40男が抱えているこれだけの憂鬱

「就職氷河期世代」「ロスジェネ」とも呼ばれる世代が40代になり始めている。昭和という時代の恩恵を受け、楽しい10代を送ったものの、社会の変化に常に直面しつつ生きてきた世代だ。常見陽平氏がさまざまな憂鬱(ゆううつ)を抱えている“40男”に何を提案したいこととは?

[常見陽平ITmedia

 “40男”(30代後半~40代前半の男性)が狂喜乱舞――。この秋、そんな出来事が起こった。胸が熱くなり、笑顔が溢れてきた。少年時代に戻った気分だ。人生はクソゲーだと気づいていなかった、あの頃のように……。

2016年11月、任天堂が「ニンテンドークラシックミニ ファミリーコンピュータ」を発売した。1980年代に大ヒットしたファミコンを手のひらサイズで再現したものだ。このニュースは実に愉快な光景をもたらした。40男がSNS上で、同時多発的に「ファミコンと自分」に関する自分語りを始めたのだ。「『つっぱり大相撲』は、相撲がゲームになるなんて衝撃的だった」「『ゼルダの冒険』のオープニングの鐘の音にやられたよなあ」「『スーパーマリオ』はワープを使わないで全面クリアしてこそ漢(おとこ)」みたいな話だ。

それは幸せな光景だった。普段の40男の憂鬱(ゆううつ)、苦悩が吹き飛ぶ瞬間だった。こういう話題なら同世代でつながり、盛り上がることができる。しかし、今どき40代を取り巻く現実は、厳しい。人生はクソゲー、無理ゲーだ。

photo 1980年代に大ヒットしたファミコンを手のひらサイズで再現した「ニンテンドークラシックミニ ファミリーコンピュータ」

「第2次ベビーブーム世代」であり「就職氷河期世代」「ロスジェネ」とも呼ばれる世代が40代になり始めている。昭和という時代の恩恵を受け、楽しい10代を送ったものの、社会の変化に常に直面しつつ生きてきた。

「受験戦争」と言われるほどに熾烈(しれつ)な受験を勝ち抜けば、何かが変わると思っていた。しかし、大学に入ったところで「就職氷河期」が流行語となり、就職するのにも一苦労だった。

一方、ネット社会の到来、拡大により同世代の社長が興したネットベンチャーが多数登場。彼らは資金調達に成功したり、会社を上場させたりもした。企業社会の栄枯盛衰を目の当たりにしてきた。

若くしていい思いをした者もいれば、気が付けば年下の上司のもと、安い給料で働いている者もいる。M&A(企業の合併・買収)も盛んに行われ、自社が突然、企業買収により新規事業に参入したかと思いきや、従業員ごと売却されることもあった。

プライベートにおいても、「婚活」に「妊活」など、これまでの諸先輩たちがほぼ経験しなかったであろう取り組みが定着。離婚、再婚も普通になってきた。親の介護や、「実家の片付け」も始まる。気が付けば「中年童貞」「下流中年」なる言葉も流行語になっている。ほかの世代を指す言葉ならまだしも、自分たちに関連する言葉なので、笑えない。

photo 40男はプライベートにおいてもさまざまな憂鬱が……

私たち40男は常に時代の間、端境期にいた。バブル世代とゆとり教育世代の間に挟まれている。バブル世代が一軒家や車を保有し、子供2人を大学に入れていて、さらに遊び慣れている風の空気感をみると、無条件降伏感が漂ってしまう。いや厳密には、それなりに憧れ、でも、そうすることが良いことなのかも分からず、さらにはそのような生活をすることに自信もわかないのだ。

一方、下の世代にように、今までの価値観から解き放たれることもできない。シェアハウスに住もうとか、着るものはファストファッションでOKというふうにはならない。

上の世代や下の世代の生き方、さらに言うならば、今の経済環境に合った生き方に自分をチューニングする勇気があるかどうかが問われ続けるのだろう。実際、同世代からの人生相談で多いのは、生き方、働き方を変えるかどうかという悩みである。バブル世代的価値観とゆとり世代的価値観の間で、相変わらず私たちは揺れ続けていく。後者のような世界観を選ぶことへの抵抗というものが少なからずある。

かくして、「最後のマス」と言われた私たち40男も分断されていく。あれだけ同じことに熱くなったのに。同世代の元プロ野球選手の引退に対して、明らかに格上の彼らとなぜか自分を重ねてしまう。明日はどっちか。

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