最近「アニマルウェルフェア」という言葉を見かけることが増えている。きっかけになったのは、「鶏卵汚職」事件だ。2021年1月15日、吉川貴盛・元農林水産相が東京地検特捜部から収賄の罪で在宅起訴された。
狭いケージに押し込む
「アニマルウェルフェア」は、「動物福祉」とも訳される。家畜を狭い空間に詰め込み、そこで飼育するような畜産方法を批判する考え方だ。家畜にとって、ストレスや苦痛が少ない飼育環境を目指す。
それではなぜ、「鶏卵汚職」で改めて注目されることになったのか。
「NHK NEWS WEB」が1月27日、背景などを詳細にリポートしている。それによると、日本の鶏の約9割は「ケージ飼い」。入り口の幅が30センチ前後、奥行きと高さが45センチほどの1つのケージの中に2羽から3羽の鶏を詰め込む。1羽当たりの床面積はB5からA4サイズ。床には傾斜があり、鶏が卵を産むと自動的に回収される仕組みだ。
スーパーなどで売られているタマゴの大半は「ケージ飼い」。鶏に移動の自由がある「平飼い」や「放し飼い」は極めて少ない。飼育コストの違いで、「ケージフリー」のタマゴの価格は、「ケージ飼い」の2~3倍する。
欧米の基準とズレる
ところが近年、欧米では、「アニマルウェルフェア」の考え方が急速に普及し、飼育の法規制の強化にまでつながっているのだという。
EU(欧州連合)では1990年代以降、「アニマルウェルフェア」への配慮が法律や条約にも盛り込まれ、従来型の「ケージ飼い」は2012年から禁止された。生産者に多額の補助金を出し、消費者もアニマルウェルフェアによる一定の値上げを許容することで、10年程度、時間をかけて進められたという。
米国でもこれまでにマクドナルドやスターバックス、コストコなどグローバル企業を含めた300社以上が卵はすべて「ケージフリー」を使用することを宣言しているそうだ。
「アニマルウェルフェアが日本に入ってきたら養鶏業界は壊滅する」――吉川元農水相に現金500万円の賄賂を渡した罪で在宅起訴された大手鶏卵生産会社「アキタフーズ」の秋田善祺元代表は、10年前からそう周囲に話していたという。秋田氏は長年、養鶏業界と政界とのパイプ役を務めてきたとされる。
東京五輪のタマゴにも波及
「週刊現代」も、1月末から3週連続で「日本のタマゴ」についての大特集を続けている。「『日本の卵』が世界から危険視されている理由」などの見出し。日本のタマゴの一人当たりの消費量は世界二位。しかし、その陰に隠されている「不都合な真実」に気づいている人はほとんどいない、と警告する。
なぜ鶏卵業者は大臣にカネを渡したのか。「主な動機の一つが、国際基準に合わない日本の鶏の飼育方法を存続できるよう働きかけるためだった」と強調している。
「週刊現代」の特集では、アニマルウェルフェアからかけ離れた、思わず目をそむけたくなるような鶏卵業界の内幕話が多数紹介されている。
この問題は、東京五輪とも関係しているのだという。12年のロンドン、16年のリオ大会では、選手村で調理されたタマゴはすべて「ケージフリー」のものだった。東京五輪でも、すでに一部選手らが同様の基準を満たすよう声明を発表しているという。