国税庁がタワーマンションを利用した「タワマン節税」の歯止めに乗り出した。来年1月をめどに相続税を算出するための「相続税評価額」の算定ルールを見直す。現在は平均して市場価格の4割前後とされる評価額を戸建てと同程度の6割まで引き上げ、不公平感を解消するのが狙いだ。富裕層に限らず、中間層の相続にも影響する可能性がある。(竹内駿平)
悩む富裕層
「節税効果がなくなるわけではないが、税負担は増える。効果的な方法を考えたい」。都内に住む60歳代の会社員女性はそう語った。
女性は7年前、相続税対策で、東京都西部のタワマン高層階を約8000万円の現金一括払いで購入した。現在は賃貸に出す。いずれは子供か孫への相続を考えていたが、今は賃貸を続けるか、算定ルールの見直し前に贈与するか、決めかねている。
外資系金融企業に勤める都内の30歳代の男性は、アパート1棟や高級マンションなどの投資用不動産を所有する。新たにタワマンの購入も予定するが、迷いもある。「節税効果が減ると購入を控える層が出てくるかもしれない。人気が鈍る可能性もあり、投資すべきかよく検討したい」
投資用不動産を扱う「ストレイトライド」(東京)には7月、タワマン購入を検討する投資家から約30件の相談が寄せられた。釜田晃利取締役は「投資家は節税効果がどの程度薄まるかを既に考えている。投資先としての優先順位が下がる可能性もある」と話す。
高層階ほど節税効果
一般的に20階以上とされるタワマンは、建築基準法の改正で高さ制限が解除された1970年代以降に登場した。不動産調査会社によると、昨年12月末時点で全国に1464棟、38万4581戸がある。
相続税評価額は建物と土地の価値を基に算定される。土地は「公示地価」の8割を目安とする「路線価」が基準となるが、マンションの場合、全体の敷地面積が戸数で分割される。戸数の多いタワマンは1戸あたりの持ち分が減る上、部屋の広さが同じなら階層に関係なく評価額が同じとなり、市場価格が高額な高層階ほど節税効果が大きかった。
タワマンを巡っては2017年、高層階の固定資産税を増額する税制改正が行われた。今回の見直しでは、高層階ほど恩恵を受ける相続税評価額と市場価格の差を利用した節税を防止する。
転機となったのは、22年4月の最高裁判決だ。購入価格計13億8700万円のマンション2棟を相続した相続人が、路線価を基に計3億3370万円と評価したケースについて、国税当局が計12億7300万円と再評価し、3億3000万円を追徴課税したケースを適法と判断した。
市場価格は評価額の3・2倍
今年1月に始まった有識者会議では、国税庁から具体的なデータが示された。都内の築9年、43階建てタワマンの23階の部屋(約67平方メートル)は、18年のデータで市場価格が1億1900万円だったのに対し、評価額は3720万円と3・2倍の開きがあった。
全国のマンションの抽出調査でも、平均2・34倍となり、戸建ての1・66倍と大きな差があった。
新たな算定ルールでは、マンションの築年数や総階数などを基に理論上の市場価格を算出し、その6割以上を評価額とする。戸建ての評価額が市場価格の約6割であることを根拠とする。
今回の見直しは、中間層にも影響がある。国税庁の抽出調査では、半数以上のマンションで評価額の引き上げが見込まれる。
ITエンジニアの男性(48)は十数年前、川崎市の武蔵小杉駅前にあるタワマンを購入し、妻と子供2人と暮らす。新たな算定ルールでは、相続税が数百万円程度上がる見込みという。「固定資産税も上がり、タワマンが狙われている印象がある。すぐに住み替えはできず、しばらく様子をみるしかない」と話す。
相続に詳しい斎藤幸雄税理士は「タワマンを巡る不公平感は解消されるが、投資家は、古くて低層でも高額で売買される『ビンテージマンション』など別の投資対象に移行するだろう。不公平感の是正には更なる対策が必要だ」と指摘している。