黙食にご協力ください――。新型コロナウイルス感染対策の一環で、福岡市のカレー店が、店内では黙って食べる「黙食(もくしょく)」を呼びかけるPOPをツイートしました。従来よりも踏み込んだ表現に「言葉狩りにあう」不安もあったと言いますが、ツイッターでは「分かりやすい」「POP活用したい」などといった反響が客側と飲食店側の双方から広がっています。 【画像】「黙食」にご協力ください…“踏み込んだ”POP、全文がこちら カレー店の看板メニューも
来店客に対して誠実・健全に
POPを製作したのは、福岡市南区にあるカレー店「マサラキッチン」です。デザイナー出身の三辻忍店長が2014年にオープン。看板メニューのチキンカレーを始め、「博多スパイス料理」をコンセプトに新メニューの開発にも日々取り組んでいます。 新型コロナの感染拡大以降、マサラキッチンも「入店後の手洗い」「マスク無い場合は入店拒否」「食事中以外のマスク着用必須」「座席制限」「1グループ1会計」など、対策をしてきました。三辻さんは「かなり厳しく徹底している方ではないか。始めは嫌がる方も多かった」と言います。 今は、来店者のほとんどが趣旨に賛同してルールを守っているというマサラキッチン。それでも会話の部分については「ルールを守らない一部の人たちによって対策が無効化されてしまう不合理さ」があったそうです。 福岡県も緊急事態宣言下に入り、テイクアウトやデリバリー、通販なども活用していますが、「あえてイートインを選んでくれるお客様に対して誠実・健全でありたい」と話す三辻さん。「ノーマスクでの会話はご遠慮ください。感染対策にご協力を!」という掲示はしていましたが、「もう少し端的で分かりやすい表現はないか」と考えて黙食に行き着きました。
リスクあったが「意味と目的」を最優先
「黙って食べましょう」を圧縮した黙食は、三辻さんが子どものころ、学校の給食指導で聞いた言葉です。「黙食にご協力ください」の下には、「お食事中の会話が飛沫感染リスクになります」「このリスクは外食に限らず、学校や職場でも同様です」といった言葉が続きます。 ただ、「字面が強すぎるとも思った」という三辻さん。「もう少しマイルドにした方がいいのでは、と『静食(静かに食べる)』などの意見が相談した人たちからありましたが、意味と目的を最優先しました」 「黙食はかなり強い口調になりますが、静食より解釈の幅がないのでこちらの意図がほとんどそのまま伝わります。伝わり方次第では反感を買うリスクもありますが、それは『仕方がない』と織り込んで製作しました」 作ったPOPは店内に掲示し、ツイッターやフェイスブックでも発信。その際に、「ご自由にどうぞ」とデータの共有もしました。「あくまで自分の店のために作ったので、条件にあうならばですが、使用許可を取る必要もないので自由に使っていただければと思います」
客や同業者から反響
15日夕方に投稿したツイートは、2.6万リツイートされ、いいねの数は4万を超えました。同業の飲食店からは「店に貼ろうと思います」といった声や、「職場に持っていきます」といった反応も。三辻さんが印象に残ったのは、「黙食を掲げることで入店しやすく感じる一人客」が一定数いたことでした。 「当店はおひとりさま比率が高いので意識したことがなかったのですが、黙って食べることが前提の空間にしてくれたほうが安心する、という声が結構ありました」 黙食が注目を集めましたが、店内のメニュー表など三辻さんの感性が光るマサラキッチンは、過去に料理教室やメニュー名の考案も一緒にするなど、お客さんとの交流を大切にしています。 「食事を提供するだけが飲食店の存在意義ではない。おしゃべりとそのひとときを含めた空間も重要なサービス」としながらも、実行するために必要な設備や広さがないので、「私のお店と、私のお客様と、私のスタッフを守るために切り捨てるしかありませんでした」と三辻さん。「これについては本当に申し訳ございません。どうすることもできません」と苦渋の決断であることをにじませました。 今回、withnews以外にも複数のメディアから取材があり、質問内容が類似する部分もあったことから自身のブログ(https://blog.masalakitchen.jp/?p=1387)にもPOP製作の経緯や思いをつづっている三辻さん。最後は、新型コロナウイルスの早い終息を願って、こう結んでいます。 「もしお住いの地域に個人店のカレー屋があるなら行ってあげてください。カレーでなくても激推しの飲食店があるならそちらへ。近くの人は当店へ」