】テレワークで「残業代が出ない」「給料激減」「クビに…」悲鳴の数々 新型コロナで見切り発車の「落とし穴」

行き先がレンタルオフィスになっただけの人

中国の武漢市で発生した新型コロナウイルスが猛威を振るい、世界中に感染が拡大し新型肺炎患者が増加の一途を辿っている。新型コロナウイルスの感染を回避・抑制するため、大手企業を中心に次々と「テレワーク」を実施する企業が増加している。しかし、さっそくさまざまな問題点が明るみに出始めた。

NTTデータでは2月14日に拠点ビル内から感染者が出たことを受け、社員に対する在宅勤務の実施を発表した。この動きは17日からNTTグループ全体に広がり、国内約20万人の従業員に対して時差出勤や在宅勤務の活用を強化している。

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電通でも24日、本社ビルに勤務している50代男性から新型コロナウイルスが検出され、安全を確保するために本社ビルを対象にして、全従業員を在宅勤務にした。さらにパナソニックでも26日から、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため東京・中央区にある法人向け事業などの拠点に勤める社員約2000人を原則在宅勤務にしている。 

「日本テレワーク協会」の定義によれば、テレワークとは「ICTを活用した場所や時間にとらわれない柔軟な働き方」と定義されている。一言で「テレワーク」と言っても、色々な働き方がある。

対象は「社員」と「それ以外の仕事の請負人」に分かれ、社員の場合は在宅勤務のほかにも、外出先での仕事、自宅の近くにある企業の小規模なオフィス(サテライトオフィス)などもテレワークに含まれる。仕事を請け負っている場合には、レンタルオフィスなどでの仕事もテレワークとなる。

実際、Web系不動産会社の30代社員の場合には、「テレワークをするように言われたが、在宅勤務ではなく、会社がレンタルオフィスを借りたサテライトオフィスだった。通勤時間は通常の半分の30分程度に減ったものの、勤務時間帯はいつも通りだったし、何よりも狭いレンタルオフィスで見知らぬ人たちと長時間、同じ部屋にいなければならない。かえって新型コロナに対する不安を感じている」という。

新型コロナウイルスの感染を避けることが目的ならば、テレワークは在宅勤務に限定するべきだろう。

テレワークの落とし穴

実は、「テレワーク」の思わぬ“落とし穴”は新型コロナウイルスの感染回避よりも、労働問題にある。

企業と雇用契約を結べば、例えば正社員の場合には労働基準法、最低賃金法、労働安全衛生法、雇用保険法、労働者災害補償保険法などの労働関連の法律に基づいて労働条件などが定められている。しかし、テレワークではこれらの労働条件が明確でなくなる。つまり、様々な局面について労働契約を結んでおかなければ、労働関連法が適用されない場合が発生する。

たとえば労働基準法では労働時間を1日8時間、週40時間までと規定している。だが、在宅勤務の場合は公私の区別が付きづらく、労働時間が不明確になる可能性が高い。企業側は、「メールなどの情報通信機器が常時通信可能な状態になっていない」「業務が具体的な指示に基づいて行われていない」といった場合には「みなし労働時間制」を適用することができる。

「みなし労働時間制」とは、会社側が時間管理をするよりも労働者に労働時間の配分を任せた方が合理的なケースや、社外に出ていて労働時間の把握をすることが難しいケースなどで、事前に決められた時間を「働いたとみなす」もの。

例えば、自宅でメールなどの情報通信機器が常時通信可能な状態になっていても、在宅勤務者が自由にパソコンの前からを離れることができ、あるいは自分のペースでメールのチェックが行なえる場合には、「メールなどの情報通信機器が常時通信可能な状態になっていない」とされる可能性がある。

ここに“落とし穴”がある。

「残業代は出ない」と言われて

みなし労働時間制でも、例えば1日の労働時間を8時間と規定し、時間外労働を行った場合には割増賃金(残業代)の支払対象となるが、実際には勤務した時間や労働効率が不明瞭になり、残業代が支払われることはない。

実際に、早々に2月上旬から在宅勤務を実施したIT関連企業の30代社員は、「会社から『在宅勤務の期間中は残業代は出ない』と言われ、2月の給与が2割ほど減った」という。

この社員は、「普段は10時出勤で、出勤時の電車もそれほど混んではいない。職場のスペースは広く、社員同士も離れて座っている。入居するビル内で新型コロナの感染者も出ていない。それでも、会社がテレワークを行うという以上、給与が減っても従わざるを得ない」と、強制的なテレワークの実施に対して疑問を持っている。

また、みなし労働時間制でも、深夜労働や休日労働については企業は割増賃金を支払う義務を負うものの、在宅勤務の場合、深夜労働や休日労働を会社の指示で行ったことが明確でなければ、割増賃金の対象とはならない。

ここへ安倍晋三政権が実施した臨時休校も影響を与えている。40代の人材派遣会社社員は、「子どもたちが臨時休校になり、妻は仕事があるため、在宅勤務になった私が子どもたちの面倒を見ることになった。このため昼間は仕事に集中できず、結局夜中に仕事をするようになった」という。

自宅勤務の場合、職場とは違って仕事に集中するのが難しいものだ。結局、長時間労働や夜間に仕事をするようになっても、それが「自己都合」であれば割増賃金の対象にはならない。

つまり今回の急なテレワーク実施には、勤務時間や残業、深夜勤務、休日労働などの労働条件の確認などが不十分なのだ。こうした“付け焼刃”的な対応では、のちに問題となる可能性が大きい。

「給料激減」「契約解除」も

そのほかにも、在宅勤務で使用するパソコンは私物なのか社有なのか、パソコンの通信費、あるいは仕事中の光熱費は会社が負担するのか、従業員の負担になるのか等々、テレワークを行うにあたり、決めておくべき事項は多々ある。

さらに、もっとも注意を要するのは、非正規雇用や業務委託などで働いている場合のテレワークだ。

20代でWEBサイト制作を行っている契約社員は、「給与は出来高払いになっている。職場だと細かな打ち合わせができ、データもすぐに入手できるが、自宅からではどうしても時間がかかり、効率が非常に悪い。出来高もすでに3割ぐらいは減っている。今月の給与を見るのが怖い」と話す。

深刻なのは、今回の混乱の中で契約を打ち切られる事例も出てきていることだ。20代のモバイルゲーム会社の契約社員は、「在宅勤務の実施を理由に事実上の雇用調整が行われ、契約を解除された」と筆者に明かした。

新型コロナによる実体経済への悪影響は、すでに様々な業種に現れ始めているが、今後、一段と厳しいものとなっていくだろう。テレワークが人件費の抑制や雇用調整の口実に使われることなく、新型コロナの感染拡大を回避するための有効な手段として実施されることを切に願う。

現代ビジネス
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