「テレ東音楽祭」にジャニーズ問題が甚大な影響 サントリー・新浪社長の発言で「日曜劇場」もピンチか

ジャニーズ事務所の創業者・ジャニー喜多川氏(2019年に87歳で死去)による性加害問題が、民放の年末音楽特番に深刻な影響を与えそうだ。年末音楽特番はジャニーズ色の強いものが目立つが、その内容に難色を示しているスポンサーがいる。ジャニーズ色が強いままの場合、スポンサーを降りる可能性もあるという。追従する企業も出てきそうだ。 【写真を見る】被害の“現場”となった合宿所に、34年前「ジャニー氏の性加害」を告発した北公次氏が訪れる様子

ジャニーズ勢に「テレ東音楽祭」スポンサーが難色

 年末は音楽特番ラッシュ。広告代理店社員によると、スポンサーの一部がジャニーズ色の濃い内容に難色を示しているのが、テレビ東京の「テレ東音楽祭」だ。内容が変わらない場合、スポンサーを降りる可能性もあるという。他局の音楽特番のスポンサーにも「動く気配がある」(芸能事務所のCM担当者) 「テレ東音楽祭」は夏、冬の年2回、あるいは春、夏、冬の年3回放送されている。今年は2回。1回目は夏の6月28日に放送され、2回目の冬は11月末の放送が見込まれている。  昨年の冬は11月23日に放送された。総合MCはTOKIOの国分太一(49)でMCは広末涼子(43)。2人のサポート役的存在のテレ東音楽祭応援隊長は、ジャニーズWESTが務めた。国分は同音楽祭のMCを2014年から担当している。  この回に出演したジャニーズ勢は20th Century、NEWS、関ジャニ∞、KAT-TUN、Hey! Sey! JUMP、A.B.C-Z、ジャニーズWEST、Travis Japan。37組中、8組だった。ジャニーズ勢の色が濃厚だ。  一方、同音楽祭のスポンサーの中でジャニーズ事務所との契約見直しを公表したのは、明治ホールディングス(以下HD)、サントリーHD、アサヒグループHD、キリンHD、アフラック、花王。どの企業も大資本でナショナルスポンサー(全国を対象に宣伝活動を行う広告主)である。

ジャニーズを非難する一方で側面支援することに

 今年6月28日に放送された同音楽祭のジャニーズ勢は40組中、10組。やはり多い。HiHi Jets/ジャニーズJr.、Sexy Zone、.ENDRECHERI.らが出演した。総合MCはもちろん国分太一。テレ東音楽祭応援隊長はTravis Japanが務めた。 「テレ東音楽祭」のスポンサーになった場合、ジャニーズ勢が中核を担う同音楽祭の制作費を結果的に負担することになる。「脱ジャニーズ」を宣言したスポンサーもそう。  すると、同事務所を非難する一方で側面支援することになるわけで、矛盾が生じてしまう。消費者、視聴者、国際社会から一貫性の欠落や性加害問題への認識不足を指摘されてしまう恐れもある。  今月に入ってからもジャニー氏の性加害問題と同事務所のガバナンス不全の問題は、米紙「ニューヨーク・タイムズ」や英紙「ガーディアン」などで批判されている。ジャニーズ事務所の一連の問題は国辱行為に発展している。  テレ東と同事務所との関係は深く、長い。系列局の少なさなどから経営が苦しかった昭和期、ジャニーズ勢に出てもらった「ヤンヤン歌うスタジオ」(1977~87年)は看板番組の1つだった。また、同番組のプロデューサーだったOBは音楽界の実力者で、ジャニーズ事務所との関係が近いことで知られた。  テレ東広報局は取材に対し「ご質問の番組の件については、近く発表しますので、その内容をご覧ください」と回答した。

「輝く! 日本レコード大賞」は無傷か? 

 温度差はあるが、NHKを含めた他局もジャニーズ勢と蜜月だったのは同じ。ただし、民放を支えているのはあくまでスポンサーであり、NHKも視聴者のために存在する。人気タレントを多数抱えていながら、ジャニー氏の性加害問題の解決までには程遠く、さらにガバナンスに問題がある同事務所との距離の置き方は悩ましいだろう。 「民放の音楽特番はほかのスポンサーを見つければいい」といった声が上がりそうだが、そう簡単ではない。  タイムCM(番組を提供するスポンサーのCM)を流すとなると、費用の負担がかなり大きいから、新たなスポンサーを見つけるのには時間がかかる。見つからない可能性もある。TBS「日曜劇場」(日曜午後9時)はスポンサーになりたい企業が多く、順番待ちの状態と言われるが、そんな番組は滅多にない。  もっとも、全ての音楽特番がスポンサーの脱ジャニーズの影響を受けるわけではない。「輝く! 日本レコード大賞」(TBS)などのコンクールは無傷で済みそう。審査で選ばれたアーチストがジャニーズ勢というだけで排除されたら、アンフェアであり、今度は番組とスポンサーが糾弾されてしまうからだ。

