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色々なものが雑多にファイリングされています。

リッツ・カールトンに学ぶ バカッター対策としての水際作戦

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前編では、なぜ飲食店でのバイトテロが大炎上するのか、日本のタブーからその理由を考えてみた。では、どうしたらバカッターを止めることができるのか。ポイントはアルバイトに「意味」を教えることにある。

●バカッター騒動を防止する方法

 企業で働く人、特に店長や管理職、経営者は、どうすればこういったトラブルを防ぐことができるか頭を痛めていると思うが、やるべきことは必要なことを教えればいいだけだ。アルバイトの研修は多くの業種で形骸化し、1日やればかなりマシな方、数時間から数十分であとはやりながら覚えろというケースは多い。その内容も業務の「行動」にだけフォーカスし、「意味」を教えるケースはまれだ。

 なぜこの仕事をやる必要があるのか? それを教えず表面的な行動を言われた通りにやれといわれても、アルバイトは見えない所で手を抜き、最悪の場合は悪ふざけを撮影してSNSにアップロードするかもしれない。バカッター騒動はバイトテロと呼ばれているが、実際のテロ対策は警察や特殊部隊を街の隅々に配置することではない。根本的な対策はそもそもテロを起こそうと思う人を生み出さない事だ。そのためにはやはり教育・研修が必要となる。

 もし筆者がすし屋を経営していて、アルバイトにバカッター騒動を起こさないように指導しなければいけない立場ならどうするか? そして、もし筆者が高校生だったらどのような指導を受ければ理解、納得できるか?

 すし職人になりたいわけでもないアルバイトに、経営者と同じ感覚を持たせるのは無理だ。すしへの愛情を熱心に説いた所で、聞かされた方はシラケるだけだろう。ただ、すしや飲食業に思い入れのないアルバイトにも「上手く」働いてもらう必要がある。すでに説明した通り、人が怒るのは大切なものが粗末に扱われた時、踏みにじられた時だ。

●あなたの好きなものは何ですか?

 まずは「あなたの好きなものは何ですか?」と聞く。

 例えばサッカーという答えなら、サッカーボールに唾を吐きかける人を見たらどう思うか聞けばいい。乃木坂46が好きならば、CDを目の前で踏みつけられて粉々に割られたらどう思うか尋ねればいい。

 自身の大切なものが粗末に扱われて何とも思わない人はいない。それくらいの話は高校生でも理解できる。

 日本人は食べ物を大切にするので食べ物を粗末にする人を特に嫌い、許さない傾向が強い。皆さんも子どものころから食べ物を大切にするように親や先生に注意されてきたはず、それは老若男女、皆同じで心の奥の奥まで刷り込まれている、と伝える。

その上で以下のように伝えれば良い。

 「我々はすし屋です。食べ物を扱っています。お店にあるモノは椅子もテーブルも食器も全部大切ですが、特に大切にすべきものは食材です。衛生管理という意味はもちろん、食材を粗末に扱うことは、せっかく来店していただくお客様も大切にしていない、粗末に扱っているとみなされてしまいます」

 ここまで話しても、初めて働くような高校生や大学生ならば理解できない人も多数いるだろう。時間がたって騒動が風化すれば尚更だ。繰り返すがアルバイトでお小遣いを稼ごうと考えている若いアルバイトに経営者と同じ感覚を持たせるのは無理な話だ。

 そうであれば、重ねて以下のように伝えればいい。

 「あなたが大切にしていることを、他の人は同じように大切に思わないかもしれないし、他の人が大切にしていることをあなたも理解できないかもしれない。それは仕方ないことです。ただ、理解できないことは誰かの大切なものを粗末に扱って良い理由にはなりません。自身の大切なものを粗末に扱われて平気な人もいません。だからあなたがウチのお店で働くなら、ウチのお店が大切にしていることを理解できなくても良いので、理解する努力はしてください」

 アルバイトに経営者視点を持たせるのは無理でも、経営者が何を大切に考えているか、知ってもらうことくらいはできるはずだ。

 このような対応をするとどうなるか。バイトテロを無意識にやってしまうような人は、面倒くさいお店だと考えて働く前に逃げ出してしまう。つまり「水際作戦」だ。実際、そのような水際作戦を実施している有名な企業がある。

●リッツカールトンの「水際作戦」

 高級ホテルのザ・リッツ・カールトン・ホテルの日本支社長を務めた高野登氏は、カリフォルニアでリッツ・カールトンが新規開業する際、その面接スタイルに面接官である高野氏自身が度肝を抜かれたという。

 面接会場である開業準備中のホテルで応募者を迎えるのはドアマン、会場ではプロのミュージシャンがピアノを演奏し、いざ面接となると正装に身を包んだウェイターが応募者に飲み物を運ぶ。

 客と同じ対応を応募者に提供する……このような「ふるい」にかけることで「とんでもないところに来てしまった、普通のホテルで働きたい」と考える応募者の半数が逃げ帰ったという。

 ここまでする理由はリッツ・カールトンがどのようなホテルか知ってもらうことが目的で、高度なホスピタリティを提供するリッツ・カールトンの文化に適応できるか、応募者に考えてもらうことが狙いだという。要するに水際作戦だ(参照・『リッツ・カールトンが大切にするサービスを超える瞬間』)。

 ウチのお店は衛生管理も店員の教育もきっちりやってますよ、という姿勢を見せる方法は、厳しく注意や監視をすることだけではないということだ。

 当然、バカッター対策を実行する際、現場の管理職や店長が経営者に対して「キレイごとを言いながらサービス残業をさせやがって……」と不満を抱えているような環境では、いつか別の形で会社に牙をむくだろう。社員も管理職も経営者も、仕事にプライドを持って誠実に取り組んでいるかが問われる。子どもが親を見て育つように、それがアルバイトの勤務態度にも反映される。

 このように考えていくと、バカッター対策は経営の根幹につながっていることが分かる。経営理念、クレド、ビジョンなど様々な呼び方があるが、会社の方針や経営者の思いを隅々まで伝えられるか? それがバカッター騒動への根本的な対策である。