あの企業を成功に導いた「独自の勝ちパターン」

国に頼れる時代ではなくなった企業は自らの「勝ちパターン」を考えよ

企業が勝ち残るための競争戦略とは、どんなものでしょうか。それを語る前に、まず国、企業、個人、というマクロの視点から「競争力とは何か」を考えてみましょう。

過去の日本では、国と企業と個人の三者が「WIN-WIN-WIN」の関係でした。国の経済が成長すると企業の業績が良くなり、企業が栄えるとそこで働い ている社員のポジションや給料が上がって個人も暮らし向きが良くなる。一方で、個人が頑張れば企業の業績が上向き、企業が栄えると国の経済も成長する ――。こうした好循環があったのです。

ところがバブル崩壊以降、この好循環が崩壊してしまった。今では、国は国として、企業は企業として、そして個人は個人として、各々が生き残るための戦略、つまり「勝ちパターン」を考えなくてはいけない状況になっています。

たとえば国レベルで見ると、自国のマーケットが大きな国とそうでない国とでは、当然戦い方が違ってきます。アジアでは、シンガポールが広い国土や多くの労 働力を持たない小国なのに頑張っている。自分たちでモノづくりをするのではなく、グローバルにおける金融センター、貿易中継基地、医療の先端基地を目指す という、独自の「勝ちパターン」を考えてきたからです。

それに対して、安い労働力が豊富なインドネシア、タイ、ベトナム、ミャンマーなど の新興国は、現在は高度成長期の日本と同じように、世界の生産基地を目指すことが「勝ちパターン」と言えます。シティと肩を並べる金融都市を育成すること が、国力を上げることになるとは思えません。

個人を見ても同じです。皆が大企業に就職することを願い、そこで同じような仕事をして生きていけたのは、経済が成長していた過去の話。今は自分が本当に成長できる職場を選んでそこで力を付けるという発想で仕事をしないと、厳しい社会で生き残っていけません。

国や個人と同じように、そろそろ企業も国に頼る経営をやめたほうがいいと、私は思っています。企業は、国が経済成長しているときには、他と違うことをやる よりも国の施策に従ってビジネスをやるほうが成長できる。しかし成熟した国においては、国の施策に乗るのは得策ではありません。

日本経済 がかつてのように復活し、再び「ジャパン・アズ・ナンバーワン」になれればいいのですが、残念ながら、もはやそうはならないでしょう。だから、国の経済成 長を神頼みしているような経営は、やるべきではない。極論すれば、今後日本企業は、万一日本という国が没落しても勝ち残れる企業を目指さなくてはいけない のです。

たとえばスイスのネスレという企業は、スイスの経済成長や市場環境に全く依存せずに、世界一の食品会社となっている。日本企業も そうならなくてはいけません。以前のように、同じ業界の企業がみな同じことをやって、利益を分け合って生きていける時代ではない。業界1位の企業は今まで と同じやり方でもいいかもしれませんが、2位以下は早晩立ち行かなくなるでしょう。自社が活躍・成長できるビジネスの場を自ら考え、「勝ちパターン」をつ くっていくことが大事なのです。グローバル市場に目を向けるばかりでなく、国内にだってまだチャンスはあるはずです。

規模が小さい企業が大きな企業に立ち向かう「弱者の戦い方」とは?

では、企業の「勝ちパターン」とは何でしょうか。私が興味を持って分析しているのは、規模が小さい企業が大きな企業に立ち向かう際の「弱者の戦い方」で す。相撲でも、大柄で力が強い力士と小兵の力士とでは戦い方が違います。小兵が正面から横綱相撲を挑んでも、大柄な力士には確実に負けてしまう。だから、 経営資源や業界のポジションに応じた戦い方をしなくてはいけません。

では「勝ちパターン」と言える競争戦略を持つ日本企業には、どんなところがあるのでしょうか。いくつか具体例を挙げてみましょう。

たとえば、ハンバーガーチェーンのモスバーガー(モスフードサービス)。同社は、業界最大手のマクドナルド(日本マクドナルド)と一線を画した競争戦略を とっています。マクドナルドの戦略は、お客が多い一等地に出店し、店舗では予めハンバーガーをつくり置きしておき、それをお客に売るついでに飲み物やポテ トも勧めて販売額を上げるという、大量供給モデルです。

