握らないおにぎり。回らない回転寿司。本棚のない書店。これらが何か分かりますか?
はい、どれも物事の「大前提」をひっくり返して生まれたヒット作なんです。
こんにちは、電通Bチームの中島英太です。Bチームは、企業などが抱えるさまざまな課題を通常とは異なる「B面」のアプローチで解決する方法を考えています。
今回は新しいアイデアを生むための発想法「大前提ひっくり返し」を紹介します。
物事の「大前提」をひっくり返すと新しいモノや価値が生まれる
Bチームでは、普段から世の中の面白い事例を集めています。
3年前、僕は新潟県の北越急行が走らせている列車「超低速スノータートル」のことを知りました。通常なら約1時間しかかからない距離を、あえて約4時間もかけて走る、“超低速列車”です(だからタートル=亀)。
このスノータートル、「景色を存分に堪能できる!」「トンネルや橋の構造がよく観察できる!」と、鉄道ファンの間で大いに話題になりました。できるだけ早く目的地に到達するために存在するという鉄道の「大前提」をひっくり返したことが、僕は面白いと感じました。
そこで、そんな“ひっくり返しの事例”が他にもないか探してみたのです。
・握らないおにぎり「おにぎらず」
握らないので手が汚れず、ヤケドの心配もナシ。しかもさまざまな具が載せられるなど、おにぎりにはないメリットが生まれて大ヒットし、レシピ本も多数発売されました。 ご存じ「おにぎらず」。握ってつくるというおにぎりの「大前提」をひっくり返した、画期的なアイデア。
・フロアに音が流れない「サイレントディスコ」
「大音量の音楽を流しながら踊る」というディスコの大前提をひっくり返しました。無音空間で客がヘッドフォンをし、みんなで同じ曲を共有しながら踊るので、どこでも開催できるのが魅力です。
他にも、タッチパネルで注文した寿司が直線レーンで客の元に届く「回らない回転寿司」や、たった一冊の本しか売らない、「本棚のない書店」も話題になりました。
このようにモノ・コトの「大前提」をひっくり返すことで、新しいモノや新しい価値を生み出す手法を、僕たちBチームは「ひっくり返し技」と名付けました。この技は、小学生でもできる一番簡単なアイデア発想法だと思います。
ひっくり返しの難易度とインパクトは比例する
「ひっくり返し技」にはコツがあり、ひっくり返す難易度が高いものほど、うまくひっくり返せた時のインパクトが強くなります。以下の図をご覧ください。
例えばおにぎりには「のりを巻く」「ごはんでつくる」「握ってつくる」といった「前提」があります。
この中で「のりを巻く」という前提をひっくり返しても、すでにのりを使わない塩むすびのようなものがあるので、あまりインパクトはありません。これはいわば「小前提」です。
次に、「ごはんでつくる」という前提は、ごはんの代わりになる素材を考えなければいけないので、ひっくり返しの難易度が少し上がります。その分、例えば「ごはんではなく豆や豆腐でつくる」というアイデアが浮かべば、炭水化物をカットしてヘルシーという価値が生まれるかもしれませんね。おにぎりの「中前提」といったところでしょう。
そしてさらに思い切って、「握ってつくる」という、ひっくり返すのが最も難しい「大前提」をうまくひっくり返すと、「おにぎらず」のようなインパクトの大きいモノが生まれます。
さまざまな前提の洗い出しは理屈で考える作業ですが、その中のどれをどうひっくり返すか発想するのには、ひらめき、右脳の力が必要です。最初は左脳でロジカルに考えて、最後は右脳でジャンプすることで、新たな価値が生まれるのです。
ワークショップで、「お化け屋敷」をひっくり返してみた!
Bチームでは、2018年12月に六本木アカデミーヒルズで「ひっくり返し技」のセミナーを行いました。スペシャルゲストは「離婚式」や「涙活」などひっくり返し技の達人である寺井広樹さん。ワークショップのテーマは「お化け屋敷」です。
参加者が山手線ゲームの要領でどんどん「お化け屋敷の大前提」を挙げていく「大前提ゲーム」を行い、全く新しいお化け屋敷のアイデアを生み出しました。
1.山手線ゲームの要領で、「お化け屋敷」の前提となる要素をみんなで洗い出す
みんなで手拍子をしながら、順番に「お化け屋敷の前提」をテンポよく挙げていきます。
【お化け屋敷の前提】
・お化けが出る
・怖い
・カップルでよく行く
・暗い
・ビックリする……
2.前提をひっくり返し、さらに展開して深掘り
たくさん出てきた前提を一度みんなで吟味し、「ひっくり返すと面白いアイデアが生まれそうなもの」をピックアップします。前提を一度ひっくり返したら、そこからさらに展開してアイデアを深めるのがポイントです。
最終的に以下のような「大前提をひっくり返したお化け屋敷」のアイデアが、参加者から発表されました。
■「お化けアイランド」
寂れて閉鎖的なお化け屋敷のイメージを一新。無人島の高級リゾートをまるごとお化け屋敷に。美しい景色を眺め、美味しい料理を食べてくつろげます。えっ、お化けはどこ…?のんびりくつろいでいるところに、突然お化けが現れます。
■「お化けよりも怖い人間屋敷」
「お化けの怖さを味わう場所」という前提をひっくり返した、人間の怖さが味わえるお化け屋敷。屋敷内には、男女関係の怖い実話に基づいた展示物がたくさん。また、「二人のうち一人しか助からない仕掛け」を用意し、人間の怖さをパートナーに味わわせることができます。別れたいと思っているカップルはぜひお越しください。
■「お化けが出ないお化け屋敷」
お化け屋敷にお化けは付きものと思いきや、風と音で恐怖をあおりつつも、最後まで何も出てこない屋敷。見どころは出口に設置されたモニター映像。屋敷に入った人をカメラがずっと撮影しています。「何か出てくるんじゃないか…」と怯える自分たちの怖そうな顔の映像が売りのシュールなお化け屋敷です。
■「お化け相談屋敷」
「お化けは怖いもの」という前提をひっくり返し、お化けの温かみに触れられるアトラクション。疲れた社会人の駆け込み屋敷という位置づけで、悩みに応じていろいろなお化けが人生相談にのってくれます。屋敷を出る時には悩みが解消。
ワークショップでは他にも斬新なアイデアがたくさん出ました。Bチームでは今後もさらにこの発想法をブラッシュアップしていければと思います。
この「ひっくり返す」という発想法は、広告づくりのアイデア出しにおける定番手法でもあります。最後に一つエピソードを。
10年ほど前、テレビCMではウェブサイトへ視聴者を呼び込むために「〇〇で検索してください」というおきまりのフレーズが定着し始めていました。そんな中、ある新雑誌のCMを企画することになった僕は、あえて「〇〇で検索しないでください」をつかみのコピーにしたのです。
ウェブサイトに来てほしいから「検索してください」。これだけでは実際に検索してもらうのは難しいですが、あえて「検索しないでください」とひっくり返したことで逆に視聴者の興味を引き、多くの視聴者に検索してもらうことに成功しました。
アイデアが煮詰まってしまった時などにおすすめの「ひっくり返し技」。まさに、ちゃぶ台をひっくり返す勢いで物事の前提を逆転させてみると、自分でも思ってもみなかったインパクトのあるアイデアが生まれてきます。
さらなるコツは…Bチームまでご連絡ください!