なぜ国連からまったく異なる「福島」評価が発表されるのか? 広報が語った背景

福島を巡って、国連内の組織で異なるリスク評価が出ている。いま、ネット上で話題になった国連人権理事会の特別報告者による報告は「福島への子供の帰還について見直し」を求めるもの。

つまり、原発事故後の福島での被曝リスクは高いと言っている。

一方、2014年に「原子放射線の影響に関する国連科学委員会」は、福島での被ばくによるがんの増加は予想されないという報告を出している。被曝リスクは低いという評価だ。

 なぜここまで見解が異なるのか? 国連広報センターに聞いてみると意外な答えが返ってきた。

国連の見解?

福島高校では多くの生徒が勉学に励む(筆者撮影)

国連広報センターのプレス担当者は質問に対し、前提から知ってほしいと強調する。

 《まず大前提として、国連は~~という言葉ほどあいまいなものはないということとお伝えしたいと思います。

押さえていただきたいのは、福島に限らず、国連内部ではある委員会がAと決議を出しても、別の組織がまったく異なる見解のBを決議するということは珍しくありません。

たびたび国連は~という主語で報じられたり、語られたりするのですが、そもそもどのレベルの話なのか。国連総会なのか、理事会や委員会なのか。全会一致なのか、何カ国が賛成しているのか。細かいところまでみないと正確には語れません。》

では、福島についての報道はどうか。「子供や女性は帰還しないで 国連の声明に政府は懸念」(テレビ朝日のウェブサイト)「子ども帰還見合わせ要請 国連報告者『年間1ミリシーベルト以下に』」(東京新聞ウェブ版)といった見出しで報じられた。

《まず「国連の声明」という報道や受け止めは正確ではありません。これは、そもそも特別報告者の報告であり、国連全体の意思決定でも、人権理事会の意思決定でもない。何か決議があったわけでもありません。

 事実として、国連や人権理事会の見解でもなく、あくまで特別報告者が調査し、取りまとめた見解が報告されたということになります。》

科学者が集まって検討した報告で語れていること

つまり、組織的な決定という意味合いではないということだ。それでは2014年に発表された「原子放射線の影響に関する国連科学委員会」(UNSCEAR)の報告はどうか。

《これはプレスリリースにある通りです。「世界中の80名以上の著名な科学者が、福島第一原子力発電所の事故に伴う放射線被ばくの影響を解析する作業に取り組んだ」もので、委員会として報告をまとめたものです。》

世界中の科学者が集まって発表された論文やデータ、「様々な集団(小児を含む)の被ばく線量の慎重な推定と放射線被ばくを受けた後の健康影響に関する科学的知見」について、妥当性を検証した報告書ということになる。

彼らはこう結論づけている。

「福島原発事故の結果として生じた放射線被ばくにより、今後がんや遺伝性疾患の発生率に識別できるような変化はなく、出生時異常の増加もないと予測している」

本当の問題は調査の質

同じ「国連」と名前がつく報告でも、このように調査の方法はかなり異なる。方法によって精度の評価が変わるのは当然のことだ。

特別報告者の多くの調査は「現地で行われる。当局と被害者の双方に会い、現場での証拠を集める。報告は公表され、それによって人権侵害が広く報じられ、かつ人権擁護に対する政府の責任が強調されることになる」(国連広報センター)という。

問題はこの特別報告者が「女性や子供の帰還を見合わせよ」という結論を出すにあたり、現場でどのよう証拠を集め、どのような当局と被害者と会ったのか、という点になる。

もう帰還をしたくないとか、政府の帰還政策に反対の立場があるのは事実だ。

福島に帰還したくないという人の中には「あきらめた」という人もいる。福島に帰還して生活したいという思いを持って避難生活を送っている人もいる。

「もう福島では暮らせない」と言われた中、福島で子供と一緒に暮らす生活を取り戻そうと努力を重ねてきた人たちがいる。リスクについての評価がわかれるなかで家族がバラバラに暮らすことになった人もいる。

 福島への無用な差別や偏見にさらされてきた人もいる。差別や偏見を払拭しようと努力を重ねてきた人もいる。こうした人たちが抱え続ける人権問題は調査の対象に含まれていたのだろうか。

「国連」の権威を利用する言説には立場を超えて注意を

いずれにしても「国連」という「権威」を利用とする議論は無意味だ。国連もまた多様な組織であり、国連だからという理由で完璧な調査結果がでるわけではない。繰り返しになるが、報告に基づく調査の質という観点こそ重要なのだ。

政治的な立場を超えて、「国連」という言葉に踊らされず、報告の価値をあらゆる調査と同じように中身で見極める必要があると言える。

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