アパホテルが五輪後の「供給過多」を怖れず拡大戦略に走る理由

創業以来48年間黒字を続けるアパグループ。2020年に開催が予定されている東京オリンピック後、ホテルが供給過剰になるオーバーホテル現象も懸念されるが、「そんな時こそ絶好のチャンス」と変わらぬ拡大路線を続ける考えだ。自信の裏には売上高経常利益率約30%という、驚異的な収益力がある。(アパホテル社長 元谷芙美子)

オーバーホテル現象はピンチではなくチャンスである

 このところ、訪日観光客需要の拡大を見込んで日本全国で多くのホテルが開業し、都市部を中心としたホテルの供給過剰、つまりオーバーホテル現象が懸念されている。東京オリンピックが開催される2020年までに、日本全国の客室数はさらに増加するだろう。供給過多になることも予想され、「拡大戦略を続けるアパホテルは大丈夫か?」という懸念の声も聞こえてくる。

 確かに、オーバーホテル現象は起きるだろう。オリンピックの開催が決まった時点である程度、予測できていたことだ。それどころか、アパホテルの本社がある東京の赤坂かいわいなどは、今まさにオーバーホテルになっている。

 ただ、私はこれをあまり心配していない。一時的なことだと予想しているからだ。東京オリンピック開催後、約1年間は厳しい状況が続くだろう。そのなかで、経営に行き詰まるホテルも当然、出てくるに違いない。

 しかし、アパは大丈夫。財務的なことをいえば、実はみなさんが思う以上に健全だ。優良企業か否かは「借入金を何年分の利益で返済できるか」が1つの目安となり、通常は10年で「健全」といわれる。アパホテルの場合、5年で借金を返せるレベルにある。

 仮に、2、3年間はお客さんがゼロであっても、全従業員の給与を払えるだけの余力はある。また、リーマンショック後で地価が安かった2010年頃から土地を買ってきたが、最初の2〜3年は今の3分の1ほどの価格だった。この安い時期に作ったホテルは、もう借金もほとんど返し終えている。これらの含み益も莫大な金額に上る。

 オーバーホテルで業界環境が悪化するときはむしろ、私たちがホテルを「買う」チャンスである。

政府が推進する政策目標では、訪日外国人数は2020年までに4000万人、2030年までには6000万人にも上る。長期的に見れば、海外から日本へやってくる旅行客が増え続ける状況に変わりはない。そう考えると、勝負どころは、「オリンピック後」にやってくるのではないか。

 アパグループは現在、514のホテル(建築・設計中、海外、FC、パートナーホテル含む)を展開し、その客室数は8万5573室に上っている。加えて、日本全国で54棟のホテルを建築・設計中だ。土地を取得し、新たにホテルを建設するには時間がかかる。M&A(企業の合併・買収)などでその時間を買えば、ホテル業界でダントツのトップシェアを取るという目標にも早く到達できる上、結果的には安く済む。

アパホテルが拡大戦略を取れる理由

 安く済む最大の理由は、異常ともいえる超低金利にある。超低金利時代が続く限り、M&Aにはむしろ追い風が吹いており、私たちは拡大路線を止めるつもりはない。人件費はたしかに高騰しているが、利益に影響を及ぼすほどの深刻なレベルにはない。IT投資などによる人員効率の向上により、収益力を維持していくことは可能だ。

 実のところ、日本のホテル業界全体におけるアパホテルのシェアは、まだ8%程度に過ぎない。シェアに関しては、20%獲得すれば寡占化の始まり、といわれている。そこに到達するまでには、まだ倍の伸びしろがある、ということだ。業界トップというからには、是が非でもシェア20%は達成したい。アパホテルでは現在、「寡占化一番乗りを目指そう」という目標を掲げ、シェア拡大に突き進んでいる。

 拡大路線を続けられるもう1つの理由には、業界最高を誇る利益率の高さがある。2018年11月期の連結売上高はホテル部門単体で1100億円超、経常利益率は約3割。シティホテルなら、おおむね5%から8%程度なので、これは非常に高い数値である。

