選手村マンション「晴海フラッグ」に渦巻く賛否

2020年に開催される東京オリンピックの選手宿泊施設「選手村」の建設が今、東京都中央区晴海で進んでいる。跡地は巨大なマンション街となって一般に販売される計画だが、その値段については、これまでさまざまな噂が業界で立ち上がっては消えてきた。周辺相場よりも大幅に安く売りさばくに違いない、という声。一方で、周辺相場とほとんど価格差はないだろう、という声もあった。

【写真】「晴海フラッグ」の平均面積は84㎡で、一般的な都内マンションより広い

 価格が話題になってきたのは、首都圏のマンション市場に与える影響が大きいからだ。大会中に選手村として使われた後、内部をリフォームして新築として売る中層マンション17棟に加え、大会終了後にタワーマンション2棟を新設する。その総分譲戸数は何と4145戸。過去最大級の民間分譲マンションでも2100戸程度だった。今回は倍近い規模になる。

 この「晴海フラッグ」と称される、史上最大の分譲マンションプロジェクト。三井不動産レジデンシャルや三菱地所レジデンス、野村不動産、住友不動産など大手デベロッパー10社が勢ぞろいして開発と販売にあたるのも、異例のことだ(施行者は東京都)。価格設定いかんでは周辺相場に影響を与えてもおかしくない。

 モデルルームは4月27日から公開し、物件の申し込みも今夏から始める。しかしながら、4月23日に開かれた記者向けの事業説明会では、「正式には調整中で決まっていない」ことを理由に、「5000万円台~1億円以上」と大ざっぱな価格帯を公表するのみだった。警戒心からか、残念なことに、マスコミ向けに販売価格を公にするつもりはないようだった。

■GW中は1200組が来訪、若い家族層がメイン

 しかし、完全予約制で開催される購入希望者向けのモデルルーム案内会では、“参考値”として価格が知らされるという。そこで今回、モデルルームにお客として出向き、詳細を調べてみた。

 ゴールデンウィーク(GW)最中の晴海。あちらこちらに建設中のクレーンがそびえ立つ、そのコンクリート街がひときわ熱気を放っていたのは、一足早く夏の日差しが照りつけていたせいだけではない。若い夫婦、年をとった夫婦、小さい子どもを連れた家族――。人々が次々と原色で彩色されたモデルルームに吸い込まれていく。

GW中の来場者は1200組超に達し、案内会の入場枠は6月末までいっぱいだという。記者が参加した日は、若い夫婦が参加者の多数派を占めていた。うち1組の夫婦は、女性が初夏らしいオレンジのワンピースにトートバック、男性は清潔感ある水色のシャツにデニムの装いで、生まれたばかりの子どもを連れていた。リタイア後と思えるシニアの夫婦も少数いた。モデルルーム内に設けている託児部屋は早朝から満杯となっていたのである。

 担当営業員による物件概要の説明、紹介映像の視聴、モデルルームの内見、といった新築分譲マンションにはつきものとなっている一連の“儀式”を終える。すると営業員は、「いよいよお待ちかねの……」と前置きして、価格帯と販売住戸についての具体的な説明に入った。

 4145戸の晴海フラッグの住戸のうち、初回の販売では、南側街区(SEA VILLAGE)5棟中3棟、南西側街区(PARK VILLAGE)7棟中4棟が対象になる。住戸数に換算すれば、700戸弱が第一期の販売対象になる。

 南側街区3棟は、3LDK(85~96㎡)で7000万円台後半から8000万円台後半、4LDK(95~127㎡)で8000万円台後半から1億3000万円の幅だった。南西側街区4棟は、3LDK(75~92㎡)で6000万円台前半から1億1000万円、4LDK(87~106㎡)で6000万円台前半から1億3000万円、という価格帯だった。

 平均坪単価はおよそ302万円という計算となり、近隣で分譲中のマンションと比べて平均的には割安感がある。住友不動産が販売中のタワーマンション「ドゥ・トゥール」で平均坪単価366万円、「ベイサイドタワー晴海」で坪単価396万円、三井不動産の「パークタワー晴海」も坪単価344万円となっている。

