「積水ハウス事件」首謀者・”内田マイク”の正体…世間が不動産バブルに沸く中、彼はいかにして「地面師のドン」になったのか

今Netflixで話題の「地面師」…地主一家全員の死も珍しくなかった終戦直後、土地所有者になりすまし土地を売る彼らは、書類が焼失し役人の数も圧倒的に足りない主要都市を舞台に暗躍し始めた。そして80年がたった今では、さらに洗練された手口で次々と犯行を重ね、警察組織や不動産業界を翻弄している。 【漫画】「しすぎたらバカになるぞ」…性的虐待を受けた女性の「すべてが壊れた日」 そのNetflix「地面師たち」の主要な参考文献となったのが、ノンフィクション作家・森功氏の著書『地面師』だ。小説とは違う、すべて本当にあった話で構成されるノンフィクションだけに、その内容はリアルで緊張感に満ちている。 同書より、時にドラマより恐ろしい、本物の地面師たちの最新手口をお届けしよう。 『地面師』連載第18回 『《積水ハウス地面師事件》主犯格が「ファーストクラス」で悠々と高飛び…「内通者」の可能性まで囁かれた警視庁の「大失態」』より続く

内田マイクの正体

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2016年の暮れも押し迫った12月19日、不動産業者の耳目を集めた事件の裁判が、東京地裁で開かれた。被告人はこの数年来、都心の地面師詐欺事件の多くにかかわってきた内田英吾こと内田マイクである。積水ハウス事件でも、警視庁はずっと首謀者と睨んで捜査を進めてきた。数多くの地面師事件における最大のターゲットだ。実は積水事件の2年前に警視庁は内田を摘発し、内田はこのとき地面師詐欺の被疑者として証言台に立った。 午後2時、その裁判が始まった。傍聴席から見た証言台の内田は、妙な貫禄があった。 当時63歳、内田は身長180センチ前後ある長身で、がっしりした体躯をしている。丸刈りに近い白髪交じりの短髪に黒縁のメガネをかけ、黄色いネクタイに濃紺のブレザーを羽織っていた。一見すると、大学や企業のラグビー部監督のようないでたちだ。が、その正体は20年ほど前に「池袋グループ」と呼ばれた集団を率いていた犯罪集団のボスである。内田はいかにも詐欺集団を率いる親玉然としていた。 当時はあまり注目されなかったが、内田の存在が新聞などで初めて取り沙汰されたのは、2000年代に入ってからだった。ITバブルといわれた時期にあたる。六本木ヒルズ族に代表された新興成金がファンドを使った不動産投資に浮かれていった。それを後押ししたのが首相の小泉純一郎だ。内閣に首相肝煎りの都市再生本部が置かれ、文字どおり、東京や大阪などの都市の再開発計画が立ちあがっていく。ヒルズ族が集う六本木には、都市再生計画の目玉に据えた東京ミッドタウンが出現した。 久方ぶりに訪れたそんな都心の不動産バブルは、内田ら地面師たちの暗躍するかっこうの舞台となる。

地面師グループの実態

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〈「地面師」5組織が暗躍 暴力団、直接関与も 警視庁が全容解明〉 2003年2月6日付毎日新聞夕刊は、彼らを特集した。2002年4月に警視庁捜査二課が内田を逮捕し、そこから地面師グループの実態が表面化してきた。記事は次のように書く。 〈不動産登記の申請書類を偽造して所有者になりすまし、他人の土地を勝手に転売する「地面師」のグループが都内に5つ存在することが警視庁捜査二課の調べでわかった。相互に連携を図りながら、少なくとも十数件の物件を転売するなどしていた。同課がこれまでに詐欺容疑などで逮捕した約30人のうち3人が暴力団組員で、暴力団の直接の関与が初めて明らかになった。警視庁は不況下で、暴力団が新たな資金源として地面師グループに接触を図ったものとみて解明を進める〉 地面師集団は、新宿や池袋、錦糸町などの駅前の喫茶店やホテルにたむろしてきたため、当時、警視庁はそれを「新宿グループ」や「池袋グループ」「総武線グループ」(別名・錦糸町グループ)などと呼んだ。そのなかで内田は池袋グループの頭目として逮捕され、悪名が知られるようになる。ちなみに当時の最大勢力は新宿グループとされた。1998年には元マラソン選手の瀬古利彦から3900万円を騙し取ったとして犯行グループが逮捕されたこともある。内田の率いた池袋グループと新宿グループについて、警視庁はこう発表していた。 〈「池袋」の事件では住吉会系組員(44)が所有者役を務めたが、「新宿」の事件では、43歳と47歳の山口組系組員2人が所有権移転のシナリオを描くなど中心的役割も果たすようになった。 ある捜査幹部は「暴力団は地面師詐欺だけでなく、取り込み詐欺や偽札づくりにも関与している。不況でしのぎが厳しくなって、資金源獲得のため、なりふり構わず犯罪に手を染め始めた」と指摘している〉(同・毎日新聞)

