いまから130年ほど前のこと、水を求めて井戸を掘る男がいました。千葉県大多喜町で醤油醸造業を営んでいた太田卯(う)八郎です。掘っても掘っても良質な水脈に当たらず、湧き出てくるのは泡を含んだ茶褐色を呈する塩水のみ。途方に暮れた卯八郎が何気なく口にしていたタバコの吸い殻を投げ捨てたところ、青白い炎が上がり辺りは騒然に。「水が燃えている……」
これは千葉県を中心に南関東一帯に広がる日本最大の水溶性天然ガス鉱床「南関東ガス田」が発見された際の逸話です。家庭燃料などとして一帯で利用されてきた天然ガスを企業が生産するようになったのは1931年。関東天然瓦斯開発(千葉県茂原市)の前身である大多喜天然瓦斯はガスの採取から輸送、さらに供給まで手掛けるようになったとされています。
この一帯の地下水に含まれるヨウ素は海水の約2000倍。天然ガスの副産物として生産されるこのヨウ素こそ、次世代型太陽電池の一種「ペロブスカイト太陽電池」の原材料となる貴重な国産資源です。ヨウ素の生産量において日本は世界シェアの約30%を握っています。日本のエネルギー安全保障上の観点からもペロブスカイト太陽電池がうってつけといわれるゆえんです(「窓や外壁でも太陽光発電 日本発技術『ペロブスカイト太陽電池』が実用化へ」)。
ただ、懸念点もあります。過去の「苦い記憶」について触れているのは「ペロブスカイト太陽電池、国家戦略に中国の壁 発電コスト下げ必須」の記事です。1973年の第1次石油危機以降、現在普及しているシリコン太陽電池の開発・製造で一度は世界をリードした日本ですが、後発の中国が積極投資で量産体制を整えると、瞬く間に太刀打ちできなくなりました。資源エネルギー庁新エネルギー課の妙中駿之課長補佐は「太陽電池産業をめぐる過去の反省を踏まえて、世界をリードする規模とスピードでの投資を実現し、社会実装を進めることが重要」と強調しています。
一方、ペロブスカイト太陽電池の持つ特徴を最大限に生かした新市場開拓の重要性を訴えているのが「製品化間近のペロブスカイト太陽電池 悲観的観測を打破する条件」の記事です。「ペロブスカイト太陽電池の将来性は、高効率でも軽くて曲がるという特性を生かすため、建築家や設計・施工者が設置場所や手法を工夫し、需要家や消費者がそれを受け入れていく姿勢にかかっている」としています。
製品化間近のペロブスカイト太陽電池。日経ビジネスではテーマ別まとめ記事「軽くて曲がるペロブスカイト太陽電池 次世代再エネのカギに」で様々な解説記事を載せています。ぜひこちらも併せてお読みください。
(日経ビジネス電子版編集長 原 隆)