 資金調達する際にはコンペティションを実施し、より良い条件で借りられる先から借りている。超低金利でも、より良いように条件交渉しているのだ。

現在の状況が続く限り、仮に利益率を25%くらいにまで落としたとしても、拡大していけば利益の絶対額は伸びる。経常利益500億円も夢ではないと思っている。

 もちろん、「何が起きても絶対大丈夫」と豪語するつもりはない。例えば、感染症などの「パンデミック」は恐ろしい。過去にもSARS(重症急性呼吸器症候群)が大流行し、観光業界が大打撃を受けたことがあった。それと、あってほしくはないが「戦争」。この2つは人の動きを止める力として働くため、業界的にはかなり大きなリスクとなる。

 地震や台風、大雨などの自然災害もリスクには違いないが、これらの影響は先に挙げた2つに比べると局地的だ。全国展開しているアパホテルの場合、仮に東京都心に自然災害が起こったとしても、他の地域でカバーできるため、それだけでつぶれることはない。むしろ、復興のためのホテル需要は伸びるだろう。

直営にこだわるアパがFCにも力を入れる理由

 私たちはホテル経営の中核を「直営」に据えてやってきた。多くのホテルは、土地と建物の所有者が別にいて、ホテル事業者は運営に特化している。しかし、アパホテルは土地も建物も運営も基本は自前主義。いざとなれば、すべて意のままにできる「強み」がある。

 2010年4月から、中期5ヵ年計画「SUMMIT 5(頂上戦略)」をスタート。東京都心でトップを取る戦略を打ち出し、6つしかなかった東京23区内の直営ホテルを72ホテル1万7922室(建築・設計中を含む)まで拡大した。初期の頃に買った土地に大きな含み益が出ていることは先にも述べたが、これも直営ならではだ。2015年4月からは「SUMMIT 5-Ⅱ(第二次頂上戦略)」を始動し、これまでの東京都心への集中投資によってブランドアップを図る「一点突破」から、地方中核都市への「全面展開」を図っている。

 近年は確かに、フランチャイズ(FC)契約も増やしてはいる。2019年現在の加盟店は国内52ホテル7293室と、海外ブランドを除き、気づけばナンバーワンに躍り出ている。しかし、これは積極的に加盟店を増やそうとした結果ではない。

 うちは東京の都心、ないしは大阪、京都、福岡、このあたりの需要の旺盛なところにしか新築でホテルを建てない戦略でやってきた。一方で、アパホテルには業界断トツNo.1の会員数がある。その方たちが地方で泊まる際、ポイントの付くホテルがあった方が便利だろう。

 FC拡大はつまり、一種の顧客囲い込み戦略であり、アパホテルがない都心から離れたところや地方都市に限って奨励している。また、アパホテルと同じ設備を導入するなどの改装が条件となっている。FC契約を結びたいという希望は多く頂くが、選別し、お客様の立場になって必要だと考えたところのみ認めているのだ。

 ホテル経営の中核は過去も現在もあくまで直営であり、お客様サービスとしてのFC展開、パートナーホテルという位置づけだ。パートナーホテルとは、ホテルの名称は違えども提携しており、アパホテルのポイントが付くホテルを指している。

ホテル業界でなぜ「ドミナント戦略」なのか

 業界全体としては人手不足も深刻だ。そこで意識して力を入れているのが、需要のある地域に集中的に展開するドミナント戦略(特定エリアに集中してホテルを建設すること)と建物の巨大化戦略だ。

 アパグループは現在、30階を超えるタワーホテルを同時に4棟、20階建て以上を含めると合計6棟を建設・設計中である。今の日本でタワーホテルを建てる事業者はそうそういないだろう。うちだけではないだろうか。

 建設費用は莫大になるから、最初の数年間は厳しい運営を強いられるかもしれない。しかし、1つのホテルあたりに必要な従業員数を考えた場合、1棟にまとめた方が総人員は少なくて済むから、後々、大きな利益を生んでくれる。また、都会的なタワーホテルはブランドイメージ向上にも寄与する。

 ドミナント戦略はというと、地域に熟練の統括支配人を置き、エリア内で何かあれば、その統括支配人がすぐに駆けつけられるというメリットがある。アパは急速に拡大しているから、大卒入社4、5年目でも支配人に登用する。もちろん教育はしっかり行なっているが、ベテランの力が必要になる局面もあるはずだ。

 今年度は新卒を約340人採用、来年度も約380人を採用する予定だ。観光業は医療や科学技術と並ぶ国策3本柱の1つにも掲げられている。そういう意味で、ホテル業はまだまだ拡大できるし、日本が真の意味で観光立国化していくこれからが、本当に面白くなっていく勝負時だと考えている。