「賞味期限切れ」食品を扱うショップに連日客が押し寄せる理由

まだ食べられるのに捨てられている食品を指す「食品ロス」「フードロス」。農水省の発表によると、2016年度の食品ロスは約643万トンであったと推計される。これは1300万人の東京都民が1年間に食べる量に匹敵する約621万トン(東京都環境局のHPより)を上回っていることになる。そんな食品ロスを削減しようと、「賞味期限間近」「賞味期限切れ」の商品を格安で販売するビジネスが注目されている。その最前線に迫ってみた。(消費経済ジャーナリスト 松崎のり子)

「食品ロス」「フードロス」という言葉がよく聞かれるようになった。まだ食べられるのに捨てられている食品を指す言葉で、国や自治体はその削減に積極的に取り組んでいる。この盛り上がりの背景には、国際的な動きがある。

 2015年(平成27年)に国際連合で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」で定めた「持続可能な開発目標(SDGs)」の1つに、2030年までに世界全体の1人当たりの食品廃棄物を半減させることが盛り込まれたのだ。

 廃棄される食品にも、その元となる資源や原材料、さらには加工・流通・処分にコストがかかっている。それを捨てるということは、世界的な資源枯渇や大きな経済的損失につながる。

 それを受けて、日本でも2019年5月31日に「食品ロスの削減の推進に関する法律」(食品ロス削減推進法)が公布された。国・地方公共団体・事業者、そして消費者が連携協力して、食品ロスの削減を推進しようというのである。

 農水省の発表によると、2016年度の食品ロスは約643万トンであったと推計される。これは1300万人の東京都民が1年間に食べる量に匹敵する約621万トン(東京都環境局のより)を上回っていることになる。食品ロス643万トンの内訳は、メーカーや飲食店などを含む事業系が352万トン、家庭から出るものが291万トンとなっている。

 実は最近、この事業系の食品ロスから、私たち消費者にとってメリットのあるサービスが生まれている。「賞味期限間近」「賞味期限切れ」の商品を格安で販売するビジネスである。

賞味期限は食べられなくなる期限ではない

 皆さんは「賞味期限」と「消費期限」の違いをご存じだろうか。どちらも食品ロス発生の元凶になるのだが、誤った認識を持たれている方も少なくない。賞味期限は「食べられる期限」ではなく、あくまで「おいしく食べられる目安」という意味だ。一方、その期限を過ぎたら食べない方がいいのは「消費期限」であり、納豆や豆腐などあまり日持ちしないものについている(ちなみに、どちらも容器をあけない場合の話で、開封したら早めに食べきろう)。

 賞味期限は、菓子類やカップ麺、缶詰といった劣化にしにくいものに記載されている。これは1日、2日過ぎたからおいしく食べられないというほど神経質になるものではないのだが、それを気にする消費者も意外と多い。

 そのため、小売業界には「3分の1ルール」という商習慣が根付いている。これは、食品の流通過程において製造日から賞味期限までの期間を3等分し、最初の3分の1の期間までに納品、次の3分の1を小売店での販売期間と考えるもの。最後の3分の1の期間になると、値引き販売をしたり、賞味期限前でも返品や廃棄されることが多いという。

 これはメーカーや小売業者の間でも疑問視され、「賞味期限が6ヵ月の商品だと製造して2ヵ月経過すると、もう商品として取り扱ってくれない。全く問題がないのにもう販売することができない」という声がある半面、「消費者からすれば賞味期限が切れそうな商品は買いたくないとの心理があるため、古くなると売れ行きが鈍化し、最終的に売れ残って廃棄する事がある」という買い手側の意識も問われている(農林水産省委託事業・平成26年度 食品産業リサイクル状況等調査に関する報告書より抜粋)。

 提言の中には「賞味期限が切れたものに関しては消費期限までの猶予があるのだから、この猶予期間は消費者の自己責任という形で格安で販売するのも有効ではないか。海外では賞味期限切れの商品を販売する小売りも存在している」(前掲同報告書より抜粋)という声もある。“賞味期限間近”をあえてインセンティブにして安く売る。消費者にもメーカーにも販売店にもメリットがある「もったいない市場」がこうして生まれた。

カップ麺は50円以下菓子は25円と格安!

