【突然死を引き起こす生活習慣病のメカニズム】60歳以上で健康に自信があり、健康診断を受けていない人が高リスクという理由【心臓専門医が解説】

突然死を引き起こす生活習慣病のメカニズムとは?シリーズ「名医が教える生活習慣病対策」、心臓外科医20年のキャリアを持つかかりつけ医であるフルタクリニックの古田豪記院長が、健康への過信に警鐘を鳴らし、健康長寿のための心構えと対策を説く。【突然死を引き起こす生活習慣病のメカニズム・前編】

【表】継続して数値を見ることが重要 赤血球数、ヘモグロビン、ヘマトクリットの基準値

突然死には前触れがある

 突然死は、年齢性別問わず誰にでも起こります。突然死とは、事故や自殺ではなく、何らかの病気が原因で発症後24時間以内に死亡した場合をいいます。原因は様々で、心筋梗塞や不整脈などの心臓の病気、脳出血やくも膜下出血などの脳や脳の血管の病気、さらに大動脈瘤破裂や大動脈解離なども突然死に繋がります。国内では突然死で年間6万~8万人の方が亡くなっているといわれます。

 突然死を引き起こす病気の中で一番多いのが心筋梗塞です。心筋梗塞は心臓の血管が詰まり血液を送り出せなくなる病気で、主な原因は動脈硬化です。高血圧や脂質異常症、糖尿病、喫煙や遺伝的な要因などが重なり血管が固くもろくなり動脈硬化が進行し、ある日突然心筋梗塞を起こします。心筋梗塞は突然起こりますが、動脈硬化は長い期間徐々に進行していたのです。突然死というと、全く何の前触れもなく意識を失い死に至ると考えている方も多いと思いますが、それは誤解なのです。家族葬なら【小さなお葬式】

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 心臓専門医として多くの心臓病の方を診てきましたが、患者さんが適切な治療をして日常のケアも怠らないかぎり、突然死で亡くなることはありません。

 日頃元気でアクティブな中高年男性の突然死がニュースで報じられることがあります。「あんなに元気だったのに」と多くの方がおっしゃいますが、元気そうに見えるのは表面上のことで、血管や細胞の状態は考慮していません。多くの突然死には前触れがあります。不整脈だったり動脈硬化だったり、自覚症状として実感できない程度のごく小さなものだったため、それが命に関わるものだとは認識できていなかっただけです。

継続して検査データを把握し、かかりつけ医と共有する

 逆に60歳以上で健康に自信があり健康診断も受けていない方は、却って突然死リスクが高いといえます。というのも、日ごろの自分の血管や細胞がどういう状態なのか把握できていないからです。また、毎年健康診断や人間ドックを受けているから大丈夫だと思っている方も、突然死の可能性があります。健診や人間ドックを受けているだけでは不十分で、自分の検査データの数値が年ごとにどのように変化しているか把握していなければ意味がありません。

 例えば、血液検査でヘモグロビンの数値が、1年で15から13に下がったとします。15も13も数値としては正常範囲内ですが、自覚できる理由もなく15から13に数値が下がったのは、実は腸管にがんが発生したためだった可能性もあります。正常範囲内だから大丈夫だと安心するのではなく、継続して数値を把握し、それをかかりつけ医と共有することで隠れている病気の早期発見につながります。健康を過信していては、健康長寿が保てないということを肝に銘じることが大切です。

 近年、医学界では「臨床イナーシャ」が問題となっています。イナーシャは「惰性」という意味です。「患者の問題を認識していながら、医師がそれを解決する行動を起こすことができない状態」で、具体的には「治療目標が達成されていないのに、治療が適切に強化されていない状態」を指します。

 高血圧や糖尿病、高脂血症などの生活習慣病を合併している患者さんは、5~6種類もの薬を処方されていることがあります。たとえば、降圧剤を飲んでも血圧のコントロールがうまくいかないので、医師はあと1剤内服薬を増やしたいと考えたとします。ところが患者さんが「これ以上薬を飲むのは嫌だ」と拒否した場合、医師は患者さんを説得するのが大変だからと様子をみてしまうことがあります。これが臨床イナーシャです。関連するビデオ: うつ病を理解する:症状、原因、そして治療法 (unbranded – Lifestyle)

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 血圧をコントロールすることで心臓血管系の重篤なイベントを防げたかもしれないのに、説得が面倒だからと適切な薬物治療をしなければ命に関わることもあります。医師が一方的に患者さんの気持を忖度し、必要な治療の提案を実行しないのは問題ですが、患者さんの側では自覚しにくい問題かもしれません。だからこそ、臨床イナーシャについて理解しておく必要があります。

長期間同じ薬を飲み続けていたら副作用に注意が必要

 臨床イナーシャの観点からいえば、「75歳以上で薬を5種類以上飲んでいながら、1年以上薬の種類が変わっていない」患者さんは、突然死のリスクが高いといえます。個人差はありますが、75歳を過ぎると身体は弱ってきます。細胞が変化しているのに、同じ薬を5種類以上服用し、さらに1年間薬が変わっていないということは、医師が患者の身体の変化にしっかりと向き合っていないか、あるいは、患者さんが頑固に薬の変更を拒否しているかのどちらかである可能性があります。いずれにしても患者さんにとってリスクが高いので、気をつけてほしいポイントです。

 効果のある薬は副作用もあります。服用することで体質が徐々に変化しています。その変化に応じて量を調整したり、薬自体を変えていくことで、副作用を未然に防ぎ最小限の薬で効果をあげることができます。長期間同じ薬を飲み続けることは、副作用を生み出している可能性もあるので注意が必要です。

突然死を引き起こす生活習慣病のメカニズム・後編につづく

【プロフィール】

古田豪記(ふるた・ひでとし)/1993年富山大学医学部卒業。富山大学第一外科助手を経て、2009年篠ノ井総合病院心臓血管外科部長、2012年小諸厚生総合病院内科医長に就任。2013年フルタクリニック開院。心臓外科専門医として20年間、数多くの手術を手がけ、現在はかかりつけ医として長野県佐久市を中心に地域の人々の健康長寿に尽力。とくに糖尿病、高血圧、脂質異常症の治療に力を注いでいる。

取材・文/岩城レイ子

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