店舗数もスタッフ数も少ないモスバーガーは、これと同じモデルでは太刀打ちできま せん。そこで彼らは、人通りが少ない二等地を狙って出店し、「お客から注文を受けてからつくる」という販売法を考えました。こうすればマックと商圏がかぶ らないことに加え、スタッフが少なくても店が回るからです。

この戦略は、「モスのハンバーガーのほうがマックより手間がかかっているから おいしい」というイメージを、消費者に持ってもらうことに成功しました。さらに、使用する肉や野菜の産地を明らかにするなど、安心安全を強調しています。 結果、「モスファン」と言われる固定客を掴むことに成功し、マクドナルドの影響を受けにくいビジネスモデルをつくり上げました。

それに対 してロッテリアは、マクドナルドと同じ戦略をとっているため、マクドナルドが店舗を拡大したり、低価格戦略をとったりすると、苦しい戦いを強いられる可能 性が高い。業界で2位以下の企業は、自分の持っている力やポジションに応じた戦い方をすることが大事なのです。

実はユニクロと全く違う?しまむらの周到な立地・顧客戦略

アパレル業界に目を移しましょう。ファッションセンターしまむら(しまむら)は、ファストファッションのプレーヤーの中で圧倒的に強いユニクロ(ファース トリテイリング)と競争をせずに済むビジネスモデルを、周到につくり上げています。両社のビジネスモデルは同じように見えますが、実は全く違うのです。

まず、立地戦略です。ユニクロの店舗は人目につき易い都心に多いので、消費者の多くはユニクロの店舗の方がしまむらよりも多いと思い込んでいるでしょう。 しかし実際のところ、しまむらの店舗数はユニクロより1.5倍も多いのです。にもかかわらず、ユニクロより店舗が少ないように見えるのは、彼らがロードサ イド(郊外)に的を絞って出店しているからです。

通常アパレル企業は、青山や六本木など、ファッションに敏感な若者が多く集まる都心を 狙って出店しますが、そこはユニクロ、ビームズ、ユナイテッドアローズ、H&Mなど、競合他社の店舗がひしめき合う激戦区。自分たちが出店しても 勝てないということを、しまむらは知っているのです。

では、客層をどこに定めているのか。最もファッションにお金を使う消費者のセグメン トはOLや女子大生ですが、彼らは郊外ではなく、都心に集まります。そのためしまむらは、そうした客層を捨て、都心よりも郊外で買い物をする頻度が高い主 婦と女子中高生に顧客ターゲットを定め、彼女たちが「カワイイ」と共感する服を提供しています。

郊外は消費者の絶対数が少ないので、そこ で稼ぐために徹底したローコスト・オペレーションも実施しています。店内で売っている服の多くは1000円以内と格安。古着屋で売られているものと変わら ない価格の服でも、主力顧客である主婦や女子中高生にとっては、十分魅力的に映るのです。

さらに、店舗戦略にも長けている。しまむらは店 員にも主婦のパート・アルバイトを活用しています。そもそも郊外には女子大生がいないから、若い女性のバイトを雇えないという事情もあります。主婦の働き 易い時間帯に合わせて、店舗の開店時間は原則朝10時~夜7時に設定。開店15分前に来れば仕事の準備が済み、閉店15分前には帰り支度を始めて速やかに 帰宅できるよう、主婦が時間帯を読み易い業務オペレーションを導入しています。

激戦区を避け、一番おいしい顧客セグメントも捨てている。その代わり、主婦や女子中高生を相手に商品を売り、店員としても主婦を活用している。こうしたビジネスモデルだからこそユニクロとぶつからずに、独自の商圏を確立できたわけです。

コーヒーショップ業界ではタリーズコーヒーが喫煙スペースを設けています。これは明らかに禁煙をウリにしているスターバックス(スターバックスコーヒー ジャパン)を意識したものでしょう。もともと喫煙OKを謳ってお客を集めていたドトールコーヒーを、禁煙をウリにしたスタバが追い上げ、勢力を拡大したと いう業界の動向から、今後も同社が喫煙モデルでやっていけるかと言えば微妙かもしれません。とはいえ、スタバと同じ戦い方をすれば負けるのは目に見えてい るし、スタバは今さら喫煙スペースを設けることなどできないであろうことから、足もとでは有効な差別化戦略になっていると思います。

郊外立地で長居OK、スペシャルコーヒーではなく食事で勝負、というコメダ珈琲店(コメダ)の戦略も、都心立地で家賃が高いスタバを意識した、彼らがマネをできないものとなっています。

全国で唯一大手にトップを譲らないセイコーマートの「地元密着戦略」

コンビニ業界で注目したいのは、北海道のセイコーマート。全国のコンビニ勢力図を見ると、全ての都道府県でセブン-イレブン(セブン-イレブン・ジャパ ン)、ローソン、ファミリーマート、サークルKサンクスなどの大手がシェアトップとなっていますが、北海道のみ地場のコンビニがトップとなっている。それ がセイコーマートなのです。なぜかというと、業界最大手のセブンができない戦い方をしているからです。

セブンのビジネスモデルは、商品の 製造を外部の業者に委託し、店舗に持って来させ、自身は「持たざる経営」を行なうというもの。それとは逆に、セイコーマートは「持つ経営」を実践していま す。自社農場でつくった農産物や自社工場でつくった食品を、自社の物流網で各店舗に搬送しています。そのため、普通のコンビニでは手に入らない商品を売る ことができる、土地が広くて人が分散している不利な地理的条件のなかでも、小回りの利く物流網で商品を届けられる、という強みを持っています。

彼らには、セブンと真正面から戦う気はありません。しょせんセブンと同じような規模の戦いをやっても、高い坪効率を得られるはずがないのだから。それより も、町や村に一軒しかない万屋(よろづや)を目指して、地元民の信頼をしっかり掴むことに尽力しています。これは、外から来た大手にはマネができない地域 密着型のビジネスモデル。だから大手コンビニは、北海道でのみトップシェアをとることができないのです。これも、王者のアキレス腱を突き、相手が出てこな いようにするうまい戦い方です。

このように、ニッチを狙う戦い方をすると、時として大手が得られない強い固定ファンを掴むことができま す。自動車業界では、富士重工業などがよい例でしょう。彼らはトヨタ自動車に対抗しようとは思っていません。悪路を走れる四輪駆動車に注力し、看板車種で ある「スバル」は米国市場で大人気を博しています。

さらに、米国内でも販売に力を入れている地域は、雪が降って道が凍結し易く四輪駆動車のニーズが多い北部であり、温暖な南部の市場をかつては捨てていました。ちなみに現在では、安全を売り物にしているために、南部でも売れているそうです。

こうしたニッチ戦略をとるスバルには、「スバリスト」と呼ばれる強力な固定ファンがたくさんいます。彼らはスバルがモデルチェンジされる度に、他の車には 目もくれずにスバルを買い替えるという、上得意客です。もっと言えば、スバルのようにコアなファンを持つ車は、むしろ広く一般に売れ始めると勢いを失う可 能性が高い。にわかファンは思い入れが薄いぶん、景気が悪くなると買うのをやめてしまうからです。まさにニッチ戦略こその強みと言えます。

経営者の哲学が強い競争戦略をつくるあなたの会社は市場で勝ち残れるか?

いかがでしょうか。業界で二番手、三番手の企業は、「いつかはトップを取りたい」と業界トップの経営を模倣してしまいがちですが、それは業界が成長局面に あるときはいいとしても、成熟や衰退の局面では通用しません。ある意味ニッチな市場を狙うことが、弱い者が強い者に伍すための賢い競争戦略と言えます。

ただし、乾坤一滴で真正面から業界のガリバーに勝負をかけるか、それとも身の丈に合った地道な戦略をとるかは、どちらがよいとも悪いとも言えません。ま た、投資家、取引先、顧客から見て、どちらの戦略をとる企業がより価値が高いのかということも、一概には言えません。競争戦略の策定は、経営者の哲学と深 く関わってきます。経営者の哲学がしっかりしている企業には、独自の「勝ちパターン」を持っているところが多いと思います。

あなたの会社は自社ならではの「勝ちパターン」を持っているでしょうか。次回以降、強い競争戦略の中身を、さらに詳しく分析して行きましょう。

タイトルとURLをコピーしました