薬剤を使わずにウイルスを不活性化できる『紫外線』が今、新型コロナウイルス対策で注目を集めています。すでに医療機関や鉄道車両などで活用される一方、日焼けの原因となることからもわかるとおり、ヒトに対しても有害であり、有人環境下では利用できない課題がありました。
一方、紫外線のうち、222nmという波長をピンポイントで使えば、ヒトへの有害性を抑えられることがわかっています。広島大学では、ウシオ電機が開発した222nm紫外線を照射できる装置「Care222」を使い、222nm紫外線で新型コロナウイルスを不活性化できることを確認したと9月5日に発表しました。
ウシオ電機の紫外線照射装置「Care222」活用
ウシオ電機が開発した「Care222」は、KrClエキシマランプから出力した紫外線を、独自技術のフィルターに通すことで、222nmをピークとする200〜230nm領域に絞って照射する装置です。222nm以外の波長をほとんどカットできるため、ヒトに対する安全性が高いといいます。
今回の研究では「Care222」を用いて222nm紫外線を新型コロナウイルスに照射しました。すると、10秒間で88.5%、30秒間で99.7%、60秒間で検出限界以下にまでウイルスが不活化しました。222nm紫外線を用いた新型コロナウイルスの不活化は、世界に先駆ける研究となります。
なお、別の研究により、エアロゾルとなって空気中を漂うコロナウイルスに関しても効果が見込めるとのこと。こうした有効性が確認されたことで、無人の空間にとどまらず、駅や空港・飲食店といった有人の空間においても、紫外線を使ったウイルス対策を行う道が開かれた格好です。
「ウイルスを不活化する照明」実現へ
ウシオ電機は「Care222」の光源モジュールを秋より出荷開始予定。東芝ライテックと提携し、同光源モジュールを照明に組み込むことで、「照明+ウイルス除去・殺菌」という新たな価値提案をもつ製品の2021年1月発売も目指します。将来的には、自動車・電車・航空機などのモビリティ、医療現場にもおける活用にも繋げたい考えです。
なお、222nm紫外線の安全性については、ACGIH(アメリカ合衆国産業衛生専門官会議)およびJIS Z 8812(有害紫外線放射の測定方法)において、1日あたり”8時間以内”かつ”22mJ/cm2”が、許容限界値となっています。「Care222」もこれに準拠するものの、複数の学術機関の研究によって、許容値の数十倍以上照射したとしても、皮膚や目に障害が起こらないことが確認されているといいます。
なお「Care222」では、それでも安全性に不安を感じるユーザー向けに、人感センサーを内蔵。人がいないときだけに222nm紫外線を照射するといった配慮も行えます。
ウシオ電機はもともと、同モジュールについて2021年の量産開始を目指していましたが、新型コロナウイルスの広がりを受けて、量産を前倒ししました。有人環境下で使える紫外線によるウイルス除去は、学校や企業・商業施設など、経済や社会活動を止めずに感染拡大を防止するうえで役立ちそうです。
Source:広島大学