海外からも評価される軽自動車だが…なぜほぼ正式販売されないのか?
日本独自の軽自動車規格は、1949年に制定されていから2023年で74年目を迎えます。 近年では、海外の自動車業界関係者からも注目を集めているといいますが、なぜ軽自動車は海外へと進出しないのでしょうか。
全国軽自動車協会連合会の調べによると、2022年3月時点ではおよそ3130万台の軽自動車が日本に存在しているといい、これは全自動車保有台数のうちの約40%に相当します。 1950年代に経済産業省が提唱した「国民車構想」のなかで形成されていった軽自動車は、ボディサイズやエンジンの排気量を一定の規格内にあるものに対して税制優遇を与えることで、日本のモータリゼーションを進めることを狙いとしてきました。 その結果、コンパクトかつ安価であることが魅力の軽自動車は、人々の生活を支えるうえで欠かすことのできない存在となっています。 一方、近年の軽自動車は、必ずしも普通乗用車の「下位互換」というわけではありません。 技術の進歩により、軽自動車の多くは小排気量でも必要な十分のパワーをもつようになりました。 さらに、室内空間の広さや機能装備は普通乗用車と同等以上のものが増えたことにくわえて、税制優遇により維持費が低く抑えられることから、2010年代以降は軽自動車の販売台数が増加しています。 そうしたトレンドをつくったのはホンダ「N-BOX」です。2011年に登場したN-BOXは発売直後から圧倒的な販売台数を誇り、軽自動車の新車販売台数においては2015年から8年連続で1位を獲得し、2022年には乗用車を含めた新車販売台数でも1位に輝いています。 名実ともに「日本で1番売れているクルマ」である軽自動車は、海外の自動車業界関係者からも注目を集めているといいます。 ある海外の自動車メーカーのデザイナーは、軽自動車の偉大さについて次のように語っています。 「軽自動車はさまざまな制約があるにもかかわらず、デザイン上の工夫によって競合モデルとの違いを生み出しているのがものすごいことだと感じます。 また、限られた空間のなかで、多くの収納スペースを確保できている点にも驚きます」 もちろん、海外にもコンパクトな実用車は多く存在していますが、そのなかでも軽自動車は世界最高クラスの実用性を持つクルマとして、自動車業界関係者からは評価されているようです。
しかし、実際にはごく一部のマニアが軽トラックや軽スポーツカーなどを並行輸入する程度で、軽自動車が日本以外の市場で正規販売された事例はほとんどありません。 たとえば、軽自動車のスズキ「ジムニー」には、兄弟車として排気量やボディサイズを拡大した普通乗用車規格の「ジムニーシエラ」も設定されています。 しかし、海外ではジムニーシエラが「ジムニー」として販売されているのみで、軽自動車規格のジムニーは日本国内専用車となっています。
軽自動車が海外展開されない理由は「そもそも想定していない」?
2022年9月にインドネシア・ジャカルタではホンダがN-BOXを同市場で初めて展示されました。 関係者によれば「あくまでも参考展示です。軽自動車はアジアから一定の需要がありますが、正規販売はしていません」と言います。 軽自動車が海外で販売されない最大の理由は、そもそも軽自動車は日本独自の規格であるため、企画段階から海外での販売を想定していないことにあるようです。 ある自動車業界関係者はその理由を次のように説明します。 「新車を販売するためには、その国や地域におけるさまざまな認証試験に合格する必要があります。 衝突安全基準はその代表例ですが、軽自動車のほとんどは、現状のままでは海外の衝突安全基準を満たすことができません。 これは軽自動車の安全性が不十分というわけではなく、その国や地域の基準に合わせたチューニングを行なっていないという意味です。 チューニングをすれば問題なく基準を満たせるとは思いますが、そもそも日本以外の市場で販売することを想定していないため、そうしたコストを掛ける必要がないというのが実際のところです」
では、必要なチューニングを行ったうえで、軽自動車を海外で販売することはないのでしょうか。別の自動車業界関係者は次のように話します。 「かつて、スズキはタイへ『アルト』を輸出していましたが、『安かろう悪かろう』のイメージが強かったために販売台数が伸びず、ほどなくして撤退しています。 機能や装備を見直し、よりパワフルなエンジンを搭載すれば人気が出たのかもしれませんが、それはもはや軽自動車ではありません。 クルマに求められるものは、各市場でまったくといっていいほど異なります。 そう考えると、日本のユーザーに向けてつくられた軽自動車を海外でも展開するというのは、現実的な話ではないのだと思います」
一方、スズキはパキスタンにおいて、2019年6月15日より日本の軽自動車規格となる「アルト」の現地生産・販売を行なっています。 スズキの広報は次のように説明していました。 「外観はパキスタンの道路事情を考慮して最低地上高を高くしている以外は、日本仕様から大きな変更はありません。 細かな部分では、フロントグリルの空気導入口が拡大・追加され、パキスタンの気候に合わせてラジエーターの冷却性能を向上させています。 さらに、日本仕様では樹脂製のフロントフェンダーと燃料タンクが装着されていますが、現地で部品を調達する関係上によりスチール製に変更されています」 また導入背景について、当時の発表では次のように説明されています。 「スズキは、経済性と信頼性が高く、高性能な軽自動車を、日本のみならずグローバルに展開することで、同社が強みとするコンパクトカーの更なる普及を図っていきます」 日本の自動車メーカーが新車販売のほとんどを占めているパキスタンでは、日本車への信頼が厚いことにくわえて関税優遇もあることから、これまでも一定数の軽自動車が日本から輸入されていました。 こうした事例は決して多くはありませんが、パキスタンのように、ユーザーのニーズや政策が追い風になる市場であれば、軽自動車の海外展開もありうるかもしれません。