11月19日は男性の健康を考え、ジェンダー平等について考える「国際男性デー」。男女ともに仕事と育児を両立できるようにする観点から、男性の育児休業の取得を促す雰囲気が浸透しつつあるが、職種や会社の規模により格差も出てきた。「取得率が高いのはなぜ?」「どう環境を整えていますか」。東北6県の現状を探った。(せんだい情報部・小木曽崇、菊池春子、桜田賢一)
[育児休業]育児・介護休業法に基づき、働く人が子どもを養育するために仕事を休む制度。期間は原則、子どもが1歳になるまで。男性の取得推進を目指した法改正で、2022年4月以降、子どもが生まれる労働者への制度の周知と意向確認が事業主の義務となった。政府は男性の育休取得率の目標を「25年に50%、30年に80%」としている。
総務省の「地方公共団体の勤務条件等に関する調査結果」によると、2022年度の東北各県の男性職員の育児休業取得率はグラフの通り。県全体の取得率は秋田、岩手、山形、福島が全国で1~4位、青森は8位、宮城は37位だった。
各県とも一般行政部門の取得率と比べ、教育委員会が一桁か10%台と低く、全体の数字を押し下げる。警察は宮城県を除き、全国と比べ健闘する。
岩手県警は全国トップ「ファースト・ペンギンになって」と周知
取得率が高い県や部門は、さまざまな施策で取得を後押しする。
全国トップの秋田県は21年度から、子どもが誕生する見込みの職員とその所属長に対し、人事課長がメールを送信し、育休取得を勧奨。取得日数などを入力すると予想収入減少額を自動計算するシミュレーションシートも、20年度からオンラインで提供する。
県人事課は「職員が育休を取る場合、可能な限り代替職員を配置している。さまざまな情報を伝え、育休取得への安心材料につなげている」と説明する。
岩手県警は警察部門で全国トップの107・6%。取得が広がったきっかけは22年12月、当時の県警本部長が、若手男性職員が参加する「次世代パパ支援セミナー」で「育児制度五箇条」を発表したことだ。
「キャリアに不利になると考える男性職員もいるが、全く逆である」「全ての家事・育児を引き受けるつもりで臨むこと」「周りに迷惑だと思わず(集団の中で先例を示す)ファースト・ペンギンの一人となってもらいたい」…。直後に発行した機関誌でも周知した。
県警はこの本部長の離任後も、対象職員にトップからのお祝いカード、育休制度や収入モデルケースなどを掲載する「パパ手帳」を配布し高い取得率を保つ。
都道府県教委はどこも取得率が低く、中でも青森県教委は4・8%と全国で2番目に低い。県庁舎などで働く事務局職員でも14・3%で、現場は小中学校2・9%、県立学校6・1%とさらに低迷する。
業務に支障を来す懸念やフォロー体制の不十分さなどの影響がありそうだが、県教委職員福利課は「取得が進まない個別事情を把握していない」との認識にとどまる。
人材確保に影響
ある県警の担当者は「『昔は育休なんてなかった』というような、一部中高年職員の否定的な姿勢が施策推進を停滞させている」と指摘する。
市町村が設置する消防も24時間体制で救急や火災の対応を担い、男性の育休を歓迎しないムードが一部で根強い。「俺の時代には育休を取る人なんていなかった」。東北のある消防職員は上司のこんな言葉を聞き、申請を諦めざるを得なかったという。
男性の育休取得率は、働きやすい職場の一つの指標ともされ、取り組みの遅れは優秀な人材の確保にも影響しかねない。
東北の県警で最下位の10・8%にとどまる宮城県警は「福利厚生は採用に直結する。幹部職員を含めて全体の意識を変えたい」(警務課)と環境整備を急ぐ。
対象職員に育児計画書の提出を義務付け、今年7月から、育休取得者がいる警察署の当直に、本部の職員を派遣する「当直支援制度」を試行。担当者は「育休を取ると当直ローテーションに穴が開く。署への支援とセットでなければ取得率は上がらない」と話す。
男性の育休、中小企業も課題
男女を問わず仕事と育児の両立を図るために男性の育児休業取得への理解が浸透する中、人手が限られる民間の中小企業の取得率が伸び悩む。仙台市の外郭団体「仙台こども財団」は本年度、応募のあった市内の中小4社で男性の育休取得促進のモデル事業を実施。参加企業は社会保険労務士の派遣などを受け、育休期間のカバー体制の構築や、同僚に手当を支払うといった環境整備を進める。
仙台で取得促進のモデル事業
宮城県内では、事業所規模が小さいほど男性の育休取得率は低い。4社の社員への事前アンケートでは、男性の育休について「取得したい(取得してほしい)」との回答が8割超に上る例があった一方、「人手不足で厳しい」と課題を挙げる声が多かった。
31人が働く建設業リバーランズエンジニアリング(太白区)の細谷正彦社長(61)は「人材確保のためにも、若い社員が安心して働ける環境が必要だ」と参加理由を説明する。
30代の男性社員が3月の1カ月間、同社で初の育休を取得した際、担当する建設現場などをカバーする人員のやりくりに課題があることを把握。派遣された社労士のアドバイスを受け、業務効率化による代替者の負担軽減などを計画する。
自身も近く育休を取得予定の取締役川瀬貴弘さん(34)は「デジタルトランスフォーメーション(DX)と連動させ、現場の業務をバックオフィスで分担できるようにしたい」と言う。
32人が働く青葉区の関・空間設計は社労士のサポートを受け、上司の確認事項などのマニュアル作成を進める。業務をカバーした同僚らへの手当も導入する方針。総務課主任の阿部光さん(36)は「会社全体で育休取得者を応援したいと思える環境をつくりたい。中小企業だからこそカバーの状況が見えやすく、対応しやすい面がある」と話す。
育休は、それぞれが抱える業務の事情に応じて取得方法などを工夫する。
設計監理部リーダー三浦高史さん(44)は昨年、育休を分割して取得し、出社、在宅勤務と組み合わせた。担当プロジェクトの現場での打ち合わせなどに対応するためで「切り替えが難しい部分はあったが、少しでも家族をサポートできたことは大きい」と語る。
同社を担当する社労士伊藤弘樹さん(38)は「仕事と育児の両立支援は社員の定着や事業継続の面での利点が多い」と強調。「中小企業では、現場に応じたカスタマイズも重要」と柔軟な取り組みを促す。