きょう「火山防災の日」 火山と生きる東北 活動の変化を24時間監視

 東北6県には18の活火山がある。火山活動が作り出した美しい風景や豊かな温泉群、地熱発電など多くの恵みを与えてくれる一方、時として大きな災害を引き起こしてしまう。26日は初の「火山防災の日」。暮らしのすぐそばに火山が存在することに改めて思いをはせ、恩恵に感謝しつつ、被害を避けるすべを考えたい。(編集部・田柳暁、藤沢和久、文化部・石沢成美)

 東北6県で常時観測火山に指定されている12火山の動静は、仙台管区気象台(仙台市宮城野区)で24時間監視している。「噴火の前兆をつかみ、被害を軽減したい」。わずかな変化を見逃すまいと、職員たちは火山の「体温計」や「心電図」をにらんでいる。

[常時観測火山]気象庁が観測設備を設置し、研究機関や自治体と連携して24時間体制で活動を監視している活火山。向こう100年以内に噴火の可能性があるか、噴火した際の影響が大きい山を、学識経験者らで構成する火山噴火予知連絡会が指定している。観測データやカメラ画像はホームページに公開している。

 気象台の地域火山監視・警報センター。日中4人、夜は2人が交代で詰める。3台の大型モニターには火口付近などに設置されている高感度カメラや地表温度を測定する赤外線カメラの映像、揺れを感知する地震計や傾斜計の波形が映し出されている。

 センターは2002年、各気象台の火山監視機能を集約し、気象庁本庁と札幌、仙台、福岡の計4カ所に設置された。仙台では日々の監視に加え、地中の温度や噴気の状況を調べるため山に登る機動観測を年に約20回実施している。

 技術専門官の丹原裕さん(35)は「機動観測で現地を見ることで、より実感が持てる。山小屋やビジターセンターと連絡を取り合い、万が一に備えている」と説明する。

 モニターで異常を見つけたり、アラームが鳴ったりした場合は手元のパソコンで精査する。体に感じない小規模な火山性地震、微動を観測するため、地震計の感度は高い。近くを車が通ったり雷が落ちたりした際のノイズと地震を見分けるのは人の目が頼りだ。

 火山活動が活発になる兆候があれば、噴火警報や予報、解説情報、降灰予報を発表する。直近だと岩手山で山体膨張を示す地殻変動が観測され、8月21日に臨時の解説情報を出した。

 臨時の解説情報は、今後の推移次第で噴火警戒レベルを引き上げる可能性がある場合などに発表される。火山防災官の尾山哲夫さん(59)は「警戒レベルが上がれば入山規制などが必要になる。臨時の段階でも心構えを整えていてほしい」と話す。

小規模でも爆発的な噴火に

 火山活動の観測やデータ分析を担う東北大地震・噴火予知研究観測センターの山本希准教授(火山地震学)に、東北の火山の状況や防災上の注意点を聞いた。

 -東北は近年、大きな噴火を経験していない。

 「この100年は日本全体で噴火が少ない。ただ近代で国内最大の犠牲者が出た磐梯山(福島県)の噴火は136年前、宮城、山形両県にまたがる蔵王山の火口湖『お釜』ができた噴火は約800年前と、火山にとっては『ついこの前』。必ずしも静穏な状態とはいえない」

 -東日本大震災後には、火山活動の活発化が懸念されていた。

 「プレートが大きく動くと、地下のマグマだまり周辺の軟らかい岩盤が影響を受けやすい。実際、震災後は東北から近畿の約20の火山で火山性地震が増え、特に蔵王山では年間で震災前の最大約5倍となった」

 「元々マグマだまりの活動がそれほど活発でなかったためか、噴火には至っていない。地震に伴う地殻変動は今も続いているが、13年がたち、火山活動への直接的な影響は緩和されてきていると考えられる」

