100円ショップ「セリア」、強さの秘密

消費増税を前に注目を集める企業がある。100円ショップ業界2位のセリア <2782> だ。1987年の設立以来、25期連続で増収を確保。今2014年3月期は売上高1070億円、当期純利益は54億円と過去最高を更新する。 セリアの店内は平日、休日を問わずにぎわう。コンセプトの「カラー・ザ・デイズ(日常を彩る)」が表すように、店内はパステル調に統一され、100円均一とは思えないカラフルな“おしゃれ雑貨”が、余裕を持って陳列されている。
 かつて「デフレの旗手」ともてはやされた100円ショップは、円高と中国の“世界の工場化”を背景に台頭した。が、いずれも外部環境は転機を迎えている、さらにスーパーなど他の小売業態が対抗値下げで集客力を高める中、単純に何でも100円という価格設定は競争力を失っている。
業界首位で「ダイソー」を展開する大創産業は、成長の鈍化に直面した結果、海外市場に活路を求めている。食品の品ぞろえを武器に主婦層を狙う3位のキャンドゥ <2698> は、2013年11月期の業績計画を下方修正し、減益となる見通しだ。消耗雑貨に強い4位のワッツ <2735> も売上高の伸びが鈍り、2014年8月期の利益はほぼ横ばいにとどまる。■ POSシステムをいち早く導入
 厳しい市場環境の中、セリアはなぜ強いのか。その源泉は、2004年に業界他社へ先駆けて導入したリアルタイムPOS(販売時点情報管理)システムにある。
 100円ショップ業界は当時、100円で売れる商品を次々と仕入れて店頭に並べ、顧客を楽しませ、驚かせることが、成長につながると考えていた。だがセリアは、商品点数が急速に増える中、何がどれだけ売れ、何が在庫として残っているか、把握できなくなっている事態に不安を感じた。
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 そこで「自律型仮説検証モデル」と呼ぶ、発注支援システムを作り上げた。これは、商品ごとのSPI(Seria Purchase Index)値をベースにして、理想的な商品構成を導き出すものだ。SPI値は、小売業で使われるPI値を、セリアが独自にアレンジした指標。PI値とは、商品が顧客1000人当たりいくつ売れたかを表す。
 セリアは、店舗・商品別と全店ベースのSPI値をリアルタイムに算出し、比較する。
 ある商品が特定の店舗で売れていなければ、売り方を工夫することによって、売れる可能性があると判断する。そして、店舗ごとに理想の商品構成をはじき出し、発注業務を指示するのだ。そうした努力をしても売れない場合は、SPI値自体が低下していく。
 セリアの営業利益率は8%を超え、日用品小売企業の中では群を抜く。それは「在庫管理を効率化すると同時に、合理的に失敗する」(河合映治常務)という精緻な経営の表れだ。
■ 仮説と検証を繰り返す
 一般的な小売業は売れなければ価格を下げて処分するため、商品の売れ行きは需要と価格の関係性で決まる。ただセリアは価格を100円に固定。需要動向の分析を徹底して蓄積し、仮説と検証を繰り返すことで、絶え間なく新たな提案をし続け、売上高を伸ばしながらも失敗を最小限に抑える緻密な経営を実現している。
 商品アイテム数は約1万9000、売れ筋商品は消耗雑貨などで、他の100円ショップと大きくは変わらない。しかし、セリアは漫然と商品を並べ続けることはしない。全国約180社の協業メーカーとの共同開発品の売上比率を9割に高める中で、毎月500~600点を入れ替えることで、集客力を引き上げる。
 たとえば、滑って遊ぶためのそり。一見、冬にしか売れないと思われるが、データを検証して春の方が、草原などで使われるケースが多いと分かれば、店頭から決して在庫を切らさない。
 セリアの年間出店数は、東日本大震災後は62店までペースが鈍ったが、2013年3月期は90店、2014年3月期は100店以上に回復する。さらに河合常務は「2016年3月期からは200店ペースの出店を10年続けられるだけの体制を整える」と力を込める。
 2007年には集客効果の高い商業施設にテナントとして入居するため、企業ブランドを一新し、新店舗は「セリア生活良品」から「カラー・ザ・デイズ」へ変更。その効果もあり、今では店舗を小型化しても、ボリュームゾーンで売り負けない体制が整っている。
■ 出店形態の多様化へ布石
 実は、セリアは前期にPOSシステムを刷新している。さらに小型の出店を可能にしつつ、GMS(総合スーパー)や、ライバル店舗の代替など、多様な出店を狙っているのだ。多店舗化が進めば、開発力や購買力はさらに上昇し、品揃えを広げる余地は広がる。
 1997年の消費増税は100円ショップだけでなく、ファーストリテイリングやニトリ、ヤマダ電機などが台頭する契機となった。海外を含め、消費増税はディスカウンターの台頭など、流通再編を引き起こしている。
 セリアの成長は、小売業界の将来図を占う試金石になるかもしれない。

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