謎に包まれる「マイク」の由来

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こうして内田はいったん検挙され、懲役暮らしを余儀なくされる。服役後、釈放された当人が数年前に復活した。2000年代初めに検挙された多くの地面師が引退するなか、活動を再開した数少ない地面師の1人だ。いまや日本の地面師集団の頂点に立つ、と評判の大物詐欺師である。 マイクといっても、外国人やハーフではない。本名ではあるが、以前は英吾と名乗っていた。マイクという外国人のような名にしたのは、どのような経緯なのか。 一説によると、駐留米軍の兵士と日本人妻のあいだに生まれ、苦労してこの世界に入った、とまことしやかに伝えられてきた。だが、どうやらそうではなさそうだ。積水ハウス事件のカミンスカス操が旧姓の小山から改姓したように、内田は服役後にマイクを名乗るようになった。 概して地面師たちは、詐欺のテクニックにかけて自信を持っている。単なる口八丁ではなく、彼らの犯行計画は計算された上で動いている。一方、いくら大物といっても、広域暴力団の組長や極左の過激派のリーダーのように著名でもなく、その素顔はほとんど世間に知られていない。そんな地面師の代表格の一人が、内田マイクといえる。 『「覚醒剤」「脱税」「暴力団」不祥事にまみれた不動産取引…マンション開発ブームの裏で六本木の黒服が「大物地面師」になるまで』へ続く

森 功(ジャーナリスト)

ドラマ「地面師たち」監修の司法書士・長田修和氏に聞く舞台裏と不動産取引の実態

2024年7月のリリース以来、大ヒット中のNetflixドラマ「地面師たち」。売主になりすました地面師グループが、大企業から約100億円を騙し取ろうとする様を描く本作では、不動産取引の現場がドラマティックに描かれています。

不動産の決済を行う際に重要な役割を果たすのが司法書士です。本作の中でも地面師グループの法律屋役・ピエール瀧さんと買主側の司法書士とのやり取りがSNS上で注目を集めています。

今回は、「地面師たち」の不動産取引に関する描写の監修者を務めた司法書士・長田修和氏に、ドラマ製作にまつわる苦労話や司法書士業務について話を聞きました。

ドラマの監修は「メチャクチャ大変だった」

 ―ドラマの「監修」というのは、具体的にはどのような作業なのでしょうか?

かなり地味かつ大変な作業でしたね。

まず監督さんが様々な取材・リサーチをして作成した台本がある。この台本を映像化するわけですが、その過程で表に出ない膨大な作業があるのです。

例えば、台本上では「印鑑証明書を出す」と文字で書くだけですが、映像化にあたっては「本物に見える印鑑証明書」が必要になります。しかも「地面師たち」は平成29年が舞台という設定なので、当時の書式のものを用意する必要がありました。

そもそも、これまで作られてきたドラマや映画で不動産の取引現場が「見せ場」になるなんて考えられませんでした。パパッとハンコを押して、書類を交換、俳優さんが握手して終わりみたいなシーンがほとんどでしょう。

しかし、「地面師たち」は、実際のやりとりをリアルかつ丁寧に描いて、ドラマとして「映える」ように見せています。何十億も売上があり、法務部や顧問弁護士もいて、数多くの優秀な社員を抱えている大企業がなぜ騙されてしまったのか?という点を視聴者が納得感を持てるように伝えなければならない。

だからこそ不動産取引の現場もリアルに描く必要があったのだと思います。

―確かに土地の売買契約を交わすシーンは非常に緊迫感があって見応えがありました。

「地面師たち」は全7話ですが、監督さんの理想は一気に視聴させてしまうことでしょう。だからこそ、第1話の地面師グループが新興不動産会社を手玉に取るシーンで視聴者を惹きつけなければなりません。

そのために、私も様々な資料を用意しました。印鑑証明、住民票、登記簿謄本、固定資産税評価証明書‥‥。スタッフの皆さんが「平成29年度の当時の本物が見たい」というので、伝手をたどって入手するなど、非常に手間がかかりました。実際にドラマで使われた書類は、紙の色味、質、書式など細かいところまでこだわって作られています。