■坪302万円は割安だが、物件ごとに価格差も大

 ただし実際は、個々の物件ごとに大きな価格差がある。ベランダから東京湾とレインボーブリッジが一望できる南西側街区の14階建てA棟は、晴海フラッグの中でも特等席という位置づけだ。価格帯は「億ション」がズラリと並び、低くて9100万円からの価格設定だった。他方、「この部屋は安すぎて予約が殺到しそうだ」と営業員が指し示したのが、南西側街区C棟にある4LDK(87㎡)の部屋である。ベランダから海が望めない分、東京都中央区では破格の6400万円に設定している。

終わり際、値引きの可能性があるかを訪ねてみると、営業員は「ありません」と即答した。「まだ案内を始めたばかりで、実際の引き合いはわからない」としつつも、売れ行きに自信を持っている様子がうかがえた。

 モデルルーム訪問を終えて帰途につく顧客に感想を訪ねてみた。

 小さい子どもを1人連れた30代の若い夫婦は「総じて期待以上だった」との感想。「いちばんの魅力は物件価格。このあたりの新築では安い、坪単価270万円前後の物件もけっこうあり、購入の本命度は高い」と打ち明ける。現在は豊洲の2LDKのマンションに住んでいるが、もう1人子どもを作ることを考えると手狭なため、住み替えを検討している。マイナス要素としては、最寄りの勝どき駅から徒歩20分かかることを挙げた。「私たちは共働きなので、この駅距離はきつい。BRT(バス高速輸送システム)が通るようだが、本当に輸送力として足りるのかどうか」。

 駅からの距離を意に介さないという人もいる。1人で来ていた、背が高くいかにも外資系勤務といった風貌の20代後半男性は、「自分は自転車通勤するのでネックとは感じていない。今もこの近辺の自宅から会社に自転車通勤している」と説明する。それよりも、エネファーム(家庭用燃料電池)を全住戸に採用するなど、最先端技術をふんだんに採用している点に関心を持ったという。

 しかし、駅からの距離は、物件の資産価値(再販価値)を左右する重要な要素である。著名マンションブログの「マンションマニア」管理人で、マンション購入相談にものる星直人氏は、晴海フラッグについて「資産価値? なにそれ? おいしいの? こんくらいの気持ちでないと」と、Twitter上で言及した。取材に対して星氏は、大暴落するほどの不安はないものの、駅から距離があるなどで将来の資産価値については、都心物件であっても楽観視できないという。

 東京都中央区月島からモデルルームの見学に来た30代後半の夫婦もこう語った。「晴海フラッグは住戸数が非常に多いため、需給のバランスも安定しにくいだろう。将来の資産性には目をつぶって、新しく生まれる大きな街にずっと暮らし続けるぐらいの意志がないと厳しい」。

■「資産価値を維持できるのか」に不安の声も

 物件価格は割安だが、維持コストが高い難点も見逃せない。

 最先端の設備や防犯システム、51の共用ルーム、豊かな植栽というメリットを享受する対価として、住民は平均して月4万円前後の維持費(管理費、修繕積立金など)を払う。晴海フラッグのポピュラーな部屋である85㎡3LDKでいえば、管理費で月2万5000円、修繕積立金で月1万1000円、加えてインターネット使用料やタウンマネジメント費などが月3000円かかってくる。

 駅徒歩20分にもかかわらず、駐車場容量の少なさにも不満の声が挙がる。駐車場台数は1900台程度であり、分譲住戸数4145戸に対する駐車場台数の比率(駐車場設置率)は約45%。これを上回る利用者がいた場合は抽選になり、仮に漏れれば駐車場を使えない。

 銀座の目と鼻の先に割安な物件が手に入るプラスの要素の反面、駅からの遠い距離と資産性の弱さ、維持費の高さなどマイナス要素もまた浮かび上がった。不動産市場の活況に陰りが見える中で、ますますシビアになった消費者は、世紀の出ものにどう反応するのか。未曾有の物件の真価はこれから明らかになる。