2011年の東日本大震災後、全国で500棟近くの津波避難タワーが整備された。7割を占める南海トラフ巨大地震の被害想定地域では、国による建設費の補助割合が3分の2と手厚く整備が進んでいるが、他の地域では費用負担がネックとなっている。完成後の活用も課題だ。 【図表】巨大地震で想定される震源域
補助が後押し
タワー数が115棟と全国で2番目に多い高知県は18年度までの6年間、市町村に対し、建設費の3分の1を支援し、国の補助と併せて実質負担ゼロにする制度を設けた。
同県香南市は県内最多の21棟を抱え、寒さ対策として防風シートの設置を進めている。地域の自主防災組織は花火大会に合わせ、夜間の避難訓練を行っている。市の担当者は「国や県がハードの費用を負担してくれたことで、市はソフト面に注力できる」と話す。
重い負担
一方、国の補助が通常の2分の1の地域では、費用が壁だ。千島海溝地震で最大23メートルの高さの津波が予想される北海道浜中町では、南部沿岸に高台や高層の建物がない。タワーの必要性は高いが、町の担当者は「国の補助があっても、小さな町では自己負担分の捻出が難しい」と打ち明ける。
岩手県久慈市は16年に復興交付金約2億円を活用して高さ約9メートルのタワーを建てたが、日本海溝地震の国の想定で津波は最大16メートルとされたため、昨年3月に使用を中止した。土地のかさ上げや建て替えには多額の費用がかかる。市の担当者は「まさか、震災を超える想定になるとは思わなかった。今後の対策を考えないと」と頭を抱える。
活用されず
東日本大震災後に建てられた宮城県石巻市大宮町の津波避難タワー。214人を収容できる(石巻市提供)
タワーの活用方法も課題だ。震災で42人が犠牲になった宮城県石巻市大宮町地区では15年、住民の要望で高さ13メートルのタワーが建てられた。高台まで徒歩で約30分かかるため、避難場所として期待されたが、3月16日深夜に福島県沖で起きた地震では、市はタワーが使われた形跡を確認できなかったという。
60段以上の階段を上らなければならず、行政区長の阿部収さん(74)は「お年寄りにはきつい」と訴える。市の担当者は「近隣住民らに避難支援の協力を求めていきたい」と話す。
群馬大の金井昌信教授(災害社会工学)は「国や県は建設費だけでなく、避難に実効性を持たせるための対策や日頃の避難訓練などの支援もすべきだ」と指摘する。