また、「台本には書いてない情報」もたくさんあります。つまり、ドラマ上では描かれないけれど、書類には記載される登場人物の裏設定みたいなものも考慮しなければならない。

例えば、第1話で物件所有者の島崎健一さんの成りすましが登場しますが、住所と氏名、生年月日以外の情報については明確な設定がありません。しかし、住民票を作るなら、「前住所はどうする?」「世帯主は本人で良いか」「いつから恵比寿に住んでいるか」「本籍はどうするか?」「発行場所は、本庁か出張所か?」「役所の印はどうデフォルメするか?」など考慮すべき点が出てきます。そういう見えない設定を、全体のストーリーと齟齬のない形で考えなければいけない。

 ※制作中の書式では住所表示の番号の後に「号」の表記があることを指摘

さらに小道具として作った書類の書式など本当に細かい部分の確認に時間がかかりますし、メチャクチャ大変でした。

出版社さんの紹介で依頼が来てからの8ヶ月間は、とても慌ただしかったですね。いきなり「明後日、俳優さんの撮影が決まりましたので来れませんか」と言われたり、ゴールデンウィークに温泉旅行に行ってたら、「連休中に打合せしたい」とか体が2つ必要だと思いましたね(笑)。それ以外にもメールで長文の質問が来て、「スケジュールが前倒しとなったので急ぎで教えて下さい」なんてこともありました。

ただ、製作スタッフさん達は一生懸命で親切でしたし、私よりも各部門との調整が大変だったことを考えると、やむを得ないとも思いました。

個人の取引で「もうええでしょ!」と言われることはない?

 ―ドラマ内で司法書士は、不動産の所有者が「本人なのかどうか」を様々な手段で確認しようとします。あのようなやりとりは実際にあるのですか?

一般消費者が自身の家・マンションを売買する場合にはドラマのように厳密にやることはあまりないと思います。なので、仮に司法書士から本人確認のための質問をされた時に答えを間違えたとしても、それ以外の質問にきちんと答えられれば大きな問題にはならないでしょう。

自身の干支を聞かれて間違える人はほぼいませんが、若い方だとそもそも知らないということがあります。また高齢者になると、自分の年齢が止まっている人もそれなりにいますね。75歳と答えた人が、横から奥さんに「あなた79歳でしょ」と突っ込まれたりして、「無自覚にサバを読んでるんだ」と。私の経験上、特におばあちゃんは、サバを読むケースが目立ちますね(笑)。

なので、ドラマのような緊迫感は個人レベルの取引ではあり得ないですし、仮に記憶違いがあったとしても、他の部分で本人だと証明できれば大丈夫だと思います。

―ドラマのような企業間の大きな取引には細かい本人確認が必要というわけですね。

私たち司法書士が行なっているのは、ただの本人確認ではありません。「高度な本人確認」です。例えば、銀行で送金などをする際の「本人確認」は、免許証やマイナンバーカードを提示するだけで済みます。携帯電話の契約なども同様でしょう。身分証のコピーは取るかもしれませんが、それが「本物かどうか」はそれほど細かく見ていないと思います。

弁護士も司法書士ほど厳格な「本人確認」はやったことがない人がほとんどではないでしょうか。裁判に偽者が来るわけないと思っているかもしれませんが、実際のところはわかりません。

極端な話、家のまえに張り込みをして、裁判所からの書類が届く頃を見計らって玄関前で郵便局員から直接書類を受け取れば、成り済ますことも可能です。実際、このようなやり方で過去に弁護士や裁判所を騙す地面師もいました。

だからこそ司法書士は、一歩踏み込んだ「本人確認」を行っています。共通の研修で教わるわけではないのですが、100年を超える司法書士の歴史の中で蓄積されてきた様々なノウハウで本人確認をしているのです。

そうしたノウハウの一部がドラマ内で描かれている生年月日や干支、近所のスーパーなどを聞くやり方です。ドラマでは、買主側の司法書士が細かい質問をすると、地面師グループの一員であるピエール瀧さんが「もう、ええでしょ!」と割り込んできますが、そうした想定外の「本人にしかわからない質問」をするのも我々の仕事なのです。

―家の売買経験がない人は、「不動産取引の現場はあんなにピリピリしているのか」と思ってしまうかもしれませんね。

先ほども言ったように、個人の取引でドラマのような状況になることはないと思います。地面師にしてみれば、数千万円単位の取引をターゲットにするのは割に合わないですから。ただ、地方に広大な土地を所有している場合は、ターゲットとなる可能性もあるかもしれません。

