なぜ東大合格者数上位校は「男子校」「女子校」が多いのか

■海外でも上位校には男女別学校が多い

2015年の高校別東大合格者数ランキングを見ると、トップ10のうち実に8校が男女別学校である。20位までを見ても7割が男女別学校だ。

し かし実は全国の高校に占める男女別学校の割合は非常に少ない。平成26年度文部科学省学校基本調査によれば、全国に高校は約5000ある。そのうち女子校 は320校で全体に占める割合としては6.4%、男子校は125校で2.5%。男女別学校出身者は絶滅危惧種といってもいいくらいなのだ。

それなのになぜ、東大合格者数ランキング上位校には、圧倒的に男女別学校が多いのか。考えられる理由は大きく分けて2つ。

1つは名門進学校には、戦前から続く伝統校が多く、それらが戦前から続く男女別学校の文化を継承しているから。もう1つは、男女別学という教育スタイルに一定の効果があるから。

戦前から続く伝統校といえば、たとえば開成、麻布、武蔵、灘、桜蔭などが挙げられる。これらの学校がランキングの上位に来ることは、男子校だから、女子校だからということよりも、開成だから、灘だからという理由のほうが大きいように感じられるだろう。

しかし、成績上位校に男女別学校が多いのは日本だけの傾向ではない。イギリスでも韓国でもオーストラリアでも、男女別学校の生徒のほうが共学校の生徒よりも総じて学力が高いことがわかっている。

イギリスの国立教育調査財団は2002年に行った調査結果から、「学力差などもともとの背景要素をなくしたとしても、明らかに共学よりも別学の学校のほうが男女ともに成績が良い」と発表している。

■運動会に表れる男子と女子の違い

一人ひとりを見た場合、性別でその人の性質を語ることはナンセンスである。しかし、集団となったとき、男女の違いはある。象徴的なのは運動会だ。

ほとんどの男子校は、学年を縦割りにした「組対抗」で争う。高3が中1を指導したりする。共学でもほとんどこの形式だろう。

し かし少なくない女子校で、運動会を「学年対抗」で行う。高3と中1がリレーで競ったりする。勝負は見えている。それでは面白くないのではないか。しかし女 子校の教員によれば、女子は、勝ち負けよりも、自分たちのチームワークを高めることに重きを置くから、学年対抗のほうが盛り上がるとのこと。ある女子校で は縦割りでの運動会を実施していた時期もあったが、「つまらない」と生徒から不評を買い、結局学年対抗に戻したという。

男子は「命令」によって縦型の組織を作るのが好きだが、女子は「共感」によって横型の組織を作るのが好きということだ。

集 団としてみたときの男女の違いが何に起因するのかははっきりしない。脳の構造が違うからという説が有力ではあるが、反論もある。いずれにしてもやはり男女 は違うようなのだ。このことからも、学校において、男女を分けて教育することには、一定の意義があると考えることができる。

そして、東大合格者数ランキング上位に来るような伝統校においては恐らく、長い歴史の中で自然に、男女それぞれに最適化された教育が行われるようになったのだろう。

男女別学校の教育の実態については拙著『男子校という選択』『女子校という選択』および『名門校とは何か?』をご覧いただきたい。

■男女別学校の「男らしさ」「女らしさ」

男女を分けて教育することで得られるものは、ペーパーテストで測定できる学力だけではない。

アメリカのバージニア大学は2003年、「男女別学は性別による固定概念を打ち崩しやすいが、共学はそれを強化する」と発表している。一見逆説的だが、よく考えてみれば理由は単純。

共学校においては、「男性は男性らしく、女性は女性らしくあれ」という、既存社会からの暗黙のメッセージが教室に入り込みやすい。現在の社会にある「男女不平等な既成概念」すなわち「ジェンダー・バイアス」の影響を受けやすいのだ。

しかし、男女別学校にはジェンダー・バイアスが入り込む余地がない。無理に男らしく振る舞う必要も、無理に女らしく振る舞う必要もない。

このことは、卒業後の進路にも影響を与える。イギリスの国立教育調査財団の調査によれば、「女子校では、女性らしい教科や男性らしい教科という固定概念にとらわれにくい」とのこと。日本でも、多くの女子校で、理系に進む生徒の割合が、世間一般のリケジョの割合よりも多い。

男女別学校においては、男女ともに成績が向上しやすいだけでなく、「ジェンダー・バイアス・フリー」でもあるのだ。

男 女別学か共学かの議論は、ジェンダー論だととらえられがちが、実はこの議論を突き詰めていくと「学校にどこまでの機能を求めるのか」という話に行き着く。 もともとは大家族や地域社会が担ってきた、異性とのコミュニケーション能力育成の場としての役割を、学校がそっくりそのまま引き受けるべきなのかどうか。 これは社会が学校に求める機能に関する問題であり、本来ジェンダー論とは別次元の議論されるべき事柄だ。

また、「これからは多様性の時代。同性だけの集団で学ぶことは時代に即さない」という表層的な論理を盾に、男女別学校の存在を否定するような風潮こそ「教育の多様性を損なう」という矛盾も指摘しておきたい。

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おおた としまさ
教育ジャーナリスト
麻 布高校卒業、東京外国語大学中退、上智大学卒業。リクルートから独立後、数々の教育誌の企画・監修に携わる。中高の教員免許、小学校での教員経 験、心理カウンセラーの資格もある。著書は『名門校とは何か? 人生を変える学舎の条件』『男子校という選択』『女子校という選択』『進学塾という選択』など多数。

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(教育ジャーナリスト おおた としまさ=文)

 

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