ゼロ成長の続く日本と異なり、毎年6~7%台の経済成長を続けるインド。進出をもくろむ日本企業は多いが、インド人経営者から取引を拒まれるケースが増えているという。インドでコンサルティング会社を経営する野瀬大樹氏は「ほかの国に比べて、日本企業は判断や動きがひどく遅く、毛嫌いされている」という――。
※本稿は、野瀬大樹『お金儲けは「インド式」に学べ!』(ビジネス社)の一部を再編集したものです。
インド在住の公認会計士が目撃した、現地の残念な日本企業
私がインドで会社を立ち上げて、ビジネスをしていると日本人に言うと、たいていこんな感じで返される。
「え、インド! 大変ですね! 暑いんですよね? 水とか大丈夫ですか? たしか牛肉は食べられないんですよね?」
実は、このような生活面においては、特に何の問題もない。水はミネラルウォーターならどこでも手に入れられるし、1年中真夏日というわけでもない(ただし、あのマクドナルドでもビーフが食べられないのは事実だが……)。
では、インドで生きていくうえで一体、何が大変なのか。実際のところ一番キツイのは、社内外での「インド人とのやり取り」だ。彼らのマインド、仕事の進め方は、当たり前といえば当たり前だが、日本人とはまるっきり違う。そういった個人個人間のギャップに、いちいち対応しなければならないのが、とても大変なのだ。
ここ3、4年、風向きが変わってきた
インド人ビジネスマンに対する皆さんのイメージは、どのようなものだろうか。おそらく、よくいえば非常にアグレッシブ、悪くいえば「前のめり」「ガツガツ、オラオラ」な人が多いというものだろう。
で、事実そのとおり。日本企業との合弁事業を提案として持っていくと、目を輝かせて「やろう、やろう!」と、その場で即答されることが多い。当然、そこから出資比率や役員数など重要なことを詰めていく。
そして、どんなときでも彼らが口にする言葉は、
「いいね!」
皆、満面の笑みで外国企業と取引できることを大喜びし、ビジネスが成立するのだ。ところが、ここ3、4年、このような風向きが少し変わってきたように感じる。
現地企業の経営者=富裕層は「日本企業とは取引したくない」理由
4年ほど前、日系企業がインドでジョイントベンチャーを一緒に立ち上げるインド企業を探していたので、何社か現地の企業をピックアップしてコンタクトをとってみた。
最初に会うことになったのは、地元の州ではそこそこの規模を誇っている企業だ。もちろん、経営者たちはインドでは確実に「富裕層」に該当する。
当然、ノリノリのハイテンションで話に乗ってくると思いきや、
「日本企業とは取引したくない」
と、非常にローテンションなトーンで言われてしまったのだ。しかも、このようなケースが目立ち始めている。
これは、現地の不動産ブローカーと交渉する際も同じ。
インドで製造業を立ち上げる際、当然、まずは工場用地を探さなければならない。しかし、日本のようにインフラが整備されているわけではないインドで、工場に適した土地を探すのは一苦労だ。
そのためには、いいロケーションの土地をインド人ブローカーから紹介してもらわなければならない。ところが、私が紹介しようとしているクライアントが日本企業だと知ったとたん、急にやる気をなくす事例がぽつぽつ出てきている。
「何ごとも遅いから、待っていられないんだよ」
一体、「日本企業が敬遠される」理由は何なのだろうか。私は知人のインド人ビジネスマンにその理由を聞いてみたところ、返ってきた答えはきわめてシンプルなものだった。
「とにかく日本企業は何ごとも遅いから、待っていられないんだよ」
「ジョイントベンチャーで新しい会社を共同で立ち上げよう!」という話が盛り上がっても、当然すぐに「OK!」とはならない。まず、合弁計画を本社で何カ月も協議。そして、予算を組み取締役会を通すことになる。
もちろん、この段階で「GO!」とはならない。すべての役員間での調整が済んで初めて、ようやく実際の条件交渉に突入。そこで話がまとまったとしても、まだまだ終わりではないから、インド人にはたまらない。
条件交渉が妥結したらしたで、今度は契約書ドラフトのレビューとなり、本社法務部での気が遠くなるほど長い回覧作業が待ち受けているのだ……。
さんざん待たせた上に「今回はやっぱりやめにしときます」
しかも、それでビジネスがスタートするのなら、まだマシかもしれない。
何度も何度もミーティングを重ねて、インド側企業は質問を受けて、調査もさんざん受けたにもかかわらず、最後に、
「いやー、今回はやっぱりやめにしときます」
などというケースも実際に多々ある。もちろん、そうなった際の「前のめり」なインド人実業家のガッカリ感たるや相当なものであることなど、いうまでもない。
インド進出したい企業は世界中にヤマほどある
ゼロ成長が続く日本と異なり、毎年6~7%台の経済成長を続けるインドに進出したい企業は世界中にヤマほどある。たとえるならインドは、「オレとつき合ってくれ!」と言い寄る男性があとを絶たない、何ともいいようのない魅力を持つ女性のようなもの(このたとえ、もちろん男女逆でもかまわない)。
で、そんなライバルが大勢狙っている異性を前にしているのに、
「いやぁ、ちょっと待って。まずは姓名判断をして、あとはうちの両親に相談をしないと。あ、ボクはおばあちゃん子だから、おばあちゃんの了解もほしいな」
と言っていたらどうなるだろうか。当然、選択肢がたくさんあるその魅力的な女性は、すぐに別のイケてる男性のもとに走ってしまうに決まっている。
とにかく、インド側の富裕層やビジネスパーソンの間では「日本企業は動きが遅い」、言い換えると「メンドくさい」という見解が広がりつつあるということだ。野瀬 大樹(のせ・ひろき)