一般的に地面師が暗躍するのは不動産業者の「仕入れ」が多いですね。実際に被害に遭っている企業も多いですし、ブローカーが介在しているケースも少なくありません。私自身も以前、不動産コンサルタント会社やフランチャイズ本部で店舗開発や物件開発の仕事をしていたことがあるのですが、本当に怪しいブローカーが話を持ってくることも多いのです。

彼らは「売主に会えるの?」と聞くと「会えるけど、その前にまず買い付けを入れろ」と言います。そうしないと購入争いにエントリーさせないよと。そういう案件は、自社の競合企業も興味を持ちそうな条件の良い土地なので、とりあえず買い付けを入れざる得なくなってしまうわけです。

FAXで物件の情報が送られてきて、「明日の午前中までに買い付け入れろ」と言われたこともあります。やはりいい土地は、どの不動産業者も知っている。だからこそ、「自分は地主さんから絶大な信頼を得ているんです」というドラマ内のピエール瀧さんや綾野剛さんみたいなポジションの人が出てくるわけです。

また、「仕掛け案件」と呼ばれるものもあります。仕掛け案件では、ドラマ内の北村一輝さんのようなポジションの人が法務局へ行って登記簿を取ってきます。それに基づいて、建築士に建築パースまで作らせて不動産業者に購入を持ちかけるのです。

そして、不動産会社側が関心を持つようであれば、本物の売主のところに行って売却を促すのです。「○○建設と××ハウスという有名な企業が買いたいといってるんですが売りませんか」と。

視聴者の方々は、「地面師たち」を見ながら、「ドラマだから誇張してるんでしょ?」と思うかもしれません。もちろん、誇張されている部分もありますが、全くのフィクションかというと、そう言い切れない部分もありますね。

―完成したドラマを見た時は、どのように感じましたか?

監督さんと俳優さん、制作スタッフの皆さんの血と汗の結晶だなと思いました。

何より不動産取引という本来、無味乾燥なものを非常に面白いドラマに仕上げてくれたと感謝しています。ましてや司法書士は士業の中でも弁護士と比較すると、注目されることの少ない職業ですから。

魅力的な脚本や細部まで丁寧なことに加えて、売主と買主の関係性や、取引の雰囲気をとてもリアルに描くことができていると思います。ドラマの中で描かれるような大きな取引では売主の立場が強いわけです。

また、不動産業者と司法書士の関係性もよく表現できていると思います。ピエール瀧さんが、若い司法書士に対して脅すような態度を取るシーンがありますが、「本人確認をできるだけ早く終わらせたい」という雰囲気を出してくるケースは、取引の現場でも経験したことがあります。

その流れで、買主側の若い司法書士がピエール瀧さんにけちょんけちょんに言われても負けずに「取引の安全性を担保するのが私の仕事です。こっちも、プライドを持ってやってるんです。社長、続けさせて下さい」といってストーリーが展開していく。あのやり取りは元々台本になかったものを私が提案させてもらいました。

私たち司法書士は不動産取引の安全性を担保するのが仕事ですし、そのために先ほども言った「一歩踏み込んだ本人確認」をしています。最近、現実に流行っているのは手付金を持ち逃げする詐欺なのですが、これは手付けの受け渡しには司法書士が同席しないし、大掛かりな演出コストがいらないからだと考えられます。

それだけ重要な「本人確認」という4文字を映像で可視化して、ドラマとして成立させたのは、本当にすごいことだと思います。

司法書士は登記制度を守ることで日本経済を支えている

 ―不動産取引において、本人確認は司法書士の重要な仕事というわけですね。

我々司法書士は、登記制度の正確性を担保することで、日本経済の根本を支えています。なぜならば、登記簿に書かれている情報が出鱈目だったら、いちいち徹底した調査が必要になり円滑に不動産取引をすることができません。

そうなれば、不動産会社や住宅メーカーへの影響以上に、家を買う人の購入意欲が薄れ、結果的に住宅に付随する家電やその他諸々の製品の取引にも大きな影響を与えてしまいます。つまり、様々な商取引の根本にある不動産の登記情報の正確性、確実性を担保することで日本経済を陰で支えているのです。

登記簿には、その土地の広さや所有権の移転履歴などが書かれています。AさんからBさん、BさんからCさんといった売買履歴もわかります。経験豊富な不動産関係者は、登記簿の行間から様々な情報を読み取ることができますが、それができるのも司法書士が登記制度を守るために日々活動しているからと言ってもいいと思います。

