日本のガラパゴス工具「ネジザウルス」が世界中で飛ぶように売れる理由

ネジを外すプライヤー ガラパゴス工具がなぜヒット?

 頭がつぶれたり、錆びたネジなど、従来引き抜くことができなかったどんなネジでも簡単に掴んで外してしまうプライヤー(ペンチのような工具)「ネジザウルス」シリーズが、2002年の発売以来、累計400万本の大ヒットを続けている。

 年間1万本売ればヒットという工具の世界で、年間国内30万本、海外10万本を販売し、主にアメリカ、ヨーロッパ、中国などに輸出している。

 開発・販売するエンジニア社長の高崎充弘(63歳、高の文字は、正式には“はしご高”)は「日本の“ガラパゴス工具”から世界に広げ、あらゆるネジの困りごとを解決するブランドに育てたい」と語る。

 ネジザウルスは頭が鍋型のナベネジに初めて対応した初代から、頭の低いトラスネジも外せる4代目の「ネジザウルスGT」、波形のギア歯を持った「ネジザウルスRX」、あるいは「ネジザウルスZ」など6代目まで進化している。さらに、皿ネジや六角穴、錆びたネジ、水回りにまで対応する様々な種類があり、さながらネジザウルス族ともいうべき“種属”を形成している。

 ネジに噛みついたら放さない特性と全体のシルエットから、恐竜をイメージするブランド名を付けている。先端に恐竜の目を思わせるデザインも施し、「ネジ・ザ・ウルス」というキャラクターもつくった。

 現在、アメリカでは8品目(今年前半に2品目追加予定)で展開しており、2018年は約5万本を出荷、対前年比で60%増の勢いだ。販売先は自動車の整備や修理などのプロが主な対象で、小さなネジから大きなネジまで対応する4本組みセットが好調に売れているという。

 一般消費者向けにもオンラインショップで販売しているが、本格的な普及はこれからだ。日曜大工などDIY好きの国民なので、潜在ニーズは高いと高崎は見ている。ただ、アメリカでは商品名がネジザウルスではなく、吸血鬼(ヴァンパイヤ)をイメージさせる「ヴァンプライヤーズ」(Vampliers)で販売している。なぜ、恐竜が吸血鬼に変わったのかは後述する。

「ちょうど先ほど、ドイツのお客様から初受注がありました。ハンマーで有名な工具メーカーですが、初回3000本出荷です。ケルンの展示会で出会って以来、商談を重ねてきました。必ず商談につながるわけではありませんが、大きな展示会には出展するようにしています。ヨーロッパでは他にイタリアやスペインでも取引きがあり、自動車と工具の分野のお客様が中心です。あと、輸出しているのは中国で、来年度からは東南アジアにも進出するつもりです」と高崎は海外展開を語る。

新商品を開発してもヒットなし ちょっとした「気づき」が転機に

 エンジニアは1948年に高崎の父と叔父が創業し、様々な工具をつくってきた。ニッパー、ペンチ、ドライバー、レンチ、ピンセットなどから計測器、光学機器など1000アイテムを販売している。量産品では商品企画から設計までを行い、実際の生産は外部の協力企業に依頼するファブレスメーカーだ。現在、ネジザウルスシリーズが売り上げの3割、そのほかの工具や機器類が7割を占めている。

 高崎は東京大学の舶用機械工学科を卒業後、造船会社のエンジニアとして10年間勤務したが、父からの要請で1987年にエンジニア(当時は双葉工具)に入社した。

「小さな組織で歯車になるよりは、やり甲斐があるのではないかと思いました。小学生の頃から父の姿を見て、エンジニアはかっこいいと思って大学も理系に進んだし、つくることが好きだったのですね」

 製品開発が好きだった父の血を引いたのだろう、高崎は入社してから積極的に新商品開発に取り組んだ。1988年から20年間、開発した製品は約800品目に達した。だが、どれも当たらず、ポテンヒットすらなかった。

「打席に立ち続けても毎回、三振やゴロばかり。当時は何も考えずに、ただつくっていただけでした」

 ヒットの兆しが見えたのが2000年。頭のつぶれてしまったネジを外せるプライヤーができないかと考えたことがきっかけだった。通常、プライヤーはものをつかんで引っ張るため、先端部分には横溝が掘られている。しかし、特注の工具セットの特殊なプライヤーには縦溝が刻まれていた。それを見て、高崎はピンときたのだ。

 ネジを締める工具はあるが、外すための工具はない。これは面白いと開発し、「小ネジプライヤー」という名で発売した。だが、年間で800本程度しか売れなかった。それでも諦めず、改良を加え、ホームセンターや金物店など販売ルートも開拓した。それに合わせて、パッケージやデザイン、ネーミングを社員と一緒に考え直し、出てきたコンセプトがネジザウルスだった。

