が多く、成長できる」業種だ。特に「ハードワーク率」と「育った率」の相関近似曲線よりも上側にある、コンサルティングやIT・通信・インターネットは効果的に成長できる可能性が高いといえる。

「ゆるブラック」は行政機関、社団法人、学校法人に

一方、平均の左下に存在している業種が「厳しい仕事が少なく、(厳しい残業に)当たっても成長できない」業種だ。特に近似曲線の下にある、インフラ、運輸、メーカー・商社、行政機関、社団法人、学校法人は20代で大きく成長できる可能性が低いことが示唆されている。ハードワークを経験した人が少なく、経験しても「育った」と感じる人も少ない結果となった。「ゆるブラック企業」はこうした業種に多い可能性があるというわけだ。

では、なぜこれらの業種に「ゆるブラック企業」が多いのだろうか。古屋さんは、

「かなりいろいろな業種が混在しているため、その理由は一概には言えませんが、あえて共通点を挙げれば、新卒が総合職採用メインでジョブローテーションがあり、短期間でいろいろなポストを回されることがあるでしょう。ひとつのプロジェクトで根を詰めて、というわけではありませんから、専門性を持ちたい、将来第一人者になりたい、と考えている若手にとっては魅力的でない環境と言えるかもしれません」

という。

古屋さんは若い人に、こうアドバイスしている。

「日本の場合、初めての職業には、『仕事である』ということと合わせて、『学びの空間』としての性質があると思います。アメリカなどと異なり、多くの学生が職業経験を経ずに入社しますから、初期の企業で職業人として学ぶことが多いのです。会社の規模や給与、労働時間など数字で見えることも重要ですが、それに加えて、その企業が提供できる『経験』や『チャンス』に注目した選択をすることが、安定したキャリアづくりへの近道だと思います。低賃金・悪条件で、意味のない『修羅場経験』をさせる企業は駆逐されると思います。今回のデータでは、適正な環境・待遇を用意しつつ『経験』という形で、キャリアを作っていくうえでの重要な資産を若者に提供できている企業が一定数存在していることを表しています。貴重な職業経験を積める企業を見つけてください。そろそろ、『ブラックかホワイトか』という二項対立から一歩進む段階なのかもしれません。企業と個人が依存関係ではなく、相互に得るものを最大化するような社会を実現したいですね」

(福田和郎)