「登記は簡単だから自分でもできる」などという人もいますが、専門知識が不可欠ですし、甘く見ない方が良いでしょう。登録免許税の計算ミスや「減税条項を適用してない」といった小さなトラブルだけではなく、それこそ地面師事件のように売主に問題があったり二重譲渡があって登記が得られないミス、私道漏れや建物の特定ミス、持分が実体と違う贈与税の課税などといったトラブルも起こり得ます。

―司法書士の業務内容が一般消費者によく知られていないと言う面もあるかもしれません。

「地面師たち」のドラマを通じて、多くの人に司法書士や不動産業者の皆さんの仕事を理解してもらうことができたと思います。不動産業者も単に物件を右から左に流しているわけではなく、取引に付随する様々な手続きがあり、一般消費者の皆さんが見ているのは氷山の一角に過ぎません。

私自身も決済の場で「1時間ぐらい喋って10万円なんていい商売してるね」などと言われることがあります。ただ、その裏に複数の取引当事者との本人確認や複数回の打ち合わせがあり、取引が実体と合っているか、所有権を妨げる権利はないか、書類の不備はないかなどの確認をし、複数の登記を一緒に申請するための書類の作成、市役所への申請、登記をミスなく迅速に法務局に申請する、などといった様々な手続き・業務があるわけです。

ただドラマのおかげで少しずつ業務内容が知られてきている実感はありますね。リリース後に何回か決済の場に同席しましたが、お客さんと「あのドラマ見ました?」という話になることがよくあります。

そして、「ドラマだと免許証にライトを当てていましたけど、やらなくて大丈夫なんですか?」なんて言われる。「名前で検索していただくとわかるのですが、あのドラマの取引の監修は私がしてます」と言うと驚かれますね。確かにドラマではライトを当てて、免許証のICチップをチェックするシーンがありますが、私自身はそれ以外の細かい部分も見ています。

最近、SNSを利用した投資詐欺が流行っていますが、犯人集団が被害者を信用させるために、偽造した著名人の免許証を見せていたという話が報道されています。そうした偽造免許証を実際のものと比較してみると、違いがよくわかりますよ。間違い探しをしてみると面白いのではないでしょうか。

《積水ハウス地面師事件》主犯格が「ファーストクラス」で悠々と高飛び…「内通者」の可能性まで囁かれた警視庁の「大失態

今Netflixで話題の「地面師」…地主一家全員の死も珍しくなかった終戦直後、土地所有者になりすまし土地を売る彼らは、書類が焼失し役人の数も圧倒的に足りない主要都市を舞台に暗躍し始めた。そして80年がたった今では、さらに洗練された手口で次々と犯行を重ね、警察組織や不動産業界を翻弄している。

そのNetflix「地面師たち」の主要な参考文献となったのが、ノンフィクション作家・森功氏の著書『地面師』だ。小説とは違う、すべて本当にあった話で構成されるノンフィクションだけに、その内容はリアルで緊張感に満ちている。

同書より、時にドラマより恐ろしい、本物の地面師たちの最新手口をお届けしよう。

『地面師』連載第17回

『積水ハウス事件の「ヤラカシ社長」がクビ直前で大どんでん返し!人事刷新クーデターの舞台裏とは』より続く

主犯格を取り逃がす

「2017年度内の3月中には、地面師グループをいっせい摘発できるのではないか」

取材してきた記者のあいだではそう事件の早期解明が囁かれた。17年8月以来、ずっと燻ってきた事件摘発の期待が高まったが、警視庁の捜査はそこからずれ込んでいく。

「8月末の新捜査二課長への交代を待って、9月はじめの捜査着手ではないか」

「すでに事件は警視総監マターなので、三浦正充さんが総監に着任する9月半ばかな」

そんなさまざまな検挙情報が駆け巡ってきた末、ついに警視庁は10月16日、海喜館を舞台に暗躍した地面師グループ8人の逮捕にこぎ着けたのである。

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これだけの一斉検挙となると、1つの警察署には収容できない。身柄の拘束先は、当人の住居や留置所の空き状況によって異なった。逮捕第一陣となった8人の氏名と逮捕時の年齢、留置した警察署を改めて挙げると、生田剛(46)が渋谷署、近藤久美(35)が原宿署、佐藤隆(67)が赤坂署、永田浩資(54)が目白署、小林護(54)が代々木署、秋葉紘子(74)が原宿署、羽毛田正美(63)が東京湾岸署、常世田吉弘(67)が戸塚署だ。

