「チャットボット」自治体に広がる 住民の対応、AIで

住民からの質問対応は人工知能(AI)にお任せあれ―。自動対話システム「チャットボット」を導入する自治体が増えています。24時間365日休むことなく、電話や窓口で対応する職員の負担を肩代わりしてくれる「AI職員」は今後さらに身近な存在になりそうです。
(編集局コンテンツセンター・佐藤理史)

会津若松市は2017年度から

会津若松市が運用するチャットボットの画面

 チャットボットはインターネット上での短文メッセージ交換を指す「チャット」と「ロボット」を組み合わせた造語です。知りたい情報をメニューから選択するか、文字入力すると、即座に回答が表示されます。
 福島県会津若松市は2017年度、通信アプリLINE(ライン)で展開する「LINE de ちゃチャット問い合わせサービス」の運用を始めました。
 「休日・夜間診療所あいてる?」。休日当番医に関する質問を書き込むと、AIの「職員見習いマッシュくん」から即座に必要な情報を問う返信が。選択肢から受診日や診療科を指定すると、当番医を教えてくれました。そのまま電話したり、地図を開いたりできます。
 この他、マッシュくんは「新型コロナの状況」「ごみの分別」「除雪車の位置」「各種証明書の申請」などにも的確に回答。好きな食べ物や趣味といった世間話にも嫌な顔をせずフランクに応じてくれます。
 導入5年目で利用登録は現在8500人超。昨年度は約2万2000件の利用がありました。導入直後のアンケートでは利用者の8割以上が好意的に受け止めたそうです。

仙台市はごみの分別で実証実験

仙台市が実証実験を行うチャットボットのトーク画面

 チャットボットは保険会社や宅配業者が顧客サービスの一環として16年ごろから取り入れています。サービスを提供する企業は30社以上とも。民間調査会社のアイ・ティ・アール(東京)の予測によると、国内の市場規模は18年度の24億円から、22年度には99億円に拡大する見通しです。
 地方自治体にも普及が進みます。総務省の調査によると、20年末現在、全国179の自治体(内訳は都道府県28、指定都市9、その他市区町村142)が導入。18年11月の55から約2年で3倍以上に増えました。
 このうち東北は秋田県と福島県、会津若松市と郡山市の4自治体です。その後、20年12月に山形県酒田市、21年5月に福島県川俣町がいずれもLINE公式アカウントを通じて導入。仙台市は7月に「ごみの分別」分野で実証実験を行っています。
 総務省地域通信振興課によると、住民側は開庁時間にとらわれず、スマートフォンなどの簡単な操作で問い合わせできるのが利点。担当部署が分からなかったり、複数にまたがったりしていても、ワンストップで質問できます。

導入時に50万~100万円

 一方、地方自治体は少子化に伴って職員が減り、一人に掛かる業務が増加。問い合わせに機械的に応じる時間や労力を、別の創造的な仕事に振り向けたいというニーズがありました。人口10万人規模のある自治体では、チャットボットの導入によって9カ月で約2万8000件の問い合わせを処理し、約950時間の削減効果があったといいます。
 新型コロナウイルス感染拡大防止のため、窓口業務をオンラインに置き換える流れも後押しし、「想定以上に早く広まっている」(地域通信振興課)そうです。
 導入へのハードルの一つは予算です。自治体向けサービスの開発・販売を行う三菱総合研究所(東京)によると、導入時と年間運用にかかる費用はそれぞれ50万~100万円程度。総合案内か特定分野か、自治体側で質問と回答のデータを用意するかどうかなどで、価格の開きがあるそうです。
 早稲田大政治経済学術院の稲継裕昭教授(公共政策)は「サービスを提供する企業が増えて価格競争が起きている。複数の自治体が共同で導入すれば負担も軽くできる。先行事例が広く知られるようになり、導入する自治体はさらに増えるだろう」と見通しを語ります。その上で「役所側の論理でサービスを作りがちだが、利用者の使い勝手を基にデザイン設計することが大切」と指摘します。
 費用対効果をどう見極めるかも重要だといいます。会津若松市スマートシティ推進室の担当者は「利用者の利便性を考えればあった方がいいが、数値で効果を検証するのは難しい。導入や検証のために、逆に職員の負担が増えないようにしないと」と話します。

タイトルとURLをコピーしました