「FNS歌謡祭」も内容が従来通りなら微妙

 影響が避けられそうにないのは「テレ東音楽祭」と同じく、制作者が任意で出演者を選べる祭典形式の音楽特番。夏と年末に放送されるフジテレビの「FNS歌謡祭」なども当てはまる。同番組の場合、今年はまず7月に放送されて、次は12月に編成される見通しだ。  昨年12月の「FNS歌謡祭」は同7日に第1夜が放送され、同14日が第2夜だった。司会は「嵐」の相葉雅紀(40)と永島優美アナ(31)が務めた。  第1夜には堂本剛(44)、関ジャニ∞、A.B.C-Z、ジャニーズWEST、Six TONES、Travis Japanが登場。第2夜にはKinki Kids、NEWS、KAT-TUN、Sexy Zone、King & Prince、Snow Man、なにわ男子が出演した。出場アーチスト計102組中、13組がジャニーズ勢。司会の相葉もそうなのは言うまでもない。こちらもジャニーズ色が濃厚だった。  第1夜と第2夜のスポンサーには、花王、明治HD、サントリーHD、アフラック、サッポロHD、キリンHDなどが名を連ねた。いずれもジャニーズとの関係見直しを表明した企業だ。「FNS歌謡祭」も内容が従来通りであるなら、スポンサーは考え込むのではないか。  今年7月12日の「FNS歌謡祭 夏」のジャニーズ勢は39組中5組。King & Prince、なにわ男子、NEWSなどが出場した。この時のスポンサーのうち、ジャニーズ事務所との付き合いを見直したのは明治HD、キリンHD、サントリーHD、アサヒグループHD、セブン&アイHD、日本マクドナルドだ。  今後、特に注目されるのは、外国資本の比率が高く、子供たちと家族の支援を社是にしている日本マクドナルドと明治HD。明治HDの川村和夫社長は、スポンサーの集まりである「公益社団法人 日本アドバタイザーズ協会」(旧日本広告主協会)の理事長だ。  民放界に対するアドバタイザーズ協会の発言力は極めて強い。例えば、誰が番組を観ているのか分からない世帯視聴率 だけだった広告界に個人視聴率が導入されたのも、同協会の要請が理由の1つだった。 「もはや民放のTVerで稼げるのだから、スポンサーが降りても構わないのではないか」と考える向きもあるだろう。地上波のCMよりTVerのほうが儲かると唱える声が一部にあるからだが、見当違いだ。TVerの収入は地上波のCMの約30~50分の1。地上波のスポンサーが次々と降りてしまったら、民放は壊滅的な打撃を受ける。

遅々として進まなかった改革

 経済同友会代表幹事でサントリーHD社長の新浪剛史氏(64)は朝日新聞(9月16日付)のインタビューで、今後2、3カ月で同事務所の体制に改善が見られない場合、ジャニーズ勢が出演する番組のスポンサーを降りることもあり得ると話した。となると、サントリーがメインスポンサー4社のうち1社である「日曜劇場」にジャニーズ勢が出演できなくなる恐れがある。  逆に言うと、同事務所が短期間で変革を成し遂げた場合、脱ジャニーズの流れは食い止められる。だが、現実には難しそうだ。  同事務所内には大手レコード会社、ソニー・ミュージックエンタテインメント元執行役員の竹中幸平氏がいる。エンターテインメント業界内でキレ者として知られる人だ。竹中氏は7月1日付で顧問になった。ところが同事務所内に目立った変化はなく、社名変更すらなかった。 「会社はジュリーさんに権限が集中している」(現在もジャニーズ事務所の内情を知る元同事務所スタッフ)  同日、CSR(企業の社会的責任)活動に詳しい元環境事務次官の中井徳太郎氏、ハラスメント問題のエキスパートである弁護士の藤井麻莉氏らも社外取締役に就いた。しかし、この人材も生かされていなかった。「外部専門家による再発防止特別チーム」によると、9月に入るまで取締役会が開かれていなかったからである。  同事務所は19日、社名とジュリー氏の持株比率の変更などの可能性を公式ホームページで示唆した。国内外から猛批判を浴びたためだろう。10月2日に発表する。  もっとも、泥縄式の対応をスポンサーや国際社会、世間が受け入れるだろうか。毎日新聞(9月18日付)の世論調査では、ジャニーズ事務所が信頼を回復できると思うかどうかを尋ねる設問で「できないと思う」が63%に上り、「できると思う」の18%を大幅に上回った。「分からない」は19%だった。  広告などへのジャニーズ勢の起用を見送る企業が相次いでいることについては、「理解できる」と答えた人が60%、「理解できない」が28%、「分からない」が11%だった。 高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ) 放送コラムニスト、ジャーナリスト。大学時代は放送局の学生AD。1990年のスポーツニッポン新聞社入社後は放送記者クラブに所属し、文化社会部記者と同専門委員として放送界のニュース全般やドラマレビュー、各局関係者や出演者のインタビューを書く。2010年の退社後は毎日新聞出版社「サンデー毎日」の編集次長などを務め、2019年に独立。 デイリー新潮編集部

タイトルとURLをコピーしました