「働かない中年社員」問題は、会社のマネジメントと本人の心構え、いったいどちらが悪いのだろうか。マーケティングリサーチの「アスマーク」(東京都渋谷区)が2023年9月27日に発表した調査「本人が悪い? 会社が悪い? 自主調査『働かないおじさん』問題」によると、「会社が悪い」とする人が「本人が悪い」とする人を上回る結果になった。
ところが、30代女性だけは「本人が悪い」とする人が突出して多かったのだ。
職場のモチベーション下げる存在
調査によると「働かないおじさん」とは、収入や期待される成果に見合った仕事をしていない中高年男性を指す言葉だ。どの世代にもローパフォーマーはいるが、年功序列が浸透している日本企業では、中高年世代の、特に男性の人件費が高い。
「なぜあの人が、自分より高い給料をもらっているのか」という不満が若い世代から出て、職場のモチベーションを下げていることが問題になっている。
アスマークの調査では、タイトルこそ「働かないおじさん」だが、「性別にかかわらず『収入に見合った仕事をしていない40代~50代社員』」というくくりで実態を聞いた。インターネット調査で、対象は、22歳から56歳までの正社員の男女、合計1200人(20~50代の世代ごとに男女150人ずつ)。期間は2023年4月4~12日。
まず、「自分の会社で、働かない中年社員が思い浮かぶか」と聞くと、「思い浮かぶ人が多い」(24.3%)と「思い浮かぶ人がいる」(27.4%)を合わせて、半数以上(51.7%)が社内にいると答えた【図表1】。
性別年代別でみると、「思い浮かぶ人がいる」は男女とも20代では低いが、30代以上になると「働かない中年社員」を思い浮かべる割合が5割を超え、特に女性の30~40代では「思い浮かぶ人が多い」が3割を超える【図表2】。
また、従業員数別でみると、従業員数が多いほど増える傾向がはっきりする。1000人以上の大企業になると、「働かない中年社員」がいる割合は6割を超える(62.5%)。これは従業員100人未満(39.2%)の中小企業の約1.6倍だ。
業種別では、「働かない中年社員」が多いところと、少ないところの違いがあるようだ。【図表3】は「思い浮かぶ人が多い・少ない」業種を比較したグラフ。どの業種にも4割以上いるものの、バラツキが大きい。
最も多かったのは「電気・ガス・水道業」(69.0%)、次に「教育・学習」(67.6%)でどちらも7割近い。一方、最も少なかったのは「卸売・小売」(40.0%)、次いで「IT・情報通信」(43.1%)だった。
ところで、「働かない中年社員」はなぜ働かないと思うのか。「意欲が低い」と「うまく働けていない」の2択で聞くと、全体的には「意欲が低い」(56.4%)が「うまく働けていない」(43.6%)を上回った【図表4】。
興味深いのは、「思い浮かぶ人がいない」ケースでは、「うまく働けていない」(58.3%)という同情的見解が多数派を占めたのに対し、「思い浮かぶ人がいる」ケースでは、本人の「意欲が低い」(70.2%)ことに問題があると指摘する傾向が顕著だったことだ。
これは、実際に身近で「働かない中年社員」と接しているか、どうかの違いだろうか。
さて、「働かない中年社員」問題、本人が悪いのか、それとも会社が悪いのか。【図表5】は、性別年代別に聞いたグラフだ。全体の結果をみると「本人が悪い」5割弱(46.6%)に対して、「会社が悪い」が5割強(53.4%)となっており、マネジメント側の問題という考え方がやや多い結果となった。
ただし、男女とも当事者世代の50代では「会社が悪い」が6割以上と高い。だが、女性30代では「本人が悪い」が6割弱(58.7%)と、他の世代に比べ突出して高い結果になった。これはどういうことだろうか。
IT・情報通信に「思い浮かぶ人」少ない理由
J-CASTニュースBizは、調査担当者に話を聞いた。担当者は、「データを元に仮説検証しているわけではないので、あくまで個人的な想像、仮説ということが前提ですが」という条件で、取材に応じてくれた。
――企業規模が大きいほど、「働かない中年社員」を思い浮かべる人が多いという結果が興味深いですね。やはり、大企業だと、そういう社員でも「生息」できる「余裕」があるということでしょうか。
(以下引用)
調査担当者 そのように考えることに妥当性はありそうな感じがします。「人数が多い企業ほど、ひとり1人の仕事における影響度が小さくなるのではないか」と仮説を立てると、働かない中年社員でも居続けやすいのではないかと考えられます。
(以上引用)
――業種別に見ると、「IT・情報通信」に「働かない中年社員」が少ないことが目立ちます。やはり、最先端で競争が非常に激しいからでしょうか。あるいは、一定のスキルがないとそもそも入社できないからでしょうか。
逆に「電気・ガス・水道」「教育・学習」「金融・保険」といった業種に「働かない中年社員」が思い浮かぶ割合が高いですが、どういう理由が考えられますか。
(以下引用)
調査担当者 成果主義寄りか、年功序列寄りか、という古くからの企業か新しく出てきた企業かの違いが大きいのでは、と最初は考えてみたのですが、「金融・保険」などは古くからある業界ではあっても、現在、成果主義が強い業界ともいえます。やはり、大企業が中心ですから、人数の影響が大きいのでは、と個人的に仮説を考えています。
IT・情報通信業界は人手不足状態という話を聞きますし、「働かない中年社員」ではいられないという可能性もあるかもしれませんね。
(以上引用)
頑張っているのに賃金低い不満が…
――ところで、「働かない中年社員」は本人と会社どっちが悪いかという問題ですが、30代女性だけが「本人が悪い」と考える割合が突出して多いことをどう考えたらいいでしょうか。
(以下引用)
調査担当者 この点ついては、「相対的剥奪感」という心理学ワードを思い浮かべました。「他人に比べて、自分は損している、劣っていると、強い不満や焦りを抱く感情」ですね。
結婚、出産、育児といったライフワークが大きく変化しやすい30代女性は、年配のおじさんたちと比べ、会社では短い時間で一生懸命、しっかり仕事をこなしているにもかかわらず、賃金が抑えられていることなどへの不満を感じやすくなっています。
それが、「働かない中年社員」たちを悪いとする感情につながっているのではないかと考えてみました。
(以上引用)
――なるほど。一方、50代男女は「会社が悪い」と見る割合が圧倒的に多いですね。これは当事者だからでしょうか。
(以下引用)
調査担当者 50代男女は、この議題に最も近い存在なので、「よくないこと」の原因は個人ではなく、外部に求める傾向が出ているのかもしれないと感じます。
ただし、これがもし「よいこと」が議題だったら、会社ではなく、個人要因に傾いたのか、とても興味があります。
(以上引用)
(J-CASTニュースBiz編集部 福田和郎)