主犯格はファーストクラスで高飛び

事件におけるそれぞれの役割を記すと、IKUTAホールディングスの生田と近藤が積水ハウスとの取引窓口で、佐藤は小山とともに行動してきた首謀者の手下、小林は運転手役だ。指定暴力団住吉会の重鎮だった小林楠扶の息子であり、そのことも一部で話題になった。また秋葉は犯行における重要な役回りをした。持ち主のなりすまし役を引き込む手配師である。その秋葉から旅館の持ち主、海老澤佐妃子のなりすまし役に任命されたのが羽毛田で、彼女の内縁の夫役が常世田だ。

警視庁は逮捕予定者を15人前後と定め、捜査に着手した。この第一陣の8人が逮捕された4日後の20日、逃げていた佐々木利勝(59)を逮捕し、三田署に留置した。佐々木は地主のニセ振込口座づくりを担い、9人目の逮捕者となる。27日には連絡係の岡本吉弘(42)が出頭し、29日、11人目の逮捕者となったのがあの北田文明だった。その後の三木勝博(63)、武井美幸(57)と合わせると、警視庁はここまでで13人に縄を打ったことになる。

だがその実、あろうことか、警視庁は肝心の主犯格の1人であるカミンスカスこと旧姓小山操(58)を取り逃がしている。

第一陣検挙の3日前にあたる10月13日1時15分、NHKをはじめとしたマスコミ環視のなか、小山は羽田空港からフィリピン航空ファーストクラスに乗り、悠々と高飛びした。事情通によれば、その経緯は以下の通りだという。

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「何度も取り調べを受け、捜査が迫っているのを知った小山は当初、仲間の三木と関釜フェリーに乗って下関から韓国の釜山に渡ろうとした。航空便より船便のほうが港の監視態勢が緩いと考えたからです。しかし三木に誘いを断られたあげく、早朝の船便に間に合わず、いったんは韓国行きを断念した。しかし、いよいよ捜査の手が近づくと、愛人のいるフィリピンに向かうことを思い立ったのです。はじめ成田空港からJAL便に乗ろうとしたところ、日本の航空会社は警察に通報する危険性が高いと思い直し、羽田から出ているフィリピン航空に切り替えたと聞いています」

警視庁OBに内通者…!?

関釜フェリーの件はマスコミにも漏れていなかったようだが、そのあとの足取りはしっかり新聞やテレビ、週刊誌の記者にとらえられ、報じられている。警視庁にとっては大失態であるが、新聞やテレビがさほど問題にしないのは、捜査当局から睨まれ、警察情報からシャットアウトされるのを恐れるからだろう。

記者がそこまでつかんでいるのに、なぜ警視庁は肝心の主犯を取り逃がしてしまったのか。

「そのせいで、犯行グループに内通している警視庁OBがいたのではないか、とも囁かれています」(事情通)

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むろん小山は国際指名手配され、その後逮捕された。事件の奥行きはもっと深い。これまで書いてきたように、積水ハウス事件を企画・立案したのは、小山ではなく、内田マイクであり、北田文明である。たとえば第一陣の逮捕組である永田は内田の連絡役であり、55億5000万円を振り分けるための銀行口座を用意して9人目の逮捕者となった佐々木は、北田の指示を仰いできた。それぞれ、内田グループ、北田グループとして、他の地面師事件でも名前が挙がってきた。さらに積水ハウスの預金小切手を現金化する役割を担った土井淑雄(63)という存在も明らかになっている。私が北田と遭遇した時に取材をしていた、あの地面師である。土井は事件のなかで金融チームを結成し、現金を振り分ける役割を担ってきたとされる。

SafeFrame Container
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入院していた地主の海老澤佐妃子は、この決済直後の6月24日に病院で息を引き取った。地面師たちはそこを狙いすましたかのようでもある。

なかでも内田と北田という2人の大物地面師は積水ハウス事件を計画立案した。そして警視庁は11月20日、14人目の積水事件犯として内田を逮捕した。文字どおり神出鬼没の詐欺集団を率いてきた大物2人を手中に収めた。だが、経営トップの“クーデター騒動”にまで発展した事件で騙しとられた55億5000万円は、闇の住人たちの手で分配され、すでに溶けてなくなったとみたほうがいい。

『「積水ハウス事件」首謀者・“内田マイク”の正体…世間が不動産バブルに沸く中、彼はいかにして「地面師のドン」になったのかへ続く

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