「もうビッグモーターに生徒は就職させない」謝罪会見に自動車整備士の専門学校担当者が怒る理由

中古車販売会社の「ビッグモーター」が故意に車を傷つけるなどして自動車保険の保険金を不正に請求していた問題で、同社の兼重宏行社長ら経営陣が7月26日午前、記者会見した。兼重社長は「私の責任と受け止めている」と謝罪し、同日付で社長を辞任すると表明。ただ、一連の不正については「耳を疑った。がくぜんとした」などとし、組織的な関与については否定する主張を繰り返した。この会見の様子を見た自動車整備の専門学校の関係者は「この会社に生徒はいかせない」と怒りをにじませた。

「このような事態を招いて慚愧(ざんき)に堪えない。私の責任と受け止めている」

 会見の冒頭、兼重社長はそう謝罪した。

 会見には兼重社長のほか、和泉伸二専務取締役、石橋光国取締役、陣内司管理本部部長の計4人が出席した。

 兼重社長は会見で、一連の問題の責任を取って辞任することを明らかにした。新社長に就任する和泉伸二専務取締役は「被害に遭われたお客様に対しておわび申し上げます」「改革をやり抜くということを約束したい」などと述べ、涙を流した。

 外部弁護士による特別調査委員会の調査報告書は6月26日に公開され、ドライバーで車体に傷をつけたり、ゴルフボールを靴下に入れて車体をたたいたりするなどの手口で、保険を水増し請求していたことが明らかになった。同調査では、4人に1人が「不正な作業に関与した」と報告されている。

 こうした一連の不祥事について兼重社長は、

「6月26日に報告書が上がってくるまで知らなかった」と述べ、

 組織ぐるみの不正かどうかを問う質問については、

「組織的ということはないと思う」

 との認識を示した。

 その上で、

「(各地の工場を管理する)本部長がノルマを達成させるために強くプレッシャーをかけて、今回の不正が起きたと考えられる。私の管理不足が招いたことだ」

 などとする見解を述べた。

 ただ、報告書によれば2022年1月ごろ、社長と副社長宛てに、不要な板金や塗装の施工が横行しているとの内部告発があった。工場長が高圧的な態度で不要な板金や塗装などを作業員らに強いていたため、不適切な作業をやらされることに不満を持つ作業員から、口頭での説明や、証拠もつけたLINEでのメッセージが送られていた。激安パーティードレス 通販

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 会見では、その件について記者から指摘されると、兼重社長は、

「あの時、しっかりやっとけばよかったなという。ほんと反省してるんですけども。過去にその人間から何度も、工場長と仲間との確執に関する報告がありまして。今回もまたかと。もう仲良くやってくれということで、部長をすぐに調査に行かせて内容確認をしたところ、『仲良くやることになりました』という報告を受けたものですから。ま、『それで解決したな』と。それ以上のことはやっていなかったです」

 と述べた。

 副社長や、一部の店舗での店長、工場長によるパワーハラスメントが一部で報道されていることについても兼重社長は、「そういう認識がありませんでした」と答え、和泉専務取締役は、「現場で、副社長がパワハラと取られる行為を行っていたというのは、私自身は知りませんでした」と述べた。

■自動車整備士の給料は薄給

 今回の不祥事や会見での兼重社長の対応を受け、都内にある自動車整備士を養成する専門学校の採用担当の関係者は、

「いや、すごいですね。自分は辞めて逃げちゃうわけですから。今後、生徒にこの会社を紹介することはないですね。(生徒)本人がいきたいと言っても止めます」

 と憤りを見せた。

 これまでこの学校にはビッグモーターの求人票が届いていたが、前出の関係者は「あまりいいうわさは聞かなかった」と語る。

「実はこれまでうちとしても、(ビッグモーターを)良い就職先としては進めていなかった。他と比べて仕事が忙しく、きつい、とか、すぐ辞めてしまうとか聞いていましたから。全く経験がないのに若くして工場長をやっている人もいて、どういう企業なのかとずっと疑問には思っていました。給与事情もそこまでよくはなかったです」(学校関係者)

 そもそも自動車整備士の給料は薄給だ。

 2021年度版の自動車整備白書によれば、自動車整備士の平均年収は398万円で、9年連続の増加となった。一方、2020年度の国税庁の調査によると、民間の給与所得者の平均年収は433万円。自動車整備士の年収は平均を下回っている。

 自動車の保有台数は年々増加しており、国土交通省の自動車輸送統計年報によれば、軽自動車は1980年代から右肩上がりで、2021年度では3320万台となった。

 自動車整備業界は年収が低い理由の一つとして、もうかりにくいビジネスモデルであることが挙げられる。

「私も整備士として民間の整備工場で数十年働いていました。整備工場での主な収入は車検整備で、高いと言われる車検の金額も、本当はそんなに高くないんです。半分くらいは税金や保険料で取られてしまう。差し引いたら、民間の整備場に残るお金なんて数万円。一方で、1台の車整備にかかる時間はどんなに早くても3時間。もっとかかる車もある。時間がかかるのに残るお金は少ないんですよね」(学校関係者)

 こうした一連の背景を踏まえ、学校関係者は最後に、

「一連の騒動のせいで、自動車整備業界などに対し、『どこも悪いことしているんじゃないの』といった印象を持つ人が増えてしまっているはずです。せっかく業界を変えようと取り組んでいる企業さんがあるのに、やるせない気持ちです」

 と憤りを隠せない様子だった。

(AERA dot.編集部 板垣聡旨)

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