発売7ヵ月で7万本を売った お化け商品「ネジザウルスGT」

 2002年、初代ネジザウルスを発売すると、初月で4500本を売るヒットとなった。その後、2代目、3代目とシリーズ展開を図ったが、2008年のリーマンショックでぱたりと売り上げが止まった。

 さらなる進化バージョンの必要性を感じて、高崎は愛用者カード1000通を改めて読み返した。「グリップを握りやすくしてほしい」「先端を細長くしてほしい」などの多数を占める要望を取り入れたのは当然だが、5番目の少数意見だった「トラスネジを外せるようにしてほしい」という要望に着目した。頭が低いトラスネジは目立たないため、外装部などに使われる。高崎は「ダメ元でこの機能も入れておくか」と改良ポイントに加えたが、これが大ヒットにつながる分岐点だった。

 2009年に発売された4代目「ネジザウルスGT」は、驚くようなヒットとなった。発売7ヵ月で7万本を売り、お化け商品となった。このとき高崎は知的財産権も重視し、特許、意匠、商標などを取得。2018年8月では国内35件、海外38件のパテントを取得している。また、初めてグッドデザイン賞にも応募し、初参加で初受賞となった。

 こうした経験から高崎は成功の要因を分析し、独自の理論を構築した。それは、マーケティング(M)、パテント(P)、デザイン(D)、プロモーション(P)の4つがバランスよく機能するとヒットを生むという考え方で、高崎は「MPDP理論」と呼んでいる。

「MPDP理論は、新人タレントを売り出して大スターに育てるプロセスと似ています。当初はただの仮説でしたが、その後のネジザウルスシリーズの商品企画で検証していきました。イノベーションは的を射た少数意見の中にあり、従来の延長線上にはない改善が必要です。日本の中小企業は技術力があり、画期的な製品を生み出してもMPDPが欠けているから売れないのです」と高崎は言う。

 高崎は知的財産権について学ぶために、知的財産管理技能検定という国家試験を受けて、その有用性に気づいたことから社員にも受験させ、現在、正社員の半数の25名が知的財産管理技能士の資格を持っている。

 ネジザウルスGTという武器を得た高崎は、かねてから考えていた海外進出の布石を打ち始めた。2011年には世界的にも権威あるデザイン賞「iFデザイン賞」(拠点ドイツ)に応募し、デザイン賞を受賞した。2017年にもネジザウルスZで再度受賞した。

噛み付くイメージは 恐竜より「吸血鬼」?

 2011年にはアメリカで熱心な代理店と出会うことができ、アメリカ市場にネジザウルスGTを投入した。ところが、思ったほどの反応がない。類似品があるのかもしれないとアメリカの展示会に出かけてみたが、ネジザウルスのような機能を持った工具はなかった。高崎はデザインとプロモーションに問題があるのかもしれないと代理店に相談すると、「名前がピンとこない」と言う。

 日本では恐竜は噛みついて放さないというイメージがあるが、アメリカでは可愛らしいというイメージが強く、マッチしていなかった。代理店は「噛みつくイメージはヴァンパイヤ(吸血鬼)だ」と言い、プライヤーと引っかけて「ヴァンプライヤーズ」というネーミングを提案してくれた。

 高崎は名称を変更し、アメリカで商標登録すると共に、持ち手をコウモリが飛ぶ夕陽と血の色の赤に変えた。恐竜の目をコウモリのマークに変えて、2012年から本格的に販売を始めた。これが功を奏し、年々、売り上げが拡大してきた。

つい大ざっぱな売り方に なりがちな海外展開の難しさ

 高崎は海外で販売する難しさについてこう語る。

「海外では市場やユーザーの考え方がわからないので、ついつい大ざっぱな売り方になってしまいます。セグメンテーション(顧客ニーズの明確化)、ターゲティング(参入市場・ユーザの選定)、ポジショニング(顧客の利益)の、いわゆるSTPマーケティングを明確にすることが重要です」

 高崎は自社やネジザウルスのポジショニングについて、「ネジのあらゆるトラブルを解決し、お客様にちょっとした笑顔を届けること」と語る。

「ネジのトラブルなど大企業は相手にしないので、それができるのは当社しかいません。現在、ネジの困りごとなら何でも相談に乗り、解決する“ネジレスQ(レスキュー)”サービスを無料で提供しており、すでに何件か対応しました。こうしたことでユーザの困りごとがわかり、新たな商品開発につなげることができます」と高崎は語る。

 日本発のネジザウルスが世界に向けて飛び出そうとしている。

(本文敬称略)

(取材・文・撮影/ルポライター 吉村克己)

株式会社エンジニア

事業内容:「ネジザウルス」など作業工具、精密機器の製造販売

従業員数:従業員50名

所在地:大阪府大阪市東成区東今里2-8-9

電話:06-6974-0028

売上高:非公表

URL :http://www.engineer.jp/