 -東北の火山の特徴は。

 「温泉の豊富さが示すように、高温の地下水系が発達している火山が多い。上昇してきたマグマや火山ガスの熱で水が水蒸気になり急に膨張すると、小規模でも爆発的な噴火となる。過去には山体崩壊や泥流があったほか、福島、山形両県にまたがる吾妻山では酸性の地下水で農作物に被害が出たこともある」

 -噴火災害を防ぐためにできることは。

 「火山周辺は温泉や美しい風景があり、観光地としても人気だ。だが人間には太刀打ちできない、はるかに大きなエネルギーを持つものだと認識してほしい。静穏に見えても、温泉や登山道の近くで火山ガスの犠牲者も出ている」

 「山に入る時は、まず気象庁の火山情報の確認を。ガスの危険がある立ち入り規制区域を把握することも重要だ。自治体のハザードマップやジオパークの発信も参考にして、火山現象を正しく知った上で山の恵みを楽しんでほしい」

東北の18火山

(1)おそれざん
878メートル(釜臥山)
【青森】むつ市
不明

(2)いわきさん
1625メートル
【青森】弘前市、鰺ケ沢町、西目屋村、藤崎町、板柳町、鶴田町
1863年

(3)はっこうださん
1585メートル(大岳)
【青森】青森市、十和田市
15~17世紀

(4)とわだ
1011メートル(御鼻部山)
【青森】青森市、弘前市、八戸市、黒石市、五所川原市、十和田市、つがる市、平川市、藤崎町、大鰐町、田舎館村、板柳町、鶴田町、中泊町、七戸町、六戸町、おいらせ町、三戸町、五戸町、田子町、南部町、新郷村【岩手】二戸市、八幡平市【秋田】能代市、大館市、鹿角市、北秋田市、小坂町、藤里町
915年

