「ホテル確保のメドが立っていません」
12月某日、韓国から成田空港に帰国した筆者が、どういう運命をたどったのか。前編『日本に帰国したら成田空港で壮絶いじめ 「古いスマホなら1万5000円払って」』に引き続き、コロナ禍での帰国者を待ち受けている実態を明かそう。
飛行機到着から2時間が過ぎた午後3時半から、ロビーのイスで検査結果を待つようスタッフから指示される。やることもないのでネットニュースを検索すると、おそるべき一報が目に飛びこんできた。
「成田空港で入国した韓国人を340キロ離れたホテルに隔離」(中央日報日本語版)
インチョン空港から成田空港に入った韓国人が「空港周辺の隔離施設が足りない」という理由により、なんと中部国際空港(愛知県常滑市)周辺のホテルに飛ばされたというのだ。「オミクロン株」の脅威に対応するために水際対策を打っているのに、成田に到着した客を別の飛行機に乗せ、遠隔地に運ぶとは狂気の沙汰だ。
ロビーで待機するニューカマーの韓国人(永住権を取得している様子だった)が、ネットニュースを検索しながら韓国語でザワザワし始めた。
「名古屋に飛ばされた韓国人がいるらしい」
「福岡や仙台まで飛んで隔離されるケースもあるみたいだよ」
「さっき係の人に質問してきた。埼玉のホテルに行くのか、東京のホテルなのか、千葉のホテルなのか、まだ決まってないんだって」
話し声が耳に入ってきたので「どうせなら沖縄のリゾートホテルがいいですよね」と声をかける。冗談でも言って皆で笑わなければやっていられない。
スマホを見ながらひたすら待ち続ける入国者たち
午後3時半の段階で、「Quarantine」(検疫)とプリントされた作業服を着た職員が待合ロビーにやってきてこう言う。
「ホテルへの移動は、現段階では午後6時過ぎになることが予想されます。ただしもっと遅くなる可能性もあります。ご迷惑をおかけして申し訳ありませんが、しばらくお待ちください」
そう知らされたものの、待機時間はズルズル延びていく。午後7時ころ、苛立った客3名が「どうなっているのだ」と職員に詰め寄る。すると検疫官は困惑した様子でこう言うのだ。
「大変申し訳ありませんが、現段階でホテル確保のメドが立っていません」
配られた軽食はカロリーメイトとソイジョイだけ
たまたま筆者の近くには、赤ちゃんを抱えた家族連れが2組いた。PCR検査を終えて待合所にたどり着くまでに、すでに2時間以上を要している。おなかが空き、おっぱいがほしい赤ちゃんが泣きながらむずがっている。あわてたお母さんが「近くに授乳室はありますか」と尋ねるも、フロアの係員は授乳室が存在することを把握していなかった(実際は10mほど近くに存在した)。
赤ちゃんや保育園児を抱えたファミリーは、最優先でホテルへ案内するべきであろう。悪平等主義に基づき、子ども連れの家族は一律で何時間も待たされていた。
小さい子ども用の遊び場を備えるでもなく、お菓子やジュース、おもちゃを準備するでもなく、子育てケアの相談員を配置するわけでもない。こんな冷ややかな対応を受けたニューカマーの家族連れは、日本が嫌いになってしまうに違いない。
午後7時、8時になっても、結局サンドイッチやおにぎりなどの軽食はまったく配られなかった。「ホテルに弁当を準備しているから、それまでもう少し我慢してくれ」といった説明も一言もない。飛行機を降り、成田空港を出てホテルに到着するまでに9時間を要したと先ほど申し上げた。この間、我々に配られたのは「ペットボトルの水1本」「カロリーメイト」「SOYJOY(ソイジョイ)」だけであった。
成田空港で配られたカロリーメイトとソイジョイ、水
行き先が最後までわからない「イカゲーム」
成田空港から中部国際空港に飛ばされ、愛知県内のホテルで隔離生活を送るのか。仙台や福岡に飛ばされるのか。税務大学校(埼玉県和光市)の寮や、警察大学校(東京都府中市)の寮にバスで連れて行かれたという書きこみもSNSにはある。東京・両国のホテルに連れて行かれた者もいれば、成田空港から横浜のホテルへ移動した者もいる。
「イカゲームに参加してるみたいだね。どんな罰ゲームだ。オレたち出国から再入国まで5回もPCR検査してるのに、まるで犯罪者扱いじゃないか」
「どこに連れて行かれるのか、当たりかハズレかわからないなんて、まるでロシアンルーレットだよ」
「所ジョージのダーツの旅みたいだね」
悪態をつきながらひたすら待ち続ける。降機から7時間が過ぎた午後8時半、とうとう事態は動いた。我々の行き先が決まったというのだ。ところがこの期に及んで、どこのホテルに連れて行かれるのか一言もアナウンスがない。しかも大荷物をもって到着所まで出てきてみれば、「ホテル行きのバスが到着するのは30分後です」と言う。このうえさらに待たせるのか。日本の検疫オペレーションは完全に破綻している。
ホテル行きのバスが到着せず、疲れ切る入国者
午後9時過ぎ、ようやく隔離先へ向かうバスに乗りこむ。このバスの中で初めて、筆者の行き先が成田空港最寄りの「ホテル東横INN成田空港」であることを知った。
ホテルチェックイン時にも多くの説明を受けてさらに時間を要し、隔離部屋にやっとたどり着いたのは午後10時過ぎだ。夜食にありつけたのは、飛行機を降りてから丸9時間後であった。(「帰国者隔離イカゲーム~ホテル篇」につづく)
隔離初日の夕飯。インスタント味噌汁がついていたのが救いだった