「いきなり!ステーキ」が、減速した理由

ちょっと前まで、株価10倍、ブームの牽引役などとチヤホヤされていた「いきなり!ステーキ」(運営:ペッパーフードサービス)がうって変わってヤバいだなんだと叩かれている。

 2018年12月期決算(連結)は、売上高635億900万円(前期比75.3%増)に対して、最終利益はマイナス1億2100万円と8年ぶりに赤字となったからだ。

 低迷の原因として挙げられるのは、ステーキの本場でも手軽に食べられる業態を定着させたいと意気込んで進出した米国事業。ニューヨークで11店舗していて、そのうち7店舗を閉店することにともなって、12億円近い特別損失の計上が響いたという。

 また、パク……ではなく、似たようなコンセプトの店が雨後のタケノコのようにわいて出て、血で血を洗うレッドオーシャンになったことが原因だという指摘も多い。確かに、「ステーキ屋松」(松屋フーズ)、「やっぱりステーキ」(やっぱりグループ)、「アッ!そうだステーキ」(チムニー)、「カミナリステーキ」(モンテローザ)など、大喜利のようなノリでネーミングされた競合店が乱立しているのだ。

 これらが低迷を招いたのは間違いないだろう。が、個人的にはもうひとつ致命的な敗因があったのではと感じている。それは「店の出しすぎ」だ。具体的には、これまで数多くの外食チェーンを撃沈させてきた「500店舗の壁」にぶちあたったのだ。

●「ほにゃららステーキ」が参入

 ご存じのように、日本はすさまじい勢いで人口が減少している。が、営利企業のかじ取りをしている人たちの頭の中は全く逆の世界観で、「ビジネスとは右肩上がりで成長しなくてはならぬ」という強烈な思い込みがある。

 そうなるとどこかのタイミングで、来期は今期より成長、店舗数も増えて当たり前という企業の理想と、人口減少という現実がかみ合わなくなってくる。日本全国津々浦々で展開しているコンビニやファミレス、ファストフード以外の独立系外食チェーンの場合、その破たんポイントがだいたい「全国500店舗」前後に訪れるのだ。

 「いきなり!ステーキ」は、その典型的なケースである可能性が高い。

 19年5月末日現在、「いきなり!ステーキ」の店舗数は463(国内459、海外4)。18年6月末時点の店舗数は276で、「年間200店舗の新規出店」という目標を掲げていたことを思えば、「計画通り」だが、この計画が裏目に出たかもしれないのだ。

 「ホットペッパーグルメ外食総研」が首都圏、関西圏、東海圏の男女約1万人を対象とした調査では、2019年4月の「焼肉、ステーキ、ハンバーグ等の専業店」の市場規模は前年比+15億の356億円だが、これは右肩上がりで成長をしているわけではなく、300億規模で増減を繰り返している(市場規模:各圏域の延べ外食回数×各圏域における業態シェア×各業態の単価で算出)。

 市場規模はそれほど顕著に増えていない。にもかかわらず、1年で200店舗も増やして、その勢いにあおられてパク……ではなく、「ほにゃららステーキ」のような類似コンセプトの後発組が続々参入すれば、壮絶なイス取りゲームが進行するだけでなく、「なんか最近ステーキ屋多くない?」という消費者心理が働き、「手軽な価格の立ち食いステーキ」に対する新鮮味が薄れ、ブランド力も低下する。これが全国500店舗規模まで成長した飲食チェーンが、「客離れ」に直面するメカニズムである。

●「いきなり!ステーキ」減速と同じ構造

 そんなのは強引なこじつけだと思うかもしれないが、同様の「客離れ」パターンに陥った外食チェーンは他にも存在している。

 例えば、居酒屋チェーン「鳥貴族」。数年前まで全商品280円という安さから「せんべろ居酒屋」(1000円でベロベロになる飲める)の代名詞としてメディアに持ち上げられてきたが、19年7月期の単独最終損益は3億5600万円の赤字と撃沈。14年の上場以来初めて通期での最終赤字となった。

 一般的に、この低迷は「値上げ」が悪いとされているが、鳥貴族自身が「既存店の近隣に追加出店した店舗での自社競合が発生」(2019年7月期 第3四半期決算短信)と分析しているように、「店の出しすぎ」も一因である。

 飛ぶ鳥を落とす勢いだった15年、「2021年までに1000店舗を目指す」と宣言し、次々と店舗網を拡大。19年6月時点での店舗数はなんと660にまでなったのだが、その拡大路線に触発されたかのように、「やきとりセンター」「三代目鳥メロ」「ジャンポ焼鳥 鳥二郎」など次々とパク……ではなく、模倣店が生まれたのだ。

 もうお分かりだろう、ブームの牽引役と持ち上げられたプレイヤーが、増えすぎた店舗と模倣店によって、かつての輝きを失っていくという意味では、「いきなり!ステーキ」の減速とまったく同じ構造なのだ。

 6月8日から開催されている20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議のレセプションで、振る舞われた食品の中で注目された「100%とんこつ不使用ラーメン」。

 大阪の店舗では、外国人観光客が長蛇の列をつくり、福岡本店は今や団体観光客が訪れる有名観光地になっている人気店なので、当然これからすごい勢いで店舗展開をしていくのでは? そんな風に尋ねたところ、社長は意外なことをおっしゃった。

 「国内は出しても150店舗くらいですね」

 また、全席禁煙にしたことで、愛煙家から「そんなバカなことをしたら店が潰れる」と散々脅されながらも、プラス成長を維持している「串カツ田中」は鳥貴族同様に「1000店舗」を目標として掲げているものの、現状は221店舗(19年4月の決算説明資料より)と「鳥貴族」や「いきなり!ステーキ」ほどの出店ペースではない。

●原因は「無謀な計画」

 つまり、好調な飲食チェーンというのは往々にして、「1年に200店舗の新規出店」なんて感じで急速な拡大路線を歩まず、数年かけて着実に出店しているパターンが多いということだ。

 そう考えていくと、ブームの牽引役として一世風靡(いっせいふうび)をした飲食チェーンが、イケイケドンドンで突き進んで店舗数が400、500という規模感になったあたりで失速するのも納得ではないか。

 ステーキブーム、せんべろブーム、黒タピオカブーム、パンケーキブーム……日本の外食は勢いが減速すると、「値上げ」が悪いとか、消費者がトレンドに飽きた、などと分析されることが多い。もちろん、それが正しい場合もあるが、そういう複雑な話ではなくごくごくシンプルに、市場が「飽和状態」になっているケースも多いのだ。

 あれが悪い、これが悪い、と周囲のせいにする前に、まずは自分たちが進めている「無謀な計画」にこそ原因があるのではないか、という視点も必要なのではないだろうか。

(窪田順生)