 実際にどれだけ安く買えるのだろうか。そうした店の1つである「フードロス削減ショップeco eat 玉川店」(大阪市福島区)を覗いてみた。運営しているNPO法人は、規格外食品や販売期限・賞味期限の理由によって廃棄される食品をメーカーや卸・小売店等の事業者から仕入れ、食品や事業利益の一部を福祉施設や生活困窮者の支援にあてているという。

 買い物時にはまだ早い平日の午後3時頃だったが、かなり混んでいた。ディスカウントストアからドラッグストアまで安売り店を覗くのを楽しみにしている筆者の頭には、底値はある程度入っている。その視点でチェックしてみた。

 その日は菓子類やペットボトル飲料、油や調味料にカップ麺などが目についた。よく見るメーカー品もあれば、日本語表記がない輸入品もあった。日によって入ってくる商品が違うので、普通のスーパーのように「いつものこれ」という選び方はできない。

 とはいえ、値段はやはり安かった。カップ麺は35円、ペットボトルのお茶が54円、食べきりサイズの柿の種が25円など、ほとんどが2桁価格だ。柿の種はドラッグストアで買うと98円くらいする商品だから、4分の1の値段ということになる。

 レジかごいっぱいにカップ麺を買っていた若者がいたが、会計は500円ほど。筆者も菓子や飲みものを4品ほど買ったが、お会計は税別で120円だった。

 後で確認すると、賞味期限まであと10日のものが1品、すでに期限切れのものが2品、期限までまだ数ヵ月あるものが1品で、すでに全部完食したが、特に体調に問題はないし、十分おいしかった。中には箱買いしている客もおり、社会支援に貢献できるのもむろん意味があるが、消費者にとってありがたい店だと感じた。

 東京にも同様の店はある。その1つである「まるごと安い! マルヤス 大森町店」(東京都大田区)には、賞味期限切迫品や賞味期限切れコーナーがあった。あと2日で賞味期限を迎えるペットボトル飲料や、すでにひと月以上前に賞味期限が切れた食品も並んでいる。「賞味期限切れ品です」とはっきり書かれていると、かえって安心する。

 安い理由さえわかれば消費者は納得して購入するだろう。こうした小売りが徐々に増えることを期待したい。

ネットで訳アリ商品をおトクに買って、寄付もできる

 ネットで購入できる通販サイトもある。「Otameshi」(オタメシ)は、賞味期限間近やパッケージ変更などで本来は破棄されるはずだった食品や日用品をメーカーから提供してもらい、定価より安い価格で販売している。そして、購入代金の一部が寄付に回る。

 寄付先は、「おまかせ」の他に支援先を自分で選ぶこともできる。こちらの親会社オークファンが東京ガスとスタートした「junijuni」(ジュニジュニ)や、2015年にサービスを開始した「kuradashi.jp」(クラダシ)も同じような仕組みで、商品を購入することで社会貢献ができる。

 購入金額の一部を寄付するというのが最初はこそばゆい感じがしたが、実際に購入してみた。利用したのは「Otameshi」で、選んだのは賞味期限まで約3ヵ月という食品ギフトだ。参考価格1万円のところが半額以下で買える。寄付額も表示されており、今回は約1%分が充当される。後は一般的なネットショッピングサイト同様に、カートに入れて決済に進むだけだ。

 なお、3000円以下の商品には送料540円がかかる(沖縄・離島へは送れない)。支払いはクレジットカードのほかにAmazonペイや楽天ペイ、コンビニでの翌月払いなども選べる。また、どこに寄付するかも選んだ。金額は数十円程度だが、割引価格で購入できた上に誰かの支援に役立つと思うと、何だか楽しい気持ちになれた。

 注意点もある。これらのサイトは往々にして1商品あたりの内容量が多くなっている点だ。5食入り袋麺が6個、ジャムが24個、缶詰12個などと大量に届く。食べきれずに廃棄すれば本末転倒になるので、慎重に選んだほうがいいだろう。

 今回は詳しく触れないが、飲食店から出る食品廃棄を減らすべく、余った料理などのテイクアウトができるフードシェアアプリも人気だ。代表的なものとして「TABETE」(タベテ:Cocooking:コークッキングが運営)、「Reduce GO」(リデュースゴー:SHIFFTが運営)がある。会員登録をした上で、余剰料理や食品が発生した店に予約をした後、現地まで直接取りに行く。こうしたサービスがビジネスとして成り立つほど店側にも食品ロスを減らす意義やメリットがあるということだろう。

 最後に、農水省の報告書に記載されていたコメントが印象的だったので紹介したい。

『食品ロスが現代社会で問題視されているのには、賞味期限のルール化が関係している。昭和20 年代~30年代の時代には、食べ物の期限については、個人個人が独自の嗅覚、視覚、味覚を発揮して食べられる物か否かの判断を行い、余程のもの以外はすべて食していたように記憶している。しかし、誤って鮮度が落ちた物を食べ、お腹を壊すことも時にはあった事も事実。こうした過ちを経験し、食品の安全性を自然と勉強していった。しかし、今更昔のような暮らしに戻ることは不可能だと思われる事から、最後は個人個人の意識の問題で、食べ物への感謝ともったいない精神をもう一度自覚し無駄な食事環境を改革してゆく事が肝要かと考える。』(一部加筆)

 皆さんの家庭にも、買ってきたまましまい込まれ、賞味期限を迎えそうな食品はあるのではないだろうか。まずは食べ切る習慣からつけていきたい。

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