「舛添要一語録」の裏側

舛添都知事の政治資金問題の一連の釈明会見で、舛添都知事の展開する論理がわかりにくいという声をよく聞く。実は私にとってはこの「言葉遣い」は非 常に聞きなれた言葉で、舛添会見も聞いていてとてもわかりやすい。というのは20代の駆け出しコンサルタントだった頃に、このような論理展開を叩き込まれ た「黒歴史」のような体験を私自身がしているからだ。

その経験がこんなところで生きるとは思わなかったのだが、せっかくなので、そのときの知識を活用して、舛添要一語録の解読の仕方についてこの場で説明したいと思う。

レッスン1:精査してからきちんと説明

最初の疑惑が噴出したときに舛添知事が頻繁に繰り返していたのが「精査してからでないと説明できない」という言葉だった。この言葉は、不祥事の際に時間を稼ぐために使う便利な言葉である。

不祥事の時に見ていて気づくのは、誠実な人ほど、きちんと記者たちの質問に答えようとして、その段階でわかっていることを口にするものだ。それが結局、言質をとられたり、後の説明と矛盾をきたしたりして、自身をさらに窮地に追い込むことになる。

そのような失敗を避けるために使うべき言葉が「精査してからきちんと説明する」という言い回しである。これは暗に「本当は今すぐに答えられることには答え ることもできるのだが、より正確を期すために今は答えることを差し控えたい」というニュアンスで伝わるために、周囲に対して誠実な人間であるように見せつ つ、時間を稼ぐことができる。

「去年とおととしの正月にホテル三日月に行ったかどうかぐらい、記憶ですぐに答えられるんじゃないですか?」 「いえ、そこも正確を期すために精査をしてから説明します」というように使うことがポイントだ。そうすることで作戦を組むための時間を稼ぐことができる。 そうではなく「三日月には行きましたが」などと答えてしまうと、次の質問の矢が飛んでくるのでよろしくない。記憶があいまいだという状態で説明時期を後ろ にずらしたほうが賢いのである。

この用法で唯一、舛添知事が失敗したのは、「私の名前でシューマイを注文するといういたずらが起きている が、こういった迷惑行為はやめてもらいたい」と発言したことだろう。なぜシューマイの注文だけ精査をしなくても自分の注文ではないと、はっきり記憶で断言 できるのか?この発言で、本当は都知事はぜんぶちゃんと記憶しているのではないかという疑念を都民に抱かせる結果になった。

「覚えのないシューマイが届いて驚くという事件が起きたが、これが悪質ないたずらかどうか、精査をしたうえで、いたずらの場合は後日、きちんと抗議をしたい」と言っておくべきだっただろう。

レッスン2:第三者機関の厳しい目

疑惑が大きくなってきた企業などでよく「内部調査をきちんと行っている」と説明することがあるが、そのことで世論が受ける印象は「疑惑の本体が身内で調査をしても、その結果を信じられるわけがないじゃないか」という反応になる。

そこで編み出されたのが「第三者機関」という便利な言葉である。今回の場合、舛添知事が第三者と呼んでいたのは、舛添知事が自費で雇った弁護士ふたりであ る。つまり「弁護士を雇って、いい説明の仕方を考えてもらっている」というのが実態なのだが、そうストレートに発表してしまうと自分で内部調査をしている のと大差ない印象を与えてしまう。だから当初、舛添知事は「第三者機関の厳しい目」という言い回しを使ったのである。

舛添知事の優秀なところは、このようにちゃんと考えればすぐに正確な表現ではないことが露呈する言い回しも、短期決戦であれば通用すると読み切った点だ。

「第三者機関の厳しい目で」と繰り返し同じことばかり繰り返したことで、マスコミ紙面はこの日、「第三者機関が調査」という舛添知事の言葉で一時的に埋め尽くされた。

その上で、後で「第三者」という言い方を撤回したが、その頃にはまるで自分が雇った弁護士軍団が第三者であるかのような印象を、世間に対して与えることに成功していたのである。

レッスン3:法的には問題がない

不適切な支出が、雇った弁護士の温かい目で見ても129件、計440万円あったという報告がなされたが、この報告会見での一番重要だった言い回しは「法的には問題がない」である。

弁護士が精査をしてもやはり、ホテル三日月に家族旅行をした件や、ネットオークションで絵画を買った件、『クレヨンしんちゃん』のような漫画を買った件 は、国民の血税からまかなわれる政治資金の使い道としては不適切だと断定されたのだが、そこで弁護士が強調したのが、「政治資金の使途には法律上の制限は なく、違法とは言えない」というお墨付きだった。

ロジックとしては「何に使っても違法ではない」ということなので、別に精査をしなくても全部「法的には問題ない」という結論になると弁護士は言っているわけだ。

舛添知事ではない話で言うと、某経済産業大臣がマザンというSMクラブに政治資金で出かけていた件も、このロジックなら「法的には問題ない」し、某閣僚が地球何周分ものガソリン代を政治資金で支払っていても「法的には問題ない」ということになる。

本当の争点は、政治家として問題があるのかないのかなのだが、そこは第三者の厳しい目ではないため、報告で強調する意思はなかったようだ。

レッスン4:相手に迷惑がかかるので名前を言うことはできない

ホテル三日月の一件で、ホテル関係者は「家族旅行のご様子で、会議なんてしていないですよ」と取材に答えていたが、舛添知事によれば正月にある人物を呼び寄せて、ホテルの部屋で会議をしていたという。

それが誰なのかを議会で問われると「相手に迷惑がかかるので名前を言うことはできない」と発言している。都民から見ればもどかしい限りである。

さて、ここで一旦、舛添知事から話を変えて、昔、私が先輩に不祥事の対応法として教えてもらった言葉を紹介したい。

「相手が証明できないところでは、嘘をついてもまったく大丈夫」

ちなみにこの言葉、誰が教えてくれたのかは、相手に迷惑がかかるので名前を言うことはできません。

レッスン5:絵画を寄付

不適切な支出と指摘された事柄について、舛添知事はケジメを表明した。それが不適切と判断された宿泊費や飲食費を個人資産から返金し慈善団体に寄付すること、絵画類は政治団体を解散する際に寄付すること、そして湯河原町の別荘を売却することの3点だ。

ここは舛添語録としてはとてもわかりやすい言い方をしている。不適切な支出440万円を返金するとは、ひとことも言っていないのだ。

わかりやすく言えば、ポケットが痛む程度のホテル三日月と回転寿司代は返金するが、金額が高い絵画類の政治資金は返金しないということだ。

さらに、当初からの問題になっていた湯河原の別荘についても、別荘と都内を往復した交通費を本来、都に返金したほうが都民としては胸がすくのだがそれは返金しない。それはたとえば50往復をハイヤー代で計算すれば、数百万円規模の莫大な返金額になってしまうからである。

ハイヤー代についてはそうではなく「湯河原の別荘は売却するので、もうこれ以上、公用車を別荘の行き来には使わない」ことでケジメを取ると発言されている。徹底して、少ない出費の部分だけを返金すると発言しているのが舛添知事の発言のポイントだ。

ちなみに都心や首都圏近郊の観光地ではかつてない不動産バブルを迎えている。一等地の別荘など、まさに昨今の中国人の富豪たちが買い漁っていると報道され ている場所である。東京五輪前に売却すれば多額の利益がでることになるが、そう考えるとこの発言は、ご自身の財テクについてその一端をひけらかした発言に 見えるがどうだろう?

レッスン6:全力で政務にまい進する

これだけの問題を引き起こしてしまうと、議会でも記者会見でも本来の政務についての説明の時間などまったくとれず、終始、釈明に貴重な時間がとられてしまうことになる。

つまり知事が辞任しないかぎりは政務にならないのだが、その知事が「政務にまい進する」と前向きな発言ばかりするというのが、一般人にはわかりにくいことらしい。

この「政務にまい進する」という言葉にはふたつの意味がある。

ひとつは「政務にまい進したいから、もうこれ以上追及の話は無し」という知事の願望である。これは非常に便利な断りの言葉で、これから先、いろいろなマスコミがさらなる追及をしようにも「政務にまい進させてくれ」と言って疑惑の追及を断ることができることが期待できる。

これは応用としては「政務なんて全然していないじゃないか?」という追及がきても「私は政務にまい進すると言っているのに、私に政務をさせてくれないのはあなたがたではないですか」と逆に追及することができるようになるという点でも便利な言葉である。

そしてこの言葉のもうひとつの意味は「では、海外出張に行ってきます」という意味でもある。

東京都知事のこの先の重要な政務のひとつが、リオ五輪に出かけてリオデジャネイロ市長から、次の五輪へのさまざまなバトンを受け取ることだ。特に閉会式では東京都知事の出席は政務として必須である。

このような大切な政務であるから、リオでもさまざまな関係者と機動的に会談するために宿泊先は会議スペースを3つぐらい備えたエグゼクティブスイートルームが必要だろうし、往復の航空機も警備を考えれば安全なファーストクラスで飛ぶべきである。

どうだろう。このように一連の解説を読んでいただくと、怒りは消えないが、少なくとも舛添発言への疑問はすーっと消えていくのではないだろうか?

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