(5)あきたやけやま
1366メートル
【秋田】鹿角市、仙北市
1997年

(6)はちまんたい
1613メートル
【岩手】八幡平市【秋田】鹿角市、仙北市
約7300年前

(7)いわてさん
2038メートル
【岩手】盛岡市、八幡平市、滝沢市、雫石町
1919年

(8)あきたこまがたけ
1637メートル(男女岳)
【岩手】雫石町【秋田】仙北市
1971年

(9)ちょうかいさん
2236メートル(新山)
【秋田】由利本荘市、にかほ市【山形】酒田市、遊佐町
1974年

(10)くりこまやま
1626メートル
【岩手】一関市【宮城】栗原市【秋田】横手市、湯沢市、羽後町、東成瀬村
1944年

(11)なるこ
470メートル(尾ケ岳)
【宮城】栗原市、大崎市、加美町
837年

(12)ひじおり
552メートル(三角山)
【山形】大蔵村、戸沢村、庄内町
不明

(13)ざおうざん(ざおうさん)
1841メートル(熊野岳)
【宮城】蔵王町、七ケ宿町、川崎町【山形】山形市、上山市
1940年

(14)あづまやま
1949メートル(一切経山)
【山形】米沢市【福島】福島市、猪苗代町
1977年

(15)あだたらやま
1728メートル(箕輪山)
【福島】福島市、郡山市、二本松市、本宮市、大玉村、猪苗代町
1900年

(16)ばんだいさん
1816メートル
【福島】会津若松市、喜多方市、北塩原村、磐梯町、猪苗代町、会津坂下町、湯川村
1888年

(17)ぬまざわ
835メートル(前山)
【福島】三島町、金山町
約5000年前

(18)ひうちがたけ
2356メートル(柴安嵓)
【福島】檜枝岐村
1544年

〔注〕標高、関係市町村、最後に噴火した時期の順。常時観測火山の関係市町村は内閣府の火山災害警戒地域、それ以外は各県の地域防災計画に基づいた。

東北の火山年表

1801年8月   鳥海山   激しい噴火で多量の噴石があり、登山者8人死亡
 04年7月   鳥海山   西側の山麓を震源とする「象潟地震」が発生。300人以上の犠牲者が出た。象潟が隆起し、水田の中に島々が点在する景観が生まれた
 67年10月   蔵王山   お釜が沸騰して水があふれ、洪水で3人死亡
 88年7月   磐梯山   大規模爆発が連続し、小磐梯山が崩壊した。岩屑(がんせつ)なだれが山裾の五つの村をのみ込み、死者477人。檜原湖ができた
 93年6月   吾妻山   噴火を受けて火口付近を調査していた2人が死亡
 95年2月   蔵王山   御釜が沸騰し、火山泥流が発生。白石川で洪水が起きた
1900年7月   安達太良山 熱を帯びた灰や石が噴き出した。火口の硫黄採掘所が全壊するなどした。死者72人、負傷者10人
 38年5月   磐梯山   約3キロにわたって山体崩壊が起きた。死者2人、負傷者5人、流失・半壊家屋4棟
 44年11月   栗駒山   北西斜面で噴火。くぼ地ができ、昭和湖となった
 50年2月   吾妻山   一切経山の大穴火口付近で噴火。山麓の土湯温泉近くまで灰が降った。火口付近から流れ出た酸性水のため下流で魚が死に、発電施設に被害が出た
 51年2月ごろ 秋田焼山  空沼(涸沼)火口で水蒸気噴火。泥が飛び散った
 52年5、6月  吾妻山   噴煙がやや多く、6月には噴気孔付近に小石が飛んでいた
 57年※月不明 秋田焼山  水蒸気噴火。泥流が起きた
 70年9月   秋田駒ケ岳 女岳噴火。71年1月にかけて頻繁に爆発し、溶岩が流れ出た
 74年2~5月 鳥海山   新山付近で噴火。泥流もあった。4月には北約30キロまで灰が降った
 77年12月   吾妻山   小規模噴火。79年まで噴気が盛んな状態が続いた
 97年5月   秋田焼山  澄川温泉で地滑りに伴う水蒸気噴火が発生。土石流により澄川、赤川温泉の旅館宿泊棟16棟が全壊となった。宿泊客と従業員は事前避難して無事
   7月   八甲田山  くぼ地に滞留していた二酸化炭素で、訓練中の自衛隊員3人が死亡
   8月   秋田焼山  空沼で水蒸気噴火。泥流が起きた
   9月   安達太良山 沼ノ平火口跡付近で火山ガスを吸った登山客4人が死亡
   12月   岩手山   2004年ごろにかけて地震が増えた
 98年     安達太良山 2003年ごろにかけて地熱、噴気活動が活発になった。99年4月には沼ノ平中央部で泥水が噴出。沼ノ平では一時的に高さ300メートルの噴気を観測した
2000年4月~  磐梯山   山頂付近の地震活動が活発化し、5月には観測史上初の火山性微動があった
 10年6月   八甲田山  酸ケ湯温泉付近で、山菜採りの女子中学生が火山性のガスを吸って死亡、3人が搬送された
 11年3月         東日本大震災以降、八甲田山、秋田焼山、岩手山、秋田駒ケ岳などで地震活動が活発になった
 14年10月   吾妻山   16年4月ごろにかけて火山性地震が増加、火山性微動と地殻変動を観測した
 14年8月   蔵王山   15年5月ごろまで断続的に長周期地震が発生。御釜の東側湖面の一部が白く濁った
 18年1、2月  蔵王山   長周期地震が発生した。山頂の南方向の隆起も観測された
 18年5月   吾妻山   19年5月にかけ、地震や火山性微動が増えた。一切経山の大穴火口周辺で地熱温度の上昇や泥状硫黄の流出がみられた
 21年8、9月  吾妻山   一切経山の大穴火口に直径10メートル、深さ約5メートルの陥没孔が形成された
 24年8月   岩手山   1998年と同規模の地殻変動が観測され、解説情報(臨時)で噴火警戒レベル引き上げの可能性に言及
〔注〕1800年以降の主な災害を抜き出した。1950年以降は小規模な噴火も載せた。時期や犠牲者数は気象庁ホームページや河